公文書偽造

文書の偽造は文書に対する社会の信用を害するとして厳しく処罰されます。公務員の作成する公文書が偽造された場合、社会の信用は大きく害されるため、より重く処罰されます。ここでは、公務員による文書偽造について解説します。

公文書偽造

個人や私企業について、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造した場合は、私文書偽造罪が成立します(刑法159条)。

一方で、行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書を偽造した者は、公文書偽造罪に問われます。(刑法155条1項)。私文書偽造罪の法定刑は3月以上5年以下の懲役(刑法159条1項)ですが、公文書偽造罪の法定刑は1年以上10年以下の懲役(刑法155条1項)と重くなっています。公文書はその信用性が一般の文書よりも重いため、文書に対する社会的信用を損ねる程度もより大きくなるため、処罰はより重くなっています。

偽造とは、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽って文書を作成する、つまり文書の名義人以外の者が名義を冒用して文書を作成することをいいます。上司の決裁が必要な文書を勝手に作成した場合が当たります。一方、公務員が自分一人で全て作成できる文書を濫用して作成しても、偽造とはいえません。もっとも、その文書の内容が虚偽の場合、後述の虚偽公文書作成罪に当たる可能性があります。

行使の目的とは、他人にその偽造文書を真正な文書と誤信させる目的をいいます。

公務所又は公務員が押印し又は署名した文書または図画、つまり公文書を変造した者も、同様に処罰されます(刑法155条2項)。

変造とは、文書の名義人でない者が、真正に成立した文書の内容に改ざんを加えることをいいます。数字部分など、文書の本質的ではない部分を改ざんした場合が変造に当たります。対象事業など文書の本質的な部分を改ざんした場合はもはや別の文書であり、偽造となります。

これらは公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用する文書を対象としており、そうした文書を有印公文書といいます。一方、このような印章や署名のない文書は無印公文書といわれ、これを偽造又は変造した場合は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処されます(刑法155条3項)。公務員や公務所の印章や署名のある文書の方がより信用性が高いため、有印公文書偽造・変造の方が重く処罰されます。

これらの公文書偽造・変造は、文書の名義人を偽る罪とされています。これらは有形偽造といわれています。

一方で、文書の名義人は偽っていない、つまり当該文書を作成する正当な権限のある者が作成した場合であって、内容が虚偽の文書を作成する場合は、無形偽造と呼ばれます。私文書の場合名義人と作成者が一致するのであればその内容については名義人が責任を負うため、その内容が偽りであるからといってそのことを理由に処罰はされません。一方、公文書の場合、その内容の証拠力や証明力は一般的に高く、公文書の内容の真実性も保護しなければならないため、このような無形偽造も処罰しています。

虚偽公文書作成

公務員が、自分自身で作成できる文書であっても、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造した場合は、虚偽公文書作成罪(刑法156条)が成立します。公文書は特に信用性が高いため、名義を偽っていなくても内容を偽っていれば処罰します。

ここでの行使の目的とは、虚偽の文書を内容が真実な文書であると誤信させようとする目的のことをいいます。

虚偽公文書作成罪も、虚偽の内容を作成された公文書が有印公文書か無印公文書かにより区別されます。有印公文書の場合、1年以上10年以下の懲役に処されます。無印公文書の場合、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処されます。

公正証書原本不実記載等

一般市民が公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿や戸籍簿など権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせた場合は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(刑法157条1項)。現在は登記簿や戸籍は電子データとして記録させることが多く、「公正証書の原本として用いられる電磁的記録」に不実の記録をさせた場合は「電磁的公正証書原本不実記録罪」として、同様に処罰されます。偽装結婚をして婚姻届を提出する場合などがこれらの罪に当たります。

公務員が共謀してこのような虚偽の申立てをして不実の記載又は記録をさせた場合、公務員は公正証書原本不実記載等ではなく虚偽公文書作成の共同正犯となるとされています。

詔書偽造等

行使の目的で、御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造し、又は偽造した御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書尊他の文書を偽造した者は、無期又は3年以上の懲役に処されます(刑法154条1項)。御璽若しくは国璽を押し又は御名を署した詔書その他の文書を変造した者も同様に処罰されます(刑法154条2項)。「御璽」は天皇の印章、「国璽」は日本国の国章、「御名」は天皇の署名、「詔書」は天皇が一定の国事行為に関する意思表示を公示するために内閣総理大臣の副署など一定の形式により作成される文書を言います。このような天皇名義の文書は、一般の公文書に比べてより一層保護する必要があることから、非常に重い刑罰が定められています。

偽造公文書行使等

公文書偽造罪、詔書偽造、虚偽公文書作成罪、公正証書原本不実記載罪により作成された文書を行使した場合は、偽造公文書等行使罪に問われます(刑法158条)。法定刑は、それぞれの偽造罪と同じです。公文書偽造に当たる行為により作成された偽造公文書を行使した場合は、公文書偽造罪と同じ1年以上10年以下の懲役に処されます。

関連犯罪との関係

各公文書偽造罪(刑法154条から157条)とその行使罪(刑法158条)を行った場合、公文書の偽造と行使は手段と目的の関係にあるため、牽連犯(刑法54条1項)として処断されます。牽連犯の場合、最も重い刑により処断されますが、公文書偽造とその行使罪は法定刑が同じですので、その法定刑により処断されます。

公文書の偽造や行使は、他の犯罪の手段として行われることが多くあります。この場合、牽連犯として最も重い刑により処断されます。たとえば、偽造した運転免許証を示して別人のように装って詐欺を行った場合、詐欺罪と偽造公文書等行使罪が成立しますが、詐欺罪は短期が1か月、長期が10年の懲役であり、偽造公文書等行使罪は短期が1年、長期が10年の懲役ですので、短期と長期其々が重い方で処断され、1年以上10年以下の刑が科されます。

公文書の偽造は談合や贈収賄等他の犯罪を隠ぺいするために行われることが多くあります。この場合、公文書の偽造や行使がそれらの犯罪の手段として行われたとはいえない場合があります。このような場合は併合罪(刑法45条)として処断されます。併合罪に当たる罪で複数の罪が有期懲役刑に当たる場合、最も重い刑の長期の1.5倍が長期となります。ただし、それぞれの刑の長期を越えることはできません(刑法47条)。たとえば、虚偽公文書作成罪と受託収賄罪(刑法197条1項)が成立した場合、虚偽公文書作成罪は1年以上10年以下の懲役、受託収賄罪は7年以下の懲役ですので、1年以上15年以下の懲役になります。

公文書の偽造は単発で終わるのでなく継続的常習的に行われることが多々あります。また、贈収賄などの他の犯罪ともかかわりがあることが多く、非常に厳しく処罰されます。

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