賄賂罪

東京オリンピックにおける贈収賄など、公務員の収賄事件は大変な問題とみられています。

ここでは、賄賂罪について説明します。

賄賂はなぜ許されないのか

賄賂罪の保護法益(刑罰を科すことで守ろうとする利益)は、「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」とされています(平成7年2月22日最高裁大法廷判決等)。公務員の職務は法令に則り、施策の必要性等を慎重に検討され、公正に行われなければなりません。このような公務員の職務を賄賂で歪められるのは許されないことです。また、公務員の職務が賄賂で左右できるものだと社会一般の人々に思われてしまうこと自体、社会一般の人々の公務員の職務への信頼を損なうものとなり、行政処分への不服従などをもたらしかねず、社会の根幹を揺るがすものとなります。そのため、賄賂罪は厳しく処罰されるのです。

「職務」にあたるか

上記の通り、賄賂罪の保護法益は「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」です。賄賂を受け取る際に特定の職務について依頼を受けたことや実際に公務員の職務が賄賂に影響されたかどうかは犯罪の成立を左右しません。「賄賂を受け取っても不正をしたわけではないから問題ない」というようなことはありません。これらの事情は、賄賂を受けるにあたって請託を受けた場合(受託収賄罪)や賄賂を受けとって実際に不正行為を行った場合(加重収賄罪)の成否に当たって考慮されます。これらの行為は、「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」を害する程度がより大きいため、単純収賄よりも重く処罰されます。

もっとも、賄賂罪の保護法益が「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」である以上、公務員の職務と無関係に公務員に利益を供与しただけでは賄賂罪は成立しません。

賄賂は公務員の「職務」「に関し」収受される必要があります。

賄賂罪の「職務」とは、公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の職務を指します。当該公務員に独立の決裁権は必要ではなく、補助的な職務でも成立します。実際に行った行為が違法だからといって「職務」でなくなるわけでもありません。また、法令上公務員の一般的職務権限に属する行為であれば、具体的事情の下その行為を適法に行うことができたかどうかは問われません。また、具体的に担当する職務でなくとも、法令に定められた一般的職務権限内にあれば職務に当たります。現在その職務を担当していないからといって無関係とはいえません。また、法令に明記された職務だけでなく、これに当然に含まれあるいは付随する行為も「職務」に含まれます。

また、公務員の職務そのものではなくとも、職務に密接に関連する行為も賄賂罪の「職務」に含まれます。

「賄賂」にあたるか

賄賂罪の「賄賂」は職務行為と対価関係にある利益のことをいいます。金銭に限られず、人の欲望や需要を満たす一切の利益をいいます。職務行為との対価である必要がありますので、単なる社交儀礼上の贈答は「賄賂」にあたりません。

なお、賄賂を実際に受け取る「収受」だけでなく、賄賂の供与を求める「要求」をしたり、賄賂の申し込みを承諾する「約束」をした場合でも、収賄罪は成立します。

刑罰

単純収賄罪の刑罰は5年以下の懲役です。罰金刑がなく、重いものとなっています。

受託収賄

収賄にあたって請託を受けた場合は、7年以下の懲役と刑が重くなります。

「請託」とは、公務員がその職務に関する事項について依頼を受けてこれを承諾することを言います。

請託があった場合に刑罰が重くなるのは、一定の職務について依頼を受け承諾することで、職務と賄賂との対価関係がより明白となり、職務の公正に対する社会の信頼を害する程度が高まるからです。

事前収賄

公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合、5年以下の懲役に処されます(刑法197条2項)。

公務員になる前に賄賂を収受等していて、公務員となってしまうと、やはり職務の公正及び職務の公正に対する社会の信頼を害しますので、現職の公務員が収賄した場合と同様に処罰されます。もっとも、ただ賄賂といえるものを収受等しただけでは、職務とのかかわりが薄いため、一定の職務について依頼を受け承諾する「請託を受け」た場合のみ処罰することとしています。

第三者供賄

公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、またはその供与の要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処されます(刑法197条の2)。

公務員自らが賄賂を受けるのに代えて第三者に賄賂を受けさせるような場合も、職務の公正及び職務の公正に対する社会の信頼を害するため、処罰されます。もっとも、公務員本人が賄賂を受けていないため、職務と賄賂の関連性が希薄になるため、請託を受けることが要件となっています。

無論、第三者が仲介役となっているだけで公務員本人が賄賂を受け取っているといえる場合は単純収賄や受託収賄が成立します。また、公務員が保証人となっている主債務者の金銭債務の立替弁済をした場合など、公務員自身に利益をもたらしているといえる場合は第三者供賄ではなく単純収賄や受託収賄が成立します。

加重収賄

公務員が単純収賄や受託収賄、事前収賄、第三者供賄の罪を犯し、その結果不正な行為をし、または相当の行為をしなかったときは、1年以上の有期懲役に処されます(刑法第197条の3第1項)。公務員が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、もしくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をしたときも、同様に処されます(刑法第197条の3第2項)。有期懲役は20年以下ですので(刑法第12条第1項)、1年以上20年以下と非常に重い刑罰となっています。賄賂を受け取ったうえで不正な行為をしたり相当な行為をしなかったのですから、職務の公正を現実に害しており、職務の公正に対する社会の信頼を大きく害しているため、このように重い処罰となっています。

この「不正な行為をし、または相当の行為をしなかった」とは、積極的若しくは消極的行為によりその職務に反する一切の行為を指します。不正な行為によって国等に損害を与える必要はありません。公務員の自由裁量の範囲内であっても不当な処分をした場合も該当するとされています。

事後収賄

公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処されます((刑法第197条の3第3項))。在職中に請託を受けて不正を行い、退職してからその見返りとして賄賂を収受等すれば、やはり職務の公正や職務の公正に対する社会の信頼を害するため、処罰の対象となります。退職してから賄賂を収受等するため、在職中の職務と賄賂との対価関係が希薄であることから、在職中の請託や不正行為も要件となっています。なお、在職中に請託を受けて職務上不正な行為をするだけでなく、賄賂の要求や約束をし、退職後に受け取っていた場合、加重収賄罪も成立し、より重い加重収賄罪で処罰されます。

あっせん収賄

公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処されます(刑法第197条の4)。

「あっせん」とは贈賄者と他の公務員との間に立って仲介の労をとることをいいます。このような、公務員が他の公務員の職に関しあっせんをして謝礼を受け取る「口利き」を処罰するために定められています。自身の職務に関することではないので、請託を受けて、職務上不正な行為をさせ又は相当な行為をさせないようあっせんする必要があります。

賄賂の没収

犯人や賄賂であることを認識している第三者が受け取った賄賂は没収します。費消されたり、接待など性質上没収できない場合は、その価額を金銭的に評価して没収します(刑法第197条の5)。

これは賄賂を収受した者たちに不正な利益を残さないようにするためです。

まとめ

収賄については厳しい処罰が予定され、また利益も没収されます。これは職務の公正とそれに対する社会の信頼を守るために定められています。

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