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公務員と詐欺

2023-10-30

コロナ持続化給付金の詐欺事件で東京国税局の職員が逮捕されたり、家賃支援給付金詐欺事件で経産省のキャリア官僚が逮捕されるなど、公務員のかかわる悪質な詐欺事件が世間を騒がせました。公務員が詐欺にかかわった場合はどうなるのでしょうか。

成立する犯罪について

詐欺罪

詐欺を行った場合、10年以下の懲役に処されます(刑法第246条第1項・第2項)。電子計算機に虚偽の情報を与えるなどする電子計算機使用詐欺も同様に10年以下の懲役に処されます(刑法第246条の2)。

その他の犯罪

また、詐欺罪の場合はしばしば他の犯罪が手段や目的になっていることがあります。

詐欺を行うために公文書を偽造したり(公文書偽造罪:刑法第155条)、内容虚偽の公文書を作成する(虚偽公文書作成罪:刑法第156条)ことがしばしばあります。また、偽造された公文書を利用して詐欺を行う場合もありますが、この場合偽造公文書行使罪(刑法第158条)が成立します。

詐欺にあたる行為が他の犯罪にも該当する場合、観念的競合といわれ、その最も重い刑により処断されます(刑法第54条第1項)。また、詐欺罪と他の犯罪が手段・結果の関係にある場合、牽連犯といわれ、その最も重い刑により処断されます(刑法第54条第1項)。例えば、内容が虚偽の有印公文書を作成して、その偽造公文書を用いて被害者を騙して金銭等を得た場合、虚偽公文書作成罪と偽造公文書行使罪、詐欺罪が成立します。そして、偽造公文書行使罪と詐欺罪は観念的競合、虚偽公文書作成罪と偽造公文書行使罪及び虚偽公文書作成罪と詐欺罪とは牽連犯となります。もっとも、結局いずれの場合でも最も重い刑で処罰されることになります。詐欺罪は10年以下の懲役、有印の偽造公文書作成罪と同行使罪は1年以上10年以下の懲役ですので、もっとも重い1年以上10年以下の懲役となります。

また、オレオレ詐欺をはじめとする特殊詐欺や、冒頭で問題になった給付金詐欺などは、多数人が結託して同様の犯罪を反復して行います。このような態様の詐欺は組織犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)の「団体」(組織犯罪処罰法第2条第1項)の活動として、当該犯罪を実行するための組織により行われたとされ、より重い処罰がされます。団体の活動として、組織により詐欺が行われた場合、1年以上の有期懲役に処せられます(組織犯罪処罰法第3条第1項第13号)。

また。詐欺罪やその他の一定の犯罪により得られた犯罪収益(組織犯罪処罰法第2条第2項)であると知りながら、これを受け取ると、7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され、又はこれらが併科されます(組織犯罪処罰法第11条)。

刑事手続について

犯罪が発覚した場合、基本的には任意処分により捜査がすすめられます。強制処分は、緊急性のある場合に令状を得て行われます。

詐欺罪のような財産犯の場合、最初は逮捕などはせずに捜査が行われ、まずは被害者への弁償を勧められますます。被害者への弁償が行われなければ逮捕される可能性があります。ただし、特殊詐欺事件など重大な詐欺事件の場合、いきなり逮捕されることもあります。

詐欺罪のような財産犯については、被害者に対して詐取したものを弁償して示談することが重要となります。被害額を全額弁償して示談すれば、不起訴(起訴猶予)となる可能性があります。ただし、給付金詐欺などの重大事案だと、全額弁償しても起訴される可能性があります。

罰金刑がある犯罪については略式手続き(刑事訴訟法第461条以下)により、裁判所に出頭することなく罰金を支払う命令が出されて刑事手続きを終了させることができます。しかしながら、詐欺罪には罰金刑がないため、この略式手続きを使うことができず、起訴される場合公判請求しかなく、公判期日に裁判所に出廷する必要があります。

公務員の場合、起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。

審理は単独犯で事実関係を認めている場合、1回で結審して次回に判決となることが多く、起訴されてから3か月ほどで判決が下されます。一方、複数の事件に関与していたり、共犯者が多数にのぼる事件だと、審理がより長期間にわたる可能性があります。

勾留されたまま起訴された場合、起訴後は保釈が可能になります。保釈金は被害金額により高くなります。ただし、被害金額が大きい事件や特殊詐欺などの重大な事件では第1回公判において事実関係を認めた後でないと保釈が認められないなど、保釈されにくい傾向にあります。

