事例
国家公務員であるAさんは、その日、終わらせるべき仕事が終わらず、庁舎の外に持ち出しが許されていないにもかかわらず、資料を鞄に入れて持って庁舎を出ました。ところが、Aさんは、その帰り道、同僚のBさんとたまたま会い、Bさんから、少し飲みに行かないかと誘われました。
Aさんは、これまで、職場の資料を持ち帰ったことがなかったため、自分が資料を持っていることをすっかり忘れており、Bさんと居酒屋に行くことにしました。
Aさん達は、居酒屋に入り、Aさんは座席の足元に鞄を置き、お酒を飲み始めました。そして、Aさん達は、一通り食事を済ませ、お店を出ることにしました。
しかし、Aさんの座席の足元にあるはずのAさんの鞄がなく、どうやら盗まれてしまったようです。警察にも盗難