公務員の懲戒処分

刑罰が定められている法令に違反すると、法令に定められた刑罰を科されます。一方で、公務員については、さらに所属官庁から懲戒処分を下される可能性があります。ここでは、公務員の懲戒処分について解説します。

懲戒処分の根拠

公務員の懲戒について、国家公務員は国家公務員法82条以下に、地方公務員は地方公務員法27条以下に定めています。

国家公務員法・地方公務員法とも、懲戒事由について定めています。

国家公務員法

第二款 懲戒

(懲戒の場合)

第八十二条 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。

 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合

 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

地方公務委員法

(懲戒)

第二十九条 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。

 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれらに基づく条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合

 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

犯罪を犯した場合は、「(国民)全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」に該当するでしょう(国家公務員法82条1項3号、地方公務員法29条1項3号)。

なお、国家公務員については、特別職国家公務員となるために退職出向し、再び国家公務員として採用された場合、退職出向前の非違行為に対し懲戒処分をすることが可能となっています(国家公務員法82条2項)。地方公務員も同様に、特別職地方公務員となるために退職出向し、再び地方公務員として採用された場合、退職出向前の非違行為に対し懲戒処分をすることが可能となっています(地方公務員法29条2項)。また、地方公務員が定年前再任用短時間勤務職員として採用された場合、退職前及び採用中の非違行為に対し懲戒処分をすることが可能になっています(地方公務員法29条3項)。

懲戒手続

国家公務員の場合、懲戒処分は任命権者が行いますが、懲戒手続は人事院が行います(国家公務員法84条1項2項)。

地方公務員の場合は、条例に定められた機関が懲戒手続を行います(地方公務員法29条4項)。

国家公務員法

(懲戒権者)

第八十四条 懲戒処分は、任命権者が、これを行う。

 人事院は、この法律に規定された調査を経て職員を懲戒手続に付することができる。

(国家公務員倫理審査会への権限の委任)

第八十四条の二 人事院は、前条第二項の規定による権限(国家公務員倫理法又はこれに基づく命令(同法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反する行為に関して行われるものに限る。)を国家公務員倫理審査会に委任する。

懲戒手続

刑事手続との関係

公務員の場合、起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。

そして、裁判の結果、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。

国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国家公務員法第85条)。そのため、重大な事件では判決が出る前に懲戒手続がすすめられ、懲戒処分が下されることがあります。

国家公務員法

(刑事裁判との関係)

第八十五条 懲戒に付せらるべき事件が、刑事裁判所に係属する間においても、人事院又は人事院の承認を経て任命権者は、同一事件について、適宜に、懲戒手続を進めることができる。この法律による懲戒処分は、当該職員が、同一又は関連の事件に関し、重ねて刑事上の訴追を受けることを妨げない。

懲戒処分の効果

懲戒処分の種類

懲戒処分には、戒告、減給、停職、免職があります(地方公務員法第29条第1項、国家公務員法第82条第1項)。

免職

公務員の身分を失わせる処分です。

停職

国家公務員の場合、停職の期間は1年以内です(国家公務員法83条1項)。停職中は引き続き職員としての身分を有しますが、職務には従事せず、基本的に給与は受け取れません(国家公務員法83条2項)。

減給

国家公務員の場合、1年以下の期間で、俸給の月額の5分の1以下に相当する額を給与から減らします。

戒告

戒告は、その責任を確認し、将来を戒める処分です。

国家公務員法

(懲戒の効果)

第八十三条 停職の期間は、一年をこえない範囲内において、人事院規則でこれを定める。

 停職者は、職員としての身分を保有するが、その職務に従事しない。停職者は、第九十二条の規定による場合の外、停職の期間中給与を受けることができない。

非違行為が重いほど、処分は重くなります。特に、公務中や公金・官物の取り扱いに関係する非違行為はより重い処分を下されます。例えば、国家公務員の場合、公金や官物を横領した場合は、免職とするとされています。

人事院は、「懲戒処分の指針について」にて懲戒処分の指針を公表しています。

https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html

地方公務員の懲戒の手続や効果は、条例で定めます(地方公務員法29条4項)。

地方公共団体においても、懲戒処分の指針を定めています。

参考:東京都知事部局職員の懲戒処分についての「懲戒処分の指針」

https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/03jinji/choukaisisin.pdf

懲戒処分以外の指導

公務員が不祥事を起こしたときに、「訓告」や「厳重注意」を受けたと言われることがあります。これらは、上級監督者から部下職員に対する指導、監督上の措置として行われるもので、懲戒処分ではありません。

退職金について

犯罪を起こした公務員について懲戒処分とともに公務員に関して「依願退職」という言葉を聞くことがあります。一般企業でいうところの「自主退職」、「自己都合退職」であり、自己の意思で退職したものです。

上記のとおり、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。

また、公金官物の取り扱いに関して犯罪を行うと免職となることが多いですし、重大な犯罪を行うと免職処分を下される可能性が高いです。

禁錮以上の刑に処されるなどして失職した場合や、懲戒免職処分を受けた場合、退職手当の全部または一部が支給されないことがあります(国家公務員退職手当法12条)。在職中に起こした事件について起訴され禁錮以上の刑に処されたことが発覚等した場合、退職手当の支払いの差し止めや支給制限、さらに返納を義務付けられることがあります(国家公務員退職手当法13~15条)。

そのため、懲戒手続がなされる前に退職したとしても、在職中に起こした事件について禁錮以上の刑に処せられると、結局退職金を全額受け取れないことになります。

参考

人事院 服務・懲戒制度

https://www.jinji.go.jp/ichiran/ichiran_fukumu_choukai.html

国家公務員の服務の基本的な事項が載せられています。「義務違反防止ハンドブック」には、懲戒関係についての記載も載せられています。

まとめ

以上のように、公務員が犯罪を犯すと刑罰だけでなく懲戒処分を科されます。重大な違法行為をしたのであれば、自主退職しても退所金が支給されない可能性があります。

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