詐欺罪の場合、被害金額が500万円を超えると、初犯であっても実刑となる可能性が高いようです。もっとも、特殊詐欺など悪質な種類の事件の場合、より低い金額であってもいきなり実刑になることがあります。

公務員の場合は、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。執行猶予がついても変わりはありません。前述の通り、詐欺罪などは罰金刑がないので、有罪判決となると、失職することとなります。このような判決が見込まれる事件では、判決が下される前に、懲戒処分で免職となるか、自ら辞職することが多いでしょう。

懲戒処分

公務員が犯罪にあたる行為など違法不当な行為を行った場合、「非違行為」を行ったとして懲戒処分の対象になります。

国家公務員については、人事院が「懲戒処分の指針について」を定めています。

公務内で事件を起こした場合として、人を欺いて公金又は官物を交付させた職員は、免職となります(第2 標準例 2 公金官物取扱い関係 (3)詐取)。公務外でも人を欺いて財物を交付させた職員は、免職又は停職となります(第2 標準例 3 公務外非行関係 (8)詐欺・恐喝)。ここでは詐欺であっても財物ではなく「財産上不法の利益」を得た場合(刑法第246条第2項)については記載されていませんが、「標準例に掲げられていない非違行為についても、懲戒処分の対象となり得るものであり、これらについては標準例に掲げる取り扱いを参考としつつ判断する」(第1 基本事項)とありますので、財産上不法の利益を得る詐欺についても同様に処分を受けるものと思われます。

参考

懲戒処分の指針について

https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html

なお、国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国家公務員法第85条)。そのため、重大な事件や、本人が非違行為について事実関係を認めている事件では判決が出る前に懲戒手続がすすめられ、懲戒処分が下されることがあります。

また、懲戒処分は行政庁として綱紀粛正のため行われる処分ですので、刑事手続きで示談などにより不起訴になったからといって、懲戒処分を受けなくなるわけではありません。もちろん、被害者に対して賠償をしたかどうかなどは、懲戒処分をするにあたり考慮されますので、示談など刑事手続において必要なことは懲戒処分が行われる前に済ませておくべきでしょう。

まとめ

このように、公務員が詐欺事件にかかわると、重い刑罰を科される可能性が高く、また重い懲戒処分が下されることになります。このような重大な犯罪にかかわらないようにすることが大切です。

公文書偽造

2023-07-28

文書の偽造は文書に対する社会の信用を害するとして厳しく処罰されます。公務員の作成する公文書が偽造された場合、社会の信用は大きく害されるため、より重く処罰されます。ここでは、公務員による文書偽造について解説します。

公文書偽造

個人や私企業について、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造した場合は、私文書偽造罪が成立します(刑法159条)。

一方で、行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書を偽造した者は、公文書偽造罪に問われます。(刑法155条1項)。私文書偽造罪の法定刑は3月以上5年以下の懲役(刑法159条1項)ですが、公文書偽造罪の法定刑は1年以上10年以下の懲役(刑法155条1項)と重くなっています。公文書はその信用性が一般の文書よりも重いため、文書に対する社会的信用を損ねる程度もより大きくなるため、処罰はより重くなっています。

偽造とは、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽って文書を作成する、つまり文書の名義人以外の者が名義を冒用して文書を作成することをいいます。上司の決裁が必要な文書を勝手に作成した場合が当たります。一方、公務員が自分一人で全て作成できる文書を濫用して作成しても、偽造とはいえません。もっとも、その文書の内容が虚偽の場合、後述の虚偽公文書作成罪に当たる可能性があります。

行使の目的とは、他人にその偽造文書を真正な文書と誤信させる目的をいいます。

公務所又は公務員が押印し又は署名した文書または図画、つまり公文書を変造した者も、同様に処罰されます(刑法155条2項)。

変造とは、文書の名義人でない者が、真正に成立した文書の内容に改ざんを加えることをいいます。数字部分など、文書の本質的ではない部分を改ざんした場合が変造に当たります。対象事業など文書の本質的な部分を改ざんした場合はもはや別の文書であり、偽造となります。

これらは公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用する文書を対象としており、そうした文書を有印公文書といいます。一方、このような印章や署名のない文書は無印公文書といわれ、これを偽造又は変造した場合は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処されます(刑法155条3項)。公務員や公務所の印章や署名のある文書の方がより信用性が高いため、有印公文書偽造・変造の方が重く処罰されます。

