Archive for the ‘汚職’ Category

公務員の汚職の罪-警察官が勾留中の女性に抱きつくなどした事件を基に特別公務員暴行陵虐罪について解説

2024-03-25

【事例】

勾留中の30代女性に抱きつくなどしたとして、千葉県警は15日、特別公務員暴行陵虐の疑いで当時船橋署留置管理課に勤務していた男性警部補(54)を書類送検し、減給100分の10(6カ月)の懲戒処分とした。警部補は同日依願退職した。県警で今年、懲戒処分を受けた職員は3人目。

 書類送検容疑は昨年11月上旬ごろ、同署留置施設内で、勾留中の女性に抱きつき、12月13日には護送中の車内で同じ女性の手を握った疑い。

 県警監察官室によると、警部補は留置管理施設内で、女性が居室外のロッカーに着衣をしまう際、後ろから抱きついた。手を握った際、警部補は隣に座っていた。いずれも複数人で業務を行っている中で行われたが気付いた人はいなかった。

 1月下旬、女性から留置業務の担当官に申告があり発覚した。県警の調べに対し警部補は対応する中で特別な感情を抱いてしまったとしている。警部補は2月、本部警務課に異動になった。警部補は「このような行為を行い、関係者や警察組織に申し訳ない気持ちでいっぱい。職を辞して責任を取る」と話している。

 同室の首席監察官は「被留置者の適切な処遇を行うべき警察官が、このような行為に及んだことは警察業務の信頼を損なうもので誠に遺憾。被害者と県民に深くおわび申し上げる」とコメントした。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8ffbce62e93eb5f676e2e0a6a2e0891b2ca8e060

千葉日報3/17(金)15:37配信

(個人名などを修正しています)

公務員の中でも裁判官や検察官、警察官は逮捕のように国民の権利利益を強制的に制約する公権力の行使をも行うことができます。このような公務員がその職権を濫用すれば、公務の適正が害され、公務に対する国民の信頼も損なわれてしまいます。そのため、公務員が職権を濫用して汚職をすることに対しては、重い刑罰が科されます。

汚職の罪には贈収賄罪も含まれますが、これらは公務の適正とそれに対する国民の信頼を脅かすものです。一方、人を逮捕するなど身体拘束をする権限を有する者が、その権限を悪用して暴行やわいせつ行為を行う罪が特別公務員暴行陵虐罪です。

特別公務員暴行陵虐罪

裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、特別公務員暴行陵虐罪が成立し、7年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法第195条第1項)。法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、同様に処罰されます(刑法第195条第2項)。

第1項の罪の主体も、特別公務員職権濫用罪と同じく、裁判官、検察官、検察事務官、警察官、裁判所書記官などが該当しますが、人を逮捕監禁する権限を有しない者も対象になります。

暴行とは暴行罪などと同じく身体に対する不法な有形力の行使をいいます。

陵辱とは辱める行為や精神的に苦痛を与える行為、加虐とは苦しめる行為や身体に対する直接の有形力の行使以外の肉体的な苦痛を加える行為などをいいます。わいせつ行為など、暴行以外の方法で精神的又は肉体的に苦痛を与える行為が該当します。

第2項の「法令により拘禁された者」とは、逮捕や勾留されている者など、法令上の規定に基づいて公権力により拘禁されている者をいいます。このような者を「看取又は護送する者」が本罪の主体となります。

【事例】では警部補が勾留中の女性に抱きつくなどしており、特別公務員暴行陵虐罪が成立します。

特別公務員暴行陵虐罪を犯し、よって人を死傷させた場合は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断されます(刑法第196条)。

傷害罪は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金(刑法第204条)、傷害致死罪は3年以上の有期懲役(刑法第205条)に処されます。したがって、致傷罪は1月以上15年以下の懲役、致死罪は3年以上20年以下の懲役となります。

懲戒処分

特別公務員暴行陵虐罪は相当重い罪で、公務員への信頼を大きく損ねかねないことですが、懲戒処分の指針では、特別公務員暴行陵虐罪に当たる非違行為をした場合は挙げられていないところが見受けられます。このような行政庁では、暴行やわいせつをした場合の基準を参照して処分が決められるものと考えられます。

参考

人事院「懲戒処分の指針について」

https://www.jinji.go.jp/seisaku/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html

こちらの記事もご覧ください

汚職の罪

おわりに

以上のように、特別公務員暴行陵虐事件は刑事・懲戒とも重い処分を科される可能性が高いです。そのため、早期に弁護士に相談して対応を決めるべきです。

特別公務員暴行陵虐事件でお悩みの方は、あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

東京オリンピックの汚職事件-組織員会理事が収賄罪で起訴された事件で問題となる賄賂について解説

2023-12-11

東京オリンピックのテスト大会の受注企業が談合したとして多くの関係者が逮捕・起訴された事件や、IOC委員への贈答品疑惑など、東京オリンピックをめぐる汚職事件はまだ終わりそうにありません。日本において最初に捜査が始まったのは組織委理事の関与する贈収賄で、組織委理事や大企業の幹部が逮捕され、起訴されました。また、元総理大臣をはじめ多くの人々が事情聴取を受けたとされています。その中では様々な人や組織から利益が提供されています。ここでは、何が賄賂に当たるかについて解説します。

