コロナ持続化給付金の詐欺事件で東京国税局の職員が逮捕されたり、家賃支援給付金詐欺事件で経産省のキャリア官僚が逮捕されるなど、公務員のかかわる悪質な詐欺事件が世間を騒がせました。公務員が詐欺にかかわった場合はどうなるのでしょうか。
成立する犯罪について
詐欺罪
詐欺を行った場合、10年以下の懲役に処されます(刑法第246条第1項・第2項)。電子計算機に虚偽の情報を与えるなどする電子計算機使用詐欺も同様に10年以下の懲役に処されます(刑法第246条の2)。
その他の犯罪
また、詐欺罪の場合はしばしば他の犯罪が手段や目的になっていることがあります。
詐欺を行うために公文書を偽造したり(公文書偽造罪:刑法第155条)、内容虚偽の公文書を作成する(虚偽公文書作成罪:刑法第156条)ことがしばしばあります。また、偽造された公文書を利用して詐欺を行う場合もありますが、この場合偽造公文書行使罪(刑法第158条)が成立します。
詐欺にあたる行為が他の犯罪にも該当する場合、観念的競合といわれ、その最も重い刑により処断されます(刑法第54条第1項)。また、詐欺罪と他の犯罪が手段・結果の関係にある場合、牽連犯といわれ、その最も重い刑により処断されます(刑法第54条第1項)。例えば、内容が虚偽の有印公文書を作成して、その偽造公文書を用いて被害者を騙して金銭等を得た場合、虚偽公文書作成罪と偽造公文書行使罪、詐欺罪が成立します。そして、偽造公文書行使罪と詐欺罪は観念的競合、虚偽公文書作成罪と偽造公文書行使罪及び虚偽公文書作成罪と詐欺罪とは牽連犯となります。もっとも、結局いずれの場合でも最も重い刑で処罰されることになります。詐欺罪は10年以下の懲役、有印の偽造公文書作成罪と同行使罪は1年以上10年以下の懲役ですので、もっとも重い1年以上10年以下の懲役となります。
また、オレオレ詐欺をはじめとする特殊詐欺や、冒頭で問題になった給付金詐欺などは、多数人が結託して同様の犯罪を反復して行います。このような態様の詐欺は組織犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)の「団体」(組織犯罪処罰法第2条第1項)の活動として、当該犯罪を実行するための組織により行われたとされ、より重い処罰がされます。団体の活動として、組織により詐欺が行われた場合、1年以上の有期懲役に処せられます(組織犯罪処罰法第3条第1項第13号)。
また。詐欺罪やその他の一定の犯罪により得られた犯罪収益(組織犯罪処罰法第2条第2項)であると知りながら、これを受け取ると、7年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され、又はこれらが併科されます(組織犯罪処罰法第11条)。
刑事手続について
犯罪が発覚した場合、基本的には任意処分により捜査がすすめられます。強制処分は、緊急性のある場合に令状を得て行われます。
詐欺罪のような財産犯の場合、最初は逮捕などはせずに捜査が行われ、まずは被害者への弁償を勧められますます。被害者への弁償が行われなければ逮捕される可能性があります。ただし、特殊詐欺事件など重大な詐欺事件の場合、いきなり逮捕されることもあります。
詐欺罪のような財産犯については、被害者に対して詐取したものを弁償して示談することが重要となります。被害額を全額弁償して示談すれば、不起訴(起訴猶予)となる可能性があります。ただし、給付金詐欺などの重大事案だと、全額弁償しても起訴される可能性があります。
罰金刑がある犯罪については略式手続き(刑事訴訟法第461条以下)により、裁判所に出頭することなく罰金を支払う命令が出されて刑事手続きを終了させることができます。しかしながら、詐欺罪には罰金刑がないため、この略式手続きを使うことができず、起訴される場合公判請求しかなく、公判期日に裁判所に出廷する必要があります。
公務員の場合、起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。
審理は単独犯で事実関係を認めている場合、1回で結審して次回に判決となることが多く、起訴されてから3か月ほどで判決が下されます。一方、複数の事件に関与していたり、共犯者が多数にのぼる事件だと、審理がより長期間にわたる可能性があります。
勾留されたまま起訴された場合、起訴後は保釈が可能になります。保釈金は被害金額により高くなります。ただし、被害金額が大きい事件や特殊詐欺などの重大な事件では第1回公判において事実関係を認めた後でないと保釈が認められないなど、保釈されにくい傾向にあります。
詐欺罪の場合、被害金額が500万円を超えると、初犯であっても実刑となる可能性が高いようです。もっとも、特殊詐欺など悪質な種類の事件の場合、より低い金額であってもいきなり実刑になることがあります。
公務員の場合は、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。執行猶予がついても変わりはありません。前述の通り、詐欺罪などは罰金刑がないので、有罪判決となると、失職することとなります。このような判決が見込まれる事件では、判決が下される前に、懲戒処分で免職となるか、自ら辞職することが多いでしょう。
懲戒処分
公務員が犯罪にあたる行為など違法不当な行為を行った場合、「非違行為」を行ったとして懲戒処分の対象になります。
国家公務員については、人事院が「懲戒処分の指針について」を定めています。
公務内で事件を起こした場合として、人を欺いて公金又は官物を交付させた職員は、免職となります(第2 標準例 2 公金官物取扱い関係 (3)詐取)。公務外でも人を欺いて財物を交付させた職員は、免職又は停職となります(第2 標準例 3 公務外非行関係 (8)詐欺・恐喝)。ここでは詐欺であっても財物ではなく「財産上不法の利益」を得た場合(刑法第246条第2項)については記載されていませんが、「標準例に掲げられていない非違行為についても、懲戒処分の対象となり得るものであり、これらについては標準例に掲げる取り扱いを参考としつつ判断する」(第1 基本事項)とありますので、財産上不法の利益を得る詐欺についても同様に処分を受けるものと思われます。
参考
懲戒処分の指針について
なお、国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国家公務員法第85条)。そのため、重大な事件や、本人が非違行為について事実関係を認めている事件では判決が出る前に懲戒手続がすすめられ、懲戒処分が下されることがあります。
また、懲戒処分は行政庁として綱紀粛正のため行われる処分ですので、刑事手続きで示談などにより不起訴になったからといって、懲戒処分を受けなくなるわけではありません。もちろん、被害者に対して賠償をしたかどうかなどは、懲戒処分をするにあたり考慮されますので、示談など刑事手続において必要なことは懲戒処分が行われる前に済ませておくべきでしょう。
まとめ
このように、公務員が詐欺事件にかかわると、重い刑罰を科される可能性が高く、また重い懲戒処分が下されることになります。このような重大な犯罪にかかわらないようにすることが大切です。