これらの公文書偽造・変造は、文書の名義人を偽る罪とされています。これらは有形偽造といわれています。

一方で、文書の名義人は偽っていない、つまり当該文書を作成する正当な権限のある者が作成した場合であって、内容が虚偽の文書を作成する場合は、無形偽造と呼ばれます。私文書の場合名義人と作成者が一致するのであればその内容については名義人が責任を負うため、その内容が偽りであるからといってそのことを理由に処罰はされません。一方、公文書の場合、その内容の証拠力や証明力は一般的に高く、公文書の内容の真実性も保護しなければならないため、このような無形偽造も処罰しています。

虚偽公文書作成

公務員が、自分自身で作成できる文書であっても、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造した場合は、虚偽公文書作成罪(刑法156条)が成立します。公文書は特に信用性が高いため、名義を偽っていなくても内容を偽っていれば処罰します。

ここでの行使の目的とは、虚偽の文書を内容が真実な文書であると誤信させようとする目的のことをいいます。

虚偽公文書作成罪も、虚偽の内容を作成された公文書が有印公文書か無印公文書かにより区別されます。有印公文書の場合、1年以上10年以下の懲役に処されます。無印公文書の場合、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処されます。

公正証書原本不実記載等

一般市民が公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿や戸籍簿など権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせた場合は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(刑法157条1項)。現在は登記簿や戸籍は電子データとして記録させることが多く、「公正証書の原本として用いられる電磁的記録」に不実の記録をさせた場合は「電磁的公正証書原本不実記録罪」として、同様に処罰されます。偽装結婚をして婚姻届を提出する場合などがこれらの罪に当たります。

公務員が共謀してこのような虚偽の申立てをして不実の記載又は記録をさせた場合、公務員は公正証書原本不実記載等ではなく虚偽公文書作成の共同正犯となるとされています。

詔書偽造等

行使の目的で、御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造し、又は偽造した御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書尊他の文書を偽造した者は、無期又は3年以上の懲役に処されます(刑法154条1項)。御璽若しくは国璽を押し又は御名を署した詔書その他の文書を変造した者も同様に処罰されます(刑法154条2項)。「御璽」は天皇の印章、「国璽」は日本国の国章、「御名」は天皇の署名、「詔書」は天皇が一定の国事行為に関する意思表示を公示するために内閣総理大臣の副署など一定の形式により作成される文書を言います。このような天皇名義の文書は、一般の公文書に比べてより一層保護する必要があることから、非常に重い刑罰が定められています。

偽造公文書行使等

公文書偽造罪、詔書偽造、虚偽公文書作成罪、公正証書原本不実記載罪により作成された文書を行使した場合は、偽造公文書等行使罪に問われます(刑法158条)。法定刑は、それぞれの偽造罪と同じです。公文書偽造に当たる行為により作成された偽造公文書を行使した場合は、公文書偽造罪と同じ1年以上10年以下の懲役に処されます。

関連犯罪との関係

各公文書偽造罪(刑法154条から157条)とその行使罪(刑法158条)を行った場合、公文書の偽造と行使は手段と目的の関係にあるため、牽連犯(刑法54条1項)として処断されます。牽連犯の場合、最も重い刑により処断されますが、公文書偽造とその行使罪は法定刑が同じですので、その法定刑により処断されます。

公文書の偽造や行使は、他の犯罪の手段として行われることが多くあります。この場合、牽連犯として最も重い刑により処断されます。たとえば、偽造した運転免許証を示して別人のように装って詐欺を行った場合、詐欺罪と偽造公文書等行使罪が成立しますが、詐欺罪は短期が1か月、長期が10年の懲役であり、偽造公文書等行使罪は短期が1年、長期が10年の懲役ですので、短期と長期其々が重い方で処断され、1年以上10年以下の刑が科されます。

公文書の偽造は談合や贈収賄等他の犯罪を隠ぺいするために行われることが多くあります。この場合、公文書の偽造や行使がそれらの犯罪の手段として行われたとはいえない場合があります。このような場合は併合罪(刑法45条)として処断されます。併合罪に当たる罪で複数の罪が有期懲役刑に当たる場合、最も重い刑の長期の1.5倍が長期となります。ただし、それぞれの刑の長期を越えることはできません(刑法47条)。たとえば、虚偽公文書作成罪と受託収賄罪(刑法197条1項)が成立した場合、虚偽公文書作成罪は1年以上10年以下の懲役、受託収賄罪は7年以下の懲役ですので、1年以上15年以下の懲役になります。

