公務員と交通違反

近年では地方議会の議員が無免許運転をしていたことが発覚して大きな非難を浴びるなど、公務員による交通法規の違反がしばしば問題となっています。

公務員が交通違反をした場合、その内容によっては刑事事件として捜査・裁判の対象となり、また所属する官庁から重い懲戒処分を下される可能性があります。

ここでは、公務員と交通違反について解説します。

公務員と交通法規違反

交通法規は誰もが守るべきものですが、公務員の場合、「全体の奉仕者」として法令を遵守しなければならない立場であるため、その交通法規違反はより強い非難に値するでしょう。公務員の懲戒処分の根拠となる「非違行為」の典型例としても交通法規違反があげられています。

交通違反と報道

交通事故や交通法規違反があったとしても、これが報道されるかどうかは、違反者の属性や事件の重大性などを考慮して報道機関が判断します。交通違反者が公務員だからといって、当然に報道されるわけではありません。もっとも、公務員は「全体の奉仕者」としてみられているのですから、交通違反が発覚した場合は強い非難を受けることになります。

重い懲戒処分

交通法規違反が重大な場合、免許停止などの行政処分を受けますが、公務員の場合、これとは別に所属する官庁より懲戒処分を受ける可能性があります。

公務員の交通法規違反は、人事院の定める「懲戒処分の指針」の標準例にも掲げられている、典型的な非違行為であり、懲戒処分を受ける可能性は高いといえます。特に飲酒運転(道路交通法65条1項)と交通事故後の措置義務違反(道路交通法72条1項前段)に対しては、重い処分が下されます。飲酒運転は自己のみならず一般市民の生命・身体・財産に重大な危険を招きかねない運転ですので、国民・市民の模範たるべき公務員としては強く非難される行動です。また、措置義務違反は、交通事故を起こしても救護等をせずにその場を立ち去る行為であり、全体の奉仕者たる公務員の立場に反する行為といえます。

人事院の「懲戒処分の指針」によれば、酒酔い運転はそれだけで免職又は停職という重い処分ですし、これにより人を死傷させた場合、必ず免職処分が下されます。酒気帯び運転をした職員は、免職、停職又は減給とされ、免職の可能性もあります。人を死傷させた場合は、免職又は停職とされます。事故後の救護を怠るなどの措置義務違反もした場合は、必ず免職となります。また、飲酒運転をした公務員に対し、運転した車両を提供したり、酒類を提供したり、飲酒を勧めたり、飲酒したことを知りながら同乗した公務員も、飲酒運転をした本人に対する処分や飲酒運転への関与の程度等を考慮して、懲戒処分が下されます。

飲酒運転以外の交通法規違反であっても、人身事故や著しい速度超過等の悪質な交通法規違反に対しては、懲戒処分が下されます。措置義務違反をしていた場合、さらに重い処分が下されます。

懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)

第2 標準例

4 飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係

(1) 飲酒運転

ア 酒酔い運転をした職員は、免職又は停職とする。この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせた職員は、免職とする。

イ 酒気帯び運転をした職員は、免職、停職又は減給とする。この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせた職員は、免職又は停職(事故後の救護を怠る等の措置義務違反をした職員は、免職)とする。

ウ 飲酒運転をした職員に対し、車両若しくは酒類を提供し、若しくは飲酒をすすめた職員又は職員の飲酒を知りながら当該職員が運転する車両に同乗した職員は、飲酒運転をした職員に対する処分量定、当該飲酒運転への関与の程度等を考慮して、免職、停職、減給又は戒告とする。

(2) 飲酒運転以外での交通事故(人身事故を伴うもの)

ア 人を死亡させ、又は重篤な傷害を負わせた職員は、免職、停職又は減給とする。この場合において措置義務違反をした職員は、免職又は停職とする。

イ 人に傷害を負わせた職員は、減給又は戒告とする。この場合において措置義務違反をした職員は、停職又は減給とする。

(3) 飲酒運転以外の交通法規違反

 著しい速度超過等の悪質な交通法規違反をした職員は、停職、減給又は戒告とする。この場合において物の損壊に係る交通事故を起こして措置義務違反をした職員は、停職又は減給とする。

(注) 処分を行うに際しては、過失の程度や事故後の対応等も情状として考慮の上判断するものとする。

参考

人事院 懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)

https://www.jinji.go.jp/kisya/1609/1202000_H12shokushoku68.html

なお、本稿では議員の交通違反をあげていますが、これらの国会議員、地方議会議員には国家公務員法や地方公務員法の適用はなく、また議員は独立した存在であり、これに対する懲戒は各議会の権限ですので、一般の国家公務員や地方公務員のような懲戒処分は受けません。それぞれの議会において辞職勧告決議などにより議員自らの身を処することを求められます。議会としての処分は、公務員のような一般的な指針ではなくそれぞれの議会で判断されます。国会議員、地方議会議員とも、議員の身分は強く保障されており、除名処分といった議員の地位を剥奪するような重い処分は、他の議員の多数の同意が必要となります。国会議員の場合は出席議員の3分の2以上の多数による同意が必要になります(国会法122条4号・憲法58条2項)。地方議会議員の場合は、議会の議員の3分の2以上の者が出席し、その4分の3以上の者の同意が必要となります(地方自治法135条1項4号・3項。。死亡事故や飲酒運転など重大な交通法規違反について刑事裁判で有罪判決が下されるような状況でない限り行われないでしょう。

刑事手続との関係

交通違反が刑事事件として捜査されている間でも、就業は可能です。事件発生後の捜査中も仕事を続けることができます。刑事事件として捜査されるような交通法規違反でも、多くの場合は、刑事事件については略式手続により罰金のみで終了することもあります。

しかしながら、公判請求された場合、公務員だと強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。

そして、裁判の結果、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。

国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国家公務員法第85条)。そのため、重大な事件では判決が出る前に懲戒手続がすすめられ、懲戒処分が下されることがあります。

議員の場合は、公職選挙法では禁錮以上の刑に処された者は選挙権・被選挙権を喪失する(公職選挙法11条1項2号)と定められており、被選挙権を失った場合職を失います(国会法109条、地方自治法127条1項)ので、議会から除名されなかったとしても禁錮以上の刑に処された場合は議員の地位を失うことになります。。

参照

国家公務員法

(刑事裁判との関係)

第八十五条 懲戒に付せらるべき事件が、刑事裁判所に係属する間においても、人事院又は人事院の承認を経て任命権者は、同一事件について、適宜に、懲戒手続を進めることができる。この法律による懲戒処分は、当該職員が、同一又は関連の事件に関し、重ねて刑事上の訴追を受けることを妨げない。

まとめ

このように、公務員が交通法規違反をすると懲戒処分を受ける可能性があります。とくに、飲酒運転や救護等の措置義務違反があったときには、職を失う可能性が高まります。

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