「賄賂」とは

刑法第197条以下に規定される「賄賂」は、公務員の職務行為と対価関係にある利益を言います。この対価関係は、職務行為に対するものであれば足り、個々の職務行為と賄賂との間に対価関係のあることは必要とされていません(昭和33年9月30日最高裁第三小法廷判決)。職務に関するものであれば、交付時期や利益の多寡にかかわらず、賄賂となります。

賄賂の内容は金銭に限られず、人の欲望や需要を満たす一切の利益が含まれます。判例では、芸妓の演芸や、酒食の饗応、異性間の情交、公私の職務等の有利な地位の保証、株式の取得の利益、など、様々なものが賄賂と認定されています。このような利益を公務員に提供すれば公務員の職務の公正は害され、あるいは公務員の職務の公正に対する社会の信頼は損なわれてしまうため、処罰する必要があります。

職務行為との対価

名目が委託費用など別のものであっても、公務員の職務行為と対価関係にある利益であれば賄賂に該当します。

東京オリンピックの贈収賄事件についても、既に元理事に賄賂を供与したとして起訴されていた者についての判決(東京地裁令和5年7月12日判決)によれば、元理事が代表取締役を務める会社との間のコンサルティング契約に基づき毎月のコンサルティングフィーを支払う形で行われたことについて、賄賂に該当することを前提に、被告人が違法性の認識を有していたかについて検討しています。

一方で、賄賂は職務行為との対価である必要がありますので、職務とは無関係な利益の提供は賄賂には当たりません。参考人として聴取を受けた元総理大臣は贈賄で有罪判決を受けた企業幹部の属する会社から現金の提供を受けたという報道がありましたが、これは病気に対する見舞金の可能性もあると言われていました。

また、単なる社交儀礼上の贈答は「賄賂」にあたりません。

賄賂に当たるか

「賄賂」に該当することも犯罪を構成する事実ですので、検察官が証明する必要があります。証明の程度は、合理的な疑いを超えるものでなければなりません。職務と関係ないものである可能性や社交儀礼の趣旨で贈られた可能性があれば、有罪とすることはできません。

先ほど、職務に関するものであれば、交付時期や利益の多寡にかかわらず、賄賂となると書きましたが、そもそも職務に関するかどうかを判断するにあたって、交付時期や利益の多寡にも注目せざるを得ません。その他、当事者の従前の関係や他にそのような利益を提供される理由があったといえるかどうかなどが考慮されます。

東京オリンピック組織委員会元理事は、コンサル契約に基づいてコンサル料が支払われたもので賄賂ではないと主張しているそうですが、これまでの収支はどうであったか、コンサル依頼があったとしてもそれ自体職務に関係するものか、依頼があった後の活動実態はどうだったか、などを考慮して、賄賂かどうかが判断されるでしょう。

贈収賄事件についてはこちらの記事もご覧ください。

賄賂罪

まとめ

このように、事件によっては自身が受け取ったものが「賄賂」となるのかが重大な問題となります。ご自身の行ったことが収賄にあたるかどうかお悩みの方は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

東京オリンピックの汚職事件-組織員会理事がみなし公務員として収賄罪で起訴された事件について解説

2023-12-07

東京オリンピックのテスト大会の受注企業が談合したとして多くの関係者が逮捕・起訴された事件や、IOC委員への贈答品疑惑など、東京オリンピックをめぐる汚職事件はまだ終わりそうにありません。日本において最初に捜査が始まったのは組織委理事の関与する贈収賄で、組織委理事や大企業の幹部が逮捕され、起訴されました。オリンピック組織委員会自体は民間団体とされていますが、ここでは、組織委理事の行為が収賄に問われている理由について解説します。

「公務員」に当たるか

刑法第197条第1項は、「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。」と定めています。

この「公務員」については、刑法第7条第1項に定められています。同条項では「この法律において『公務員』とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。」と定められています。

「法令」には、法律や条例だけでなく、行政内部の通達や訓令も含まれます。

「公務に従事する」とは、職務権限の定めがある必要はなく、その公務に従事する資格が上記の「法令」に根拠を有し、これにより公務を行うことをいいます。

「公務」は必ずしも公権力の行使など強制力を行使するものに限られません。

「議員、委員、その他の職員」が刑法上の公務員に当たり、単に機械的、肉体的な業務に従事する者は含まれません。「議員」は国会議員や地方議会の議員、「委員」とは、国又は地方公共団体において任命、委嘱、選挙等により一定の事務を委任・嘱託される非常勤の者をいいます。「その他の職員」とは、議員、委員のほか、国又は地方公共団体の期間として公務に従事するすべての者をいいます。