公文書の偽造は単発で終わるのでなく継続的常習的に行われることが多々あります。また、贈収賄などの他の犯罪ともかかわりがあることが多く、非常に厳しく処罰されます。

公務員の横領事件

2023-07-24

横領(刑法252条)や業務上横領(刑法253条)は、公務員以外の職種でも問題となりますが、公務員が行った場合、その隠ぺいのために公文書偽造等(刑法155条)を行うなど他の公務員犯罪につながりかねません。また、このような犯罪は、勤務先に損害を与えるだけでなく、公務員に対する社会的信用全体を損ねる点で、より厳しく処罰されます。

ここでは、公務員の横領について解説します。

横領罪

横領罪の対象(客体)

横領罪の対象(客体)となるのは、「自己の占有する他人の物」です。現金の他、保管中の遺失物なども対象になり得ます。

「占有」とは、事実上の占有だけでなく、法律上の占有も含まれます。預金なども対象になり得ますが、預金通帳やキャッシュカード等を事務的に預かっているだけでは預金を占有しているとはいえません。

金銭は一般的に占有者の所有に属しますので「自己の物」になりますが、一定の目的・使途を定めて委託された金銭の所有権は依然として委託者にありますので、「他人の物」になります。

占有の基礎には、物の所有者等と占有者との間に委託信任関係がなければならないとされています。委託とは無関係に偶然に支配下に入った物はあくまで遺失物等横領(刑法254条)の客体になります。

横領行為

「横領」とは、不法領得の意思を実現する一切の行為をいいます。この「不法領得の意思」とは、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」をいうとされています。窃盗罪ではこの不法領得の意思は「権利者を排除し、他人の所有物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」といわれており、単に毀棄隠匿する意思の場合は窃盗罪の不法領得の意思には当たらないとされています。一方で、横領罪の不法領得の意思の場合は「経済的用法に従」う必要はなく、毀棄隠匿するだけでも成立し得ます。もっとも、保管している自転車に短時間乗車して元に戻すような、単なる一時使用の目的で使用しただけでは、不法領得の意思は認められないでしょう。一方、預かっている預金を自己の都合で使用し、後日穴埋めするような場合は、委託者の許すような性質ではなく、一時使用とはいえず不法領得の意思があるとされています。

「横領」に該当する行為の態様は、着服、毀棄・隠匿のほか、売却や貸与、譲渡担保や抵当権などの担保権の設定、質入れなど多彩な行為が考えられます。

業務上横領

横領罪(単純横領罪)は5年以下の懲役ですが、業務上横領罪は10年以下の懲役と重い刑罰になっています。横領罪の公訴時効は5年(刑事訴訟法250条2項5号)ですが、業務上横領罪の公訴時効は7年(刑事訴訟法250条2項4号)となっており、より古い時期に遡って不正行為が追及されます。このように業務上横領罪が単純横領罪よりも重くなっているのは、物の占有が業務上の委託信任関係に基づいており、これを破ることはより強く非難に値するためです。

業務」とは、人がその社会生活上の地位に基づき反復継続して行う事務です。公務員がその仕事として行うものであれば「業務上」占有すると判断されるでしょうから、公務員がその業務に関係する物を横領した場合は、多くは業務上横領罪に当たるでしょう。なお、業務上占有できる物を占有していたとしても、業務とは無関係に占有した場合は、業務上占有しているとはいえません。

共犯

横領の計画を策定して分け前を受け取ったり、売却や質入れなどの横領行為にかかわるなど、公務員が公務員でないものと共謀して横領した場合、公務員でない者も公務員と共に処罰されます。横領・業務上横領の占有者のような「一定の犯罪に行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態」は「身分」といわれており、この有無によって犯罪の成否や刑罰の重さが決まる犯罪もあります。共犯の場合、刑法65条によって刑罰が決まります。

業務上横領罪については、公務員でない者は「占有する」という身分を持っていませんが、同時に「業務上」占有するという身分も持っていません。まず、横領罪は「占有する」かどうかで犯罪の成否が変わりますので、刑法65条1項の「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為」にあたり、「占有」していない者にも横領罪が成立します。次に、「業務上」占有しているかどうかで業務上横領罪と横領罪という刑の軽重がありますので、刑法65条2項の「身分によって特に刑の軽重」にあたり、「業務上」占有していない者には、単純横領罪の刑が科されます。(なお、この場合に業務上横領罪と単純横領罪のいずれの犯罪が成立するかについては、裁判例も定まっていません。)

