公務員と特定秘密―特定秘密保護法を中心に公務員の秘密保持について解説

国際情勢の複雑化や情報の重要性が増加するに従い、秘密情報の保護が重要になってきました。こうした秘密情報の漏洩に公務員が関与することも見受けられます。そこで、秘密情報の保護を徹底するため、特定秘密保護法などにより厳格な規制が行われています。ここでは、特定秘密保護法を中心に、公務員の秘密保持について解説します。

公務員の守秘義務一般について

国家公務員は、国家公務員法100条1項において、「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」と定められています。地方公務員についても、地方公務員法で同様に定められています(地方公務員法34条1項)。

この「秘密」とは、「非公知の事項であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに価すると認められるもの」とされています(昭和52年12月19日最高裁第二小法廷決定(徴税トラの巻事件))。

また、いわゆる外務省秘密漏洩事件(昭和53年5月31日最高裁第一小法廷決定)では、「政府が右のいわゆる密約によつて憲法秩序に抵触するとまでいえるような行動をしたものではないのであつて、違法秘密といわれるべきものではなく、この点も外交交渉の一部をなすものとして実質的に秘密として保護するに値するものである。したがつて・・・秘密にあたる」と判示されています。

憲法秩序に抵触するような違法秘密でなく、実質的に秘密として保護に値するものが「秘密」として保護されます。

これらの規定に違反して秘密を洩らしたときは、いずれも1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(国家公務員法109条12号、地方公務員法60条2号)。

特定秘密保護法

先ほどの守秘義務は、公務員の扱う秘密全般に関するものです。

一方、「特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)」では、「国際情勢の複雑化に伴い我が国及び国民の安全の確保に係る情報の重要性が増大するとともに、デジタル社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される中で、我が国の安全保障(国の存立に関わる外部からの侵略等に対して国家及び国民の安全を保障することをいう。以下同じ。)に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることに鑑み、当該情報の保護に関し、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏えいの防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資することを目的」としています(特定秘密保護法第1条)。

特定秘密の指定等

特定秘密保護法では、「当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」が特定秘密として指定されます(特定秘密保護法3条1項)。

別表には以下の事項があげられています。

別表(第三条、第五条―第九条関係)

一 防衛に関する事項

イ 自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究

ロ 防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報

ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力

ニ 防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究

ホ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物の種類又は数量

ヘ 防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法

ト 防衛の用に供する暗号

チ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの仕様、性能又は使用方法

リ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの製作、検査、修理又は試験の方法

ヌ 防衛の用に供する施設の設計、性能又は内部の用途(ヘに掲げるものを除く。)

二 外交に関する事項

イ 外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち、国民の生命及び身体の保護、領域の保全その他の安全保障に関する重要なもの

ロ 安全保障のために我が国が実施する貨物の輸出若しくは輸入の禁止その他の措置又はその方針(第一号イ若しくはニ、第三号イ又は第四号イに掲げるものを除く。)

ハ 安全保障に関し収集した国民の生命及び身体の保護、領域の保全若しくは国際社会の平和と安全に関する重要な情報又は条約その他の国際約束に基づき保護することが必要な情報(第一号ロ、第三号ロ又は第四号ロに掲げるものを除く。)

ニ ハに掲げる情報の収集整理又はその能力

ホ 外務省本省と在外公館との間の通信その他の外交の用に供する暗号

三 特定有害活動の防止に関する事項

イ 特定有害活動による被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「特定有害活動の防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究

ロ 特定有害活動の防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報

ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力

ニ 特定有害活動の防止の用に供する暗号

四 テロリズムの防止に関する事項

イ テロリズムによる被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「テロリズムの防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究

ロ テロリズムの防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報

ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力

ニ テロリズムの防止の用に供する暗号

適正評価

行政機関の職員や都道府県警察の職員等で、特定秘密の取扱いの業務を新たに行う見込みがある者は、行政機関の長や警察本部長により、特定秘密の取扱業務を行った場合にこれを洩らすおそれがないことについての評価を実施されることになります(特定秘密保護法第12条第1項・第15条第1項)。適正評価は、テロリズムと関連する事項や犯罪などに関する事項だけでなく、飲酒や経済的な状況などについても調査されます(同法第12条第2項各号・第15条第2項)。

行政機関の長などを除いて、この適正評価において特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを洩らすおそれがないと認められた者でなければ、特定秘密の取扱業務を行うことはできません(同法第11条)。

罰則

特定秘密の取り扱いの業務に従事する者がその業務により知得した特定秘密を洩らしたときは、10年以下の懲役に処され、情状によりさらに1000万円以下の罰金に処されます。特定秘密の取り扱いの業務に従事しなくなった後に漏らした場合も同様です(特定秘密保護法23条1項)。

また、行政機関の長が内閣に提示したり(同法4条5項)、外国の政府や国際機関に提供したり(9条)、国会両議院や裁判所など公益上必要の認められる相手に提供したり(10条)、内閣総理大臣が特定秘密の指定及び解除並びに適正評価の実施のため特定秘密である情報を含む資料の提出を求めること(18条4項後段)により、特定秘密が第三者に提供されることがあります。これらの提供の目的である業務により当該特定秘密を知得したものがその特定秘密を洩らしたときは、5年以下の懲役に処され、又は情状によりさらに500万円以下の罰金に処されます(同法23条2項)。

これらの罪は未遂も処罰します(同法23条3項)。また、過失により漏らした場合も処罰されます(23条1項の罪については2年以下の禁錮又は50万円以下の罰金。23条2項の罪ついては1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金)。

懲戒処分

特定秘密をはじめとした秘密漏洩に対しては厳しい懲戒処分が下されます。

人事院の「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)」によると、「1 一般服務関係 イ 情報セキュリティ対策のけ怠による秘密漏えい」については、停職・減給・戒告処分の対象となります。「ア 故意の秘密漏えい」は免職又は停職となり、特に「自己の不正な利益を図る目的」の場合は、必ず免職となります。

秘密保持の例外

以上のように、特定秘密については、公務員は厳格に扱わなければなりません。

一方で、「特定秘密」と指定されたとしても、これを一切口外できないとなると、不当・違法な行為が行われているにもかかわらず秘密にされてしまい、かえって我が国や国民の利益を損ねてしまいかねません。

そもそも、「秘密」とは前述の「徴税トラの巻事件」や「外務省秘密漏洩事件」の判示のように実質的にもそれを秘密として保護するに値するものである必要があります。犯罪に該当したり憲法秩序を脅かすような重大な違反については、保護に値しないといえるでしょう。また、公務員は、職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならないと定められています(刑事訴訟法239条2項)。

したがって、「特定秘密」とされていても公務員が第三者に開示できる場合があると考えられます。

もちろん、「特定秘密」とされている以上、それを第三者に開示するとなると、大きなリスクに直面することになります。

このような状況でお悩みのときは弁護士にご相談ください。

弁護士もまた守秘義務を負っています(弁護士法第23条・弁護士職務基本規程第23条、刑法第134条第1項)。弁護士に相談いただいた内容が漏れることはありません。

お話しいただいた情報を基に、ご懸念の情報が「秘密」に該当するのか、開示できるあるいは開示するべき情報なのか、開示する場合どのようにするべきなのか、アドバイスさせていただきます。

「特定秘密」についてお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

こちらの記事もご覧ください。

公務員と秘密保持

keyboard_arrow_up

0120631881 問い合わせバナー LINE予約はこちら