刑法第7条にこのように定義されているほか、特別法では、その職務の性質を鑑みて、刑法やその他の罰則については公務員とみなす規定が設けられています。これを「みなし公務員規定」といいます。

オリンピックの組織委員会の役員や職員についても、次のように「みなし公務員規定」が定められています。

令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法

(組織委員会の役員及び職員の地位)

第二十八条 組織委員会の役員及び職員は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。

この規定により、組織員会の理事も「法令により公務に従事する職員」すなわち公務員として扱われます。

刑法第7条やみなし公務員規定により「公務員」に当たる者が賄賂罪に該当する行為を行えば、この罪に問われます。

なお、報道によれば、起訴された元理事はみなし公務員だとは知らなかった旨供述していたとのことです。しかしながら、法律を知らなかったとしても、そのことによって罪を犯す意思がなかったとすることはできないと定められています(刑法第38条第1項)。犯罪の成立には故意が必要ですが、故意とは犯罪事実(構成要件該当事実)を認識・認容していたことをいいます。

自身が「みなし公務員」であるという犯罪事実を認識・認容していたといえるためには、自分がどのような職業についているかを認識・認容していたかが重要となります。

公共サービス改革法の公共サービスに従事していた者が「みなし公務員」として収賄の罪に問われた事件(神戸地裁令和元年7月5日判決)では、国家公務員倫理教本を教材とした講習が行われるなどしてみなし公務員となる実質的根拠となる事実を認識していたと認められるから、収賄罪の主体としての立場に関する故意に欠けることはないとされました。

東京オリンピックの贈収賄事件についても、既に元理事に賄賂を供与したとして起訴されていた者についての判決(東京地裁令和5年7月12日判決)によれば、「組織委員会が公益財団と認定され、多くの公的な資金や人員(公務員)が投入されていたことは周知の事実であり、被告人において、同大会に係る特別措置法のみなし公務員規定を知っていたか否かにかかわらず、組織委員会の理事が公的立場にあり、その職務に関して金銭の支払をすれば違法の評価を受けることは当然に認識し得たといえる。」とされています。

贈収賄事件についてはこちらの記事もご覧ください。

賄賂罪

まとめ

このように、事件によっては自身が「みなし公務員」となるのか、故意があったといえるのかが重大な問題となります。ご自身の行ったことが収賄にあたるかどうかお悩みの方は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

公務員の職種と成立する犯罪の違いー公務員の職種により成立するかどうかが決まる犯罪について解説

2023-11-20

一口に公務員といっても、法律によって認められている権限が異なるなど様々な種類があります。ここでは、公務員の職種によって成立する犯罪について解説します。

公務員の種類

公務員によって成立する犯罪が異なる場合、公務員の名称ではなく認められている権限によって決められます。

特別公務員職権濫用罪、特別公務員暴行陵虐罪、特別公務員職権濫用等致死傷罪

裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、6月以上10年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法第194条)。また、これらの者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、7年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法第195条1項)。法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、同様に処罰されます(刑法第195条2項)。

これらの罪を犯し、よって人を死傷させた場合は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断されます(刑法第196条)。

これらの罪の主体は、公務員全般ではなく、裁判官、検察官、検察事務官、警察官、のほか、裁判所書記官などに限られます。

これらの公務員は刑事司法に関して職務上逮捕等により人を拘束する権限を有しています。このような職権を濫用することは害悪が甚大であるため、逮捕監禁罪(刑法第220条。3月以上7年以下の懲役)よりも刑罰が重くなっています。

税関職員によるあへん煙輸入等罪

税関職員が、あへん煙又はあへん煙を吸食するための器具を購入し、又はこれらの輸入を許したときは、1年以上10年以下の懲役に処されます(刑法第138条)。

この「税関職員」は、税関において勤務する職員のすべてを差すのではなく、税関において輸入に関する事務に従事する公務員であると解されています。

虚偽診断書等作成罪、秘密漏示罪

医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡診断書に虚偽の記載をしたときは、3年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処されます(刑法第160条)。また、医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を洩らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処されます(刑法第134条第1項)。

国公立病院の医師は、公務員にあたりますが、公務員であっても他の資格で業務に従事する者は、各法令により処罰されます。

なお、秘密漏示については、公務員であればそもそも公務員としての守秘義務を負っています(国家公務員法第100条第1項、地方公務員法第34条第1項)。これらに違反すると、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処され(国家公務員法第109条第12号、地方公務員法第60条第2号)、秘密漏示罪より重く処罰されます。そのため、秘密漏示罪ではなくこれらの罪により処罰されることになります。。