したがって、公務員の横領に公務員でない者が加担した場合、公務員には業務上横領罪が成立しその刑が科されますが、公務員でない者については単純横領罪の刑が科されることになります。

他の犯罪への派生

公務員に限られませんが、自分の勤務するところで横領をした場合、それが発覚しないように関係書類を改ざんしたり、関係者に金銭を渡して口止めをするといったさらなる不正行為が行われることが多々あります。公務員以外の者がする場合、私文書偽造や詐欺や電子計算機使用詐欺、不正アクセス防止法違反などが考えられます。これらの罪も軽くはありませんが、公務員がすると、他の犯罪に該当する場合があります。

文書偽造

個人や私企業について、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造した場合は、私文書偽造罪が成立します(刑法159条)。一方で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書等を偽造した場合は、公文書偽造罪が成立します(刑法155条)。私文書偽造罪の法定刑は3月以上5年以下の懲役(刑法159条1項)ですが、公文書偽造の法定刑は1年以上10年以下の懲役(刑法155条1項)と重くなっています。公文書はその信用性が一般の文書よりも重いため、文書に対する社会的信用を損ねる程度もより大きくなるため、処罰はより重くなっています。

これら私文書偽造や公文書偽造は、有形偽造といわれ、文書の作成者の名義を偽る犯罪です。例えば、上司の決裁がなければ作成できない文書を勝手に作成する場合が当たります。

一方で、公務員が、自分自身で作成できる文書であっても、内容が虚偽の文書を作成する等した場合は、虚偽公文書作成罪(刑法156条)が成立します。これは文書の内容を偽る犯罪で、無形偽造といわれています。公文書は特に信用性が高いため、名義を偽っていなくても処罰します。

以上をまとめると、公務員が自らの横領を隠ぺいするために上司の決裁が必要な文書を勝手に作成した場合は公文書偽造罪、自らが作成できる文書の内容を偽った場合は虚偽公文書作成罪が成立します。

これらの公文書偽造罪や虚偽公文書作成罪により作成された文書を、上司や関係部署に提出した場合、偽造公文書を行使したとして偽造公文書行使罪(刑法158条)が成立します。法定刑は公文書偽造等と同じ1年以上10年以下の懲役です。

贈収賄

公務員は法令に忠実に従うことを職責としており、法令違反があれば是正する必要があります。公務員が同僚に対して金銭等を提供してみずからの横領行為を隠ぺいや黙認するよう働きかけた場合は、その金銭等を提供した公務員には贈賄罪(刑法198条)、受け取った公務員には収賄罪(刑法197条1項)が成立します。贈賄罪は3年以下の懲役又は250万円以下の罰金です。単に賄賂を受け取った単純収賄罪は5年以下の懲役、請託を受けた受託収賄罪は7年以下の懲役となります。具体的な横領行為について隠ぺい等するよう依頼するのであれば、受託収賄罪にあたるでしょう。これを受けて賄賂を受け取った公務員が、不正をただすべきにもかかわらず上司等に報告しなかったりして横領行為を放置すれば、「相当の行為をしなかった」として加重収賄罪(刑法197条の3第1項)が成立するでしょう。法定刑は1年以上20年以下の有期懲役と非常に重くなっています。

横領との関係

これらの犯罪が横領罪又は業務上横領罪の手段として行われた場合、牽連犯(刑法54条1項)として最も重い刑により処断されます。たとえば、業務上保管している動産を勝手に持ち出す際に、法令に基づく処分かのように作成した書類を上司に提出すれば、業務上横領罪と偽造公文書等行使罪が成立しますが、業務上横領罪は下限が1か月、上限が10年の懲役であり、偽造公文書等行使罪は下限が1年、上限が10年の懲役ですので、1年以上10年以下の刑が科されます。

一方で、横領行為そのものではなく、これを隠ぺいするためなど横領罪と並列して行われた場合、併合罪として処罰されます。この場合、最も重い刑の上限の1.5倍を上限として刑が科されます。ただし、それぞれの刑の長期の合計を越えることはできません(刑法47条)。業務上横領罪と偽造公文書等行使罪が成立している場合、1年以上15年以下の懲役となるでしょう。

まとめ

このように、公務員の横領は厳しく処罰されるうえ、関係する他の犯罪も厳しく処罰されるでしょう。

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