自衛官の刑事事件-自衛官が暴行事件を起こしてしまったケースを基に弁護活動や懲戒処分について解説

【事例(フィクション)】

陸上自衛隊の駐屯地で自衛官として勤務するAさんは、居酒屋で同僚とお酒を飲んでいたところ、隣の席のお客さんとトラブルになり、口論の末、そのお客さんの肩をこぶしで殴ってしまいました。

そのお客さんに怪我はありませんでしたが、Aさんは暴行の容疑で、現行犯逮捕されました。

Aさんに前科前歴はありません。

【被疑者の方が自衛官の場合のリスク】

自衛官は、防衛省の特別機関である自衛隊の任務を行う防衛省の職員で、国家公務員となります。

自衛官の方が刑事事件の被疑者となった場合、刑事手続き上の逮捕・勾留や刑事罰のリスクだけでなく、国家公務員法上の懲戒処分や、失職等のリスクにもさらされることとなってしまいます。

以下、弁護活動も含め、順に説明していきます。

【暴行の刑事罰】

「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」とされています(刑法208条)。

その他の事情にもよるので一概には言えませんが、Aさんのようなケースでかつ初犯であれば、罰金刑となることが多いです。

【弁護活動】

①まずは弁護士が接見といって、留置場に身体拘束されているAさんとの面会をして、事実確認や取調等の状況確認をし、取調べ対応等のアドバイスをすることが、今後の刑事処分のため重要な弁護活動です。

②Aさんは逮捕されましたが、この後勾留が決定してしまうと、10日間、さらに延長されると最長で20日間の身体拘束となります。

これに対しては、弁護士において、罪証隠滅や逃亡の可能性がないことを主張・疎明し、勾留の阻止を目指す活動(勾留の決定後であれば準抗告という勾留決定の取消しを求める不服申立て)をすることが考えられます。

③Aさんの場合、被害者の方に暴行をしてしまったことは事実なので、弁護士による示談交渉が非常に重要です。

交渉の結果、被害者の方に示談を受けていただければ、不起訴(起訴猶予)となり前科を回避できる可能性が高いです。

【刑事罰以外の処分等】

国家公務員である自衛官の方は、起訴され、有罪判決で禁錮以上の刑となれば、執行猶予が付いたとしても、失職することになります(国家公務員法76条・38条1号)。

事例の場合、Aさんに前科前歴はなく、有罪判決であっても罰金刑の可能性が高く、この規定による失職の可能性は低そうです。

もっとも、国家公務員の方が犯罪にあたる行為をすると、刑事罰とは別に懲戒処分を受けることにもなります。

懲戒処分は、重い順に、免職、停職、減給、戒告と種類があります。

人事院が公表している懲戒処分の指針によると

「具体的な処分量定の決定に当たっては、

① 非違行為の動機、態様及び結果はどのようなものであったか

② 故意又は過失の度合いはどの程度であったか

③ 非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか、その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか

④ 他の職員及び社会に与える影響はどのようなものであるか

⑤ 過去に非違行為を行っているか

等のほか、適宜、日頃の勤務態度や非違行為後の対応等も含め総合的に考慮の上判断するものとする。」

としつつ、標準例では「暴行を加え、又はけんかをした職員が人を傷害するに至らなかったときは、減給又は戒告とする。」とされています。

Aさんの場合、標準例では減給又は戒告となりそうですが、同指針においては、総合考慮の上で、標準例より重い処分をする場合も軽い処分をする場合もあり得るとされています。

例えば「非違行為後の対応」といった、弁護活動における示談交渉と絡む考慮要素もありますので、リスク軽減のため、弁護士に相談することをおすすめします。

参考

人事院「懲戒処分の指針」

こちらの記事もご覧ください

公務員の懲戒処分

【おわりに】

暴行の容疑をかけられた自衛官の方は、身体拘束、刑事罰、懲戒処分等のリスクにさらされますが、こういったリスクを回避・軽減するためには、弁護士による適切なアドバイスや活動が必要ですので、できるだけ早めに弁護士に相談することをおすすめします。

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