身分のない者による共犯

以上に述べたような公務員でないからといって、全く犯罪が成立しないとはいえません。

刑法第65条は、「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。」と定められています。法律上定められた公務員の職種でなくても、実行行為を分担したとか、分け前に預かったような場合、共犯者となり、定められた身分を持つ者と同様に処罰されます。

公務員の身分によって成立する犯罪については、こちらもご覧ください

汚職の罪

まとめ

以上のように、公務員の職種によって、成立する犯罪が異なることがあります。ご自身の行った行為が犯罪にあたるかどうか不安の方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

加重収賄罪と弁護活動-加重収賄罪の意味、加重収賄罪が疑われたときの弁護活動、懲戒処分

2023-11-16

【事例(フィクション)】

県職員として勤務する公務員のAさんは、所属部署の仕事を通じて親しくなった業者に、県の内部資料を横流しし、その謝礼として高級飲食店で接待を受けたという容疑で逮捕されました。

Aさんに前科前歴はありません。

【加重収賄罪とは】

公務員特有の犯罪として、加重収賄罪というものがあります。

公務員が、その職務上不正な行為をしたことに関し、賄賂を収受したときは、加重収賄罪として、1年以上の懲役に処されます(刑法197条の3第2項)。

事例の容疑でいうと、県の内部資料の横流しは県職員の職務上不正な行為ですし、その後謝礼として受けた高級飲食店での接待は賄賂にあたるので、Aさんがその後起訴されて有罪判決となれば、加重収賄罪の刑罰を受けることになります。

加重収賄罪以外の贈収賄事件や汚職事件についてはこちらをご覧ください。
汚職の罪

賄賂罪

【弁護活動】

賄賂を受け取ったという犯罪には、賄賂を渡すという贈賄をした人も必ず存在し、両者間での口裏合わせその他の罪証隠滅行為を懸念し、裁判所が勾留決定をすることが多いです。

事案の性質上、被疑者の方の早期の身柄解放はなかなか難しいことが多いですが、起訴後の保釈請求等、弁護士としては身柄解放の努力をしていくこととなります。

また、逮捕勾留されやすく、身体拘束下で取調べがされることが多い犯罪であるからこそ、こまめに接見をして取調べ対応について適切なアドバイスをする弁護士の存在は必要不可欠です。

起訴された場合の公判活動については、被告人の方が加重収賄をしたことに間違いないのであれば、酌んでもらうべき情状を弁護士がしっかり主張し、執行猶予や減刑を目指します。

事例の場合であれば、横流しされた内部資料の重要性や、実際に県に生じた不利益の程度等にもよりますが、一般的には、事案の中で悪質ではない点、県への被害弁償の努力、失職等の社会的制裁を受けたこと、情状証人による監督の約束等の情状面をしっかり主張立証して、執行猶予を求める方針になろうかと思います。

一方、加重収賄罪にあたることを争う場合、例えば自分は内部資料の横流しをしていないとして無罪を主張する場合は、弁護士において証拠を精査し、関係者の証言の穴を突いたり、被告人にとって有利な事実を主張立証し、冤罪を阻止することを目指します。

【刑罰以外の処分等】

公務員の方は、起訴されると、休職をさせられることがあります(地方公務員法28条2項2号、国家公務員法79条2号)。

そして起訴され、有罪判決で禁錮以上の刑となれば、執行猶予が付いたとしても、失職することになります(地方公務員法28条4項・16条1号、国家公務員法76条・38条1号)。

事例の場合、加重収賄罪には懲役という禁固以上の刑しかないので、有罪判決なら失職となります。

また、公務員の方が犯罪にあたる行為をすると、刑事罰とは別に懲戒処分を受けることにもなります。

懲戒処分は、重い順に、免職、停職、減給、戒告と種類があります。

事例のような加重収賄罪にあたる行為をしてしまった場合は、懲戒免職は避けられないでしょう。

もっとも、冤罪の場合は、嫌疑不十分の不起訴や無罪判決を得られれば、懲戒免職を避けられる可能性があります(判断者が異なるので一概には言えませんが。)。

懲戒処分についてはこちらもご覧ください。

公務員の懲戒処分

【おわりに】

加重収賄罪は、一般的に、国民・住民の公務員への信用を大きく損なう重大事件として扱われており、同罪の疑いをかけられた被疑者・被告人の方は、身体拘束、刑事罰、懲戒処分等のリスクは非常に大きいといえます。

こういったリスクを回避・軽減するためには、弁護士による適切なアドバイスや活動が必要です。

実際に加重収賄行為をしてしまった方も、冤罪の方も、できるだけ早めに弁護士に相談することをおすすめします。

公務が違法になったとき

2023-10-16

公務員の公務の中には、特に警察官の活動などに見られますが、緊急性があるものもあり、また有形力を行使したり身体を拘束するなど、対象者の権利利益を強く制約するものもあります。これらの公務が場合によっては違法と評価されることがあります。このようなぎりぎりのせめぎあいの中で公務を執行せざるを得ない場合があります。一方で、このような一方的な権力関係にあるために、その権力を濫用して犯罪に至ってしまう場合もあります。ここでは、公務員の公務が犯罪になってしまう場合について解説します。

職権濫用罪

公務員がその職権を濫用して国民の権利利益を侵害した場合、公務の適正を害し、公務への信頼を損ねます。特に人の身体を拘束する権限のある公務は濫用の虞が高く、ひとたび濫用されれば害悪は甚大となります。そこで、このような職権濫用について処罰規定が設けられています。

公務員職権濫用

公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、公務員職権濫用罪が成立し、2年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法193条)。

「職権」とは公務員の一般的職務権限に属する行為を指します。「濫用」とは、この職権の行使に仮託して、実質的、具体的に違法・不当な行為をすることをいいます。

公務員職権濫用罪は2年以下の懲役に処すると定められており、3年以下の懲役に処される強要罪(刑法223条)より刑罰が軽くなっています。これは、公務の適正の確保という抽象的な利益を保護法益としており、また暴行や脅迫のような害悪の程度の強い行為を用いなくても犯罪が成立しうるためです。

公務員職権濫用罪に該当する行為でも、暴行や、生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した場合は、強要罪のみが成立するとされています。強要罪の場合は、未遂罪も処罰されます(刑法223条3項)。

特別公務員職権濫用

裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、6月以上10年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法194条)。

本罪の主体は、裁判官、検察官、検察事務官、警察官、のほか、裁判所書記官などが該当します。

これらの公務員は刑事司法に関して職務上逮捕等により人を拘束する権限を有しています。このような職権を濫用することは害悪が甚大であるため、逮捕監禁罪(刑法220条。3月以上7年以下の懲役)よりも刑罰が重くなっています。

特別公務員暴行陵虐

裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、特別公務員暴行陵虐罪が成立し、7年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法195条1項)。法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、同様に処罰されます(刑法195条2項)。

1項の罪の主体も、特別公務員職権濫用罪と同じく、裁判官、検察官、検察事務官、警察官、裁判所書記官などが該当しますが、人を逮捕監禁する権限を有しない者も対象になります。

暴行とは暴行罪などと同じく身体に対する不法な有形力の行使をいいます。

陵辱とは辱める行為や精神的に苦痛を与える行為、加虐とは苦しめる行為や身体に対する直接の有形力の行使以外の肉体的な苦痛を加える行為などをいいます。わいせつ行為など、暴行以外の方法で精神的又は肉体的に苦痛を与える行為が該当します。

2項の「法令により拘禁された者」とは、逮捕や勾留されている者など、法令上の規定に基づいて公権力により拘禁されている者をいいます。このような者を「看取又は護送する者」が本罪の主体となります。

特別公務員職権濫用等致死傷

特別公務員職権濫用罪や特別公務員暴行陵虐罪を犯し、よって人を死傷させた場合は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断されます(刑法196条)。

傷害罪は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金(刑法204条)、傷害致死罪は3年以上の有期懲役(刑法205条)に処されます。

特別公務員職権濫用罪は6月以上10年以下と、短期については傷害罪より重いため、特別行員職権濫用致傷罪の場合は6月以上15年以下の刑が科されます。

その他の致傷罪は1月以上15年以下の懲役、致死罪は3年以上20年以下の懲役となります。

違法な職務をするとどうなるか

公務員が違法な職務を行った場合、その公務員自身は懲戒を受ける可能性があります。また、上記のような犯罪が成立すれば、その刑罰を科されることになります。

一方で、公務員の職務が違法であったからといって全て無効にしてしまうと、軽微な違法であっても無効となってしまい、公務が回らなくなってしまいます。また、裁判の証拠など、公務員の公務が違法であってもその性質には影響しないものもあります。以下、公務が無効になるかどうかが争われた事案について解説します。

公訴の提起の無効

いわゆるチッソ川本事件の上告審決定(最高裁第一小法廷決定昭和55年12月17日)においては、公害の原因企業と患者側で激しい対立が続き、患者が傷害を起こしたとして起訴されましたが、被告人は企業側の起こした違法行為について起訴されていないのに自分たちだけ起訴したのは検察官の公訴権の濫用であるなどと主張しました。これについて、一審は被告人を有罪にしましたが、被告人のみが控訴した控訴審では一審判決を破棄して公訴を棄却、つまり検察官の起訴は濫用で許されないとしました。これに対し検察官が上告した上告審において、最高裁は「検察官の裁量権の逸脱が公訴の提起を無効ならしめる場合のありうることを否定することはできないが、それはたとえば公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られる」とし、本件においては検察官の公訴の提起は無効ではないとしました(なお、公害自体は患者らと会社との和解によって紛争は解決しており被害者側もなお処罰を求める意思を有しているとは思われないこと、被告人自身が公害により父親を亡くし自らも健康を損なっていることなどを考慮し、控訴審判決を破棄して有罪の一審判決を復活させなければ著しく正義に反するとまではいえないとして、検察官の上告は棄却されました。)。

公訴の提起が濫用であるとしても、それだけで犯罪となるわけではなく、公訴の提起それ自体が犯罪となるような場合でない限り、無効とはならないとされています。

証拠排除

違法な身体拘束や捜索によって得られた証拠は、その違法の程度が甚だしい場合は、証拠から排除されます。

昭和53年9月7日最高裁第一小法廷決定決定の覚せい剤取締法(当時)違反等事件において、被告人は、警察官が職務質問中に承諾を得ないまま上衣ポケット内を捜索して差し押さえた覚醒剤は違法な手続きにより収集された証拠であり証拠能力はないと主張しました。一審と控訴審では被告人の主張が認められ、証拠能力がないと判断されました。最高裁は「証拠物は押収手続が違法であつても、物それ自体の性質・形状に変異をきたすことはなく、その存在・形状等に関する価値に変りのないことなど証拠物の証拠としての性格にかんがみると、その押収手続に違法があるとして直ちにその証拠能力を否定することは、事案の真相の究明に資するゆえんではなく、相当でないというべきである。しかし、他面において、事案の真相の究明も、個人の基本的人権の保障を全うしつつ、適正な手続のもとでされなければならないものであり、ことに憲法三五条が憲法三三条の場合及び令状による場合を除き、住居の不可侵、捜索及び押収を受けることのない権利を保障し、これを受けて刑訴法が捜索及び押収等につき厳格な規定を設けていること、また、憲法三一条が法の適正な手続を保障していること等にかんがみると、証拠物の押収等の手続に、憲法三五条及びこれを受けた刑訴法二一八条一項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである。」と判示しました。最高裁は、欧州手続きが違法だからといって直ちに証拠排除するべきではないが「令状主義の精神を没却するような重大な違法」があり、「将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる」場合は、証拠能力を否定するべきとしています。この事件では、職務質問に伴う所持品検査として許容される限度をわずかに超えて行われたに過ぎないこと等から、証拠能力は肯定されました。

まとめ

以上のように、公務員の公務が違法であるからといって直ちにその公務が無効となるわけではありませんが、犯罪となったり憲法の基本的価値観を損ねる重大な違法となるような場合は、無効等になる可能性がります。

官製談合

2023-08-21

談合は公正な競争を阻害し、自由な経済活動を毀損するものであり、独占禁止法などにより規制されています。このような談合に公務員が関与すると、金額の高騰により税金が不当に流出し、公的事業の適正も損なわれてしまいます。そこで、公務員が関与する談合については、特に重く処罰することとされています。

談合罪

談合については、刑法では次の条文のように、「公契約関係競売等妨害」の一つとして規定されています。

(公契約関係競売等妨害)

第九十六条の六 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。

1項は競争入札妨害罪について定めており、2項が談合罪です。いずれも、公の競売又は入札の公正を保護法益としています。

1項の競争入札妨害罪は、偽計(他人の正当な判断を誤らせるような術策)又は威力(人の意思の自由を制圧するような勢力)を用いて国や地方公共団体の実施する競売や入札の公正に不当な影響を及ぼす行為を処罰します。

2項の「談合」とは、公の競売・入札に際し、競売人・入札人が相互に通謀して、特定の者を競落者・落札者にするために、他の者は一定の価格以上に値を付けないことを協定することをいいます。競売の申し出を放棄することも含まれます。

「公正な価格」とは、談合が行われず自由な競争に任せたならば形成されたであろう競落又は落札価格をいいます。「公正な価格を害する目的」とは、競売であれば公正な価格を殊更引き下げること、入札であれば公正な価格を殊更引き上げることを目的とすることことをいいます。「不正な利益を得る目的」とは、特定の競落者・落札者においてはこのような不正により競落者・落札者となり契約上不当な利益を取得する目的をいい、他の参加者は談合金を得る目的をいうとされています。

談合は参加者各自の自由な意思に基づいて行われるものであり、偽計や威力を用いて参加させれば談合罪ではなく競争入札妨害罪となります。

独占禁止法違反

独占禁止法の正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。

この法律は「私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的」としています。つまり、談合やカルテルなどによる事業者の活動への拘束を排除して、自由競争を促進し、経済活動の発展を促進することを目指しています。

独占禁止法には「談合」という言葉はありませんが、「不当な取引制限」が談合に該当します。「不当な取引制限」とは、「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」をいいます(独占禁止法2条6項)。

独占禁止法は、事業者(商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいいます。独占禁止法2条1項)がこの不当な取引制限をすることを禁止しています(独占禁止法3条)。

「不当な取引制限」に該当する行為としては、国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札に際し、事前に受注事業者や受注金額などを決めてしまう「入札談合」が挙げられます。このほか、事業者又は業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い、本来各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める「カルテル」も「不当な取引制限」に該当します。

不当な取引制限をした場合、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処されます(独占禁止法89条1項1号)。法人の代表者や使用人等が法人の業務等に関して不当な取引制限を行ったのであれば、その法人にも5億円以下の罰金が科されます(独占禁止法95条1項1号)。

入札談合等関与行為防止法

入札談合等関与行為防止法は、正式名称は「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」です。この法律は、「公正取引委員会による各省各庁の長等に対する入札談合等関与行為を排除するために必要な改善措置の要求、入札談合等関与行為を行った職員に対する損害賠償の請求、当該職員に係る懲戒事由の調査、関係行政機関の連携協力等入札談合等関与行為を排除し、及び防止するための措置について定めるとともに、職員による入札等の公正を害すべき行為についての罰則を定め」ています(同法1条)。

同法では、「職員」(同法2条5項。国若しくは地方公共団体の職員又は特定法人(同法2条2項に定められており、国や地方公共団体が持ち分の多数を有して実質支配している法人です)の役員若しくは職員)が談合にかかわる行為について、次のように定めています。

(職員による入札等の妨害)

第八条 職員が、その所属する国等が入札等により行う売買、貸借、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に談合を唆すこと、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、五年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。

談合の問題

談合の方法

談合といっても、各企業の担当者や担当公務員が一堂に会してどの企業を競落人・落札者にするか、価格はいくらにするか、を決めるわけではありません。事前に受注希望者に見積額を出させ、それを他の参加者に知らせて、特定の企業の見積額より低い金額で出さないことを暗に示し合わせるといった方法がしばしば行われます。国や自治体が競争入札を行うに当たっては、予定価格を決定して作成しなければならないと定められています(予算決算及び会計令79条・80条)。この予定価格は、発注する国や自治体の予算の上限を示すものであり、受注希望者にとっても入札の見込みを知る重要なものです。しかし、この予定価格を示すこと自体談合を容易にするといわれています。また、予定価格を作成するにあたって、国や自治体の担当者は専門業者ほどには工事やその他事業に要する費用についての知識はなく、したがって業者に見積額の提出を求めることになります。しばしば複数の業者に見積額の提出を求めますが、これを提出した業者以外の業者にも見せれば、相互の見積額を知らせていることになり、談合とみなされかねません。

談合になるのか

上記のように、談合行為としては、各業者や官公庁の担当者が集まって落札者や価格を決めるほか、見積額を他の参加者に知らせるものがあります。

一方で、どの業者からも見積もりをとらないというのは現実的ではありません。また、行政の担当者としては、複数の見積もりを見て最も適切な金額を算定したいところです。複数の業者から見積もりをとっただけでは直ちに談合とはなりません。一方で、受け取った見積もりを他の業者に見せたりすると、談合となりえます。

また、独占禁止法違反の「不当な取引制限」の場合は、談合罪の「談合」のように価格を決める協定を交わすだけでは成立せず、「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」が必要です。

不当な取引制限といえるには、まず「一定の取引分野」を特定する必要があります。また、「競争を実質的に制限」する必要があります。前例のない公共事業で、対応できる業者が数限られている場合、もともと競争がなかったと判断される余地があります。

まとめ

このように、談合については重い刑罰が下される一方、その成否の判断は難しいです。疑わしい行為、危険性の高い行為は避けるよう、取引体制を構築する必要があります。また、弁護士などの専門家に危険性がないかどうか、安全な制度を構築するためにはどうすればよいか相談するべきでしょう。

汚職の罪

2023-08-06

公務員は全体の奉仕者として、公共の利益のために職務を行うものであり、一般国民が持てないような職権を持ち、逮捕のように国民の権利利益に強制的に介入する公権力の行使などを行います。このような公務員がその職権を濫用すれば、公務の適正が害され、公務に対する国民の信頼も損なわれてしまいます。そのため、公務員が職権を濫用することに対しては、重い刑罰が科されます。

この記事では、公務員の汚職について解説します。

職権濫用罪

職権を濫用して国民の権利利益を侵害した場合、害悪が重く、公務の適正を害するため、職権乱用を処罰する規定が定められています。特に人の身体を強制的に拘束する権限を濫用した場合は、害悪が甚大であるため、より重く処罰されます。

公務員職権濫用

公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、公務員職権濫用罪が成立し、2年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法193条)。

「職権」とは公務員の一般的職務権限に属する行為を指します。「濫用」とは、この職権の行使に仮託して、実質的、具体的に違法・不当な行為をすることをいいます。

公務員職権濫用罪は2年以下の懲役に処すると定められており、3年以下の懲役に処される強要罪(刑法223条)より刑罰が軽くなっています。これは、公務の適正の確保という抽象的な利益を保護法益とするためです。

公務員職権濫用罪に該当する行為でも、暴行や、生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した場合は、強要罪のみが成立するとされています。強要罪の場合は、未遂罪も処罰されます(刑法223条3項)。

特別公務員職権濫用

裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、6月以上10年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法194条)。

本罪の主体は、裁判官、検察官、検察事務官、警察官、のほか、裁判所書記官などが該当します。

これらの公務員は刑事司法に関して職務上逮捕等により人を拘束する権限を有しています。このような職権を濫用することは害悪が甚大であるため、逮捕監禁罪(刑法220条。3月以上7年以下の懲役)よりも刑罰が重くなっています。

特別公務員暴行陵虐

裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、特別公務員暴行陵虐罪が成立し、7年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法195条1項)。法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、同様に処罰されます(刑法195条2項)。

1項の罪の主体も、特別公務員職権濫用罪と同じく、裁判官、検察官、検察事務官、警察官、裁判所書記官などが該当しますが、人を逮捕監禁する権限を有しない者も対象になります。

暴行とは暴行罪などと同じく身体に対する不法な有形力の行使をいいます。

陵辱とは辱める行為や精神的に苦痛を与える行為、加虐とは苦しめる行為や身体に対する直接の有形力の行使以外の肉体的な苦痛を加える行為などをいいます。わいせつ行為など、暴行以外の方法で精神的又は肉体的に苦痛を与える行為が該当します。

2項の「法令により拘禁された者」とは、逮捕や勾留されている者など、法令上の規定に基づいて公権力により拘禁されている者をいいます。このような者を「看取又は護送する者」が本罪の主体となります。

特別公務員職権濫用罪や特別公務員暴行陵虐罪を犯し、よって人を死傷させた場合は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断されます(刑法196条)。

傷害罪は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金(刑法204条)、傷害致死罪は3年以上の有期懲役(刑法205条)に処されます。

特別公務員職権濫用罪は6月以上10年以下と、短期については傷害罪より重いため、特別行員職権濫用致傷罪の場合は6月以上15年以下の刑が科されます。

その他の致傷罪は1月以上15年以下の懲役、致死罪は3年以上20年以下の懲役となります。

賄賂罪

公務員がその職務に関し賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処されます(刑法197条1項)。

賄賂罪の保護法益は、「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」とされています(平成7年2月22日最高裁大法廷判決等)。公務員の職務は法令に則り、施策の必要性等を慎重に検討され、公正に行われなければなりません。このような公務員の職務を賄賂で歪められるのは許されないことです。また、公務員の職務が賄賂で左右できるものだと社会一般の人々に思われてしまうこと自体、社会一般の人々の公務員の職務への信頼を損なうものとなり、行政処分への不服従などをもたらしかねず、社会の根幹を揺るがすものとなります。そのため、賄賂罪は厳しく処罰されるのです。

収賄にあたって請託を受けた場合は、職務と賄賂との対価関係がより明白となり、職務の公正に対する社会の信頼を害する程度が高まるため、受託収賄罪が成立し、7年以下の懲役と刑が重くなります。

公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合、事前収賄罪が成立し、5年以下の懲役に処されます(刑法197条2項)。

公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、またはその供与の要求若しくは約束をしたときは、第三者供賄罪が成立し、5年以下の懲役に処されます(刑法197条の2)。

公務員が単純収賄や受託収賄、事前収賄、第三者供賄の罪を犯し、その結果不正な行為をし、または相当の行為をしなかったときは、加重収賄罪が成立し、1年以上の有期懲役に処されます(刑法第197条の3第1項)。公務員が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、もしくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をしたときも、同様に処されます(刑法第197条の3第2項)。賄賂を受け取ったうえで不正な行為をしたり相当な行為をしなかったのですから、職務の公正を現実に害しており、職務の公正に対する社会の信頼を大きく害しているため、このように重い処罰となっています。

公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、事後収賄罪が成立し、5年以下の懲役に処されます((刑法第197条の3第3項)。

公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、あっせん収賄罪が成立し5年以下の懲役に処されます(刑法第197条の4)。

賄賂の没収

犯人や賄賂であることを認識している第三者が受け取った賄賂は没収します。費消されたり、接待など性質上没収できない場合は、その価額を金銭的に評価して没収します(刑法第197条の5)。これは賄賂を収受した者たちに不正な利益を残さないようにするためです。

おわりに

以上のように、公務員の汚職事件は重い刑罰を科される可能性が高いです。そのため、早期に弁護士に相談して対応を決めるべきです。

keyboard_arrow_up

0120631881 問い合わせバナー LINE予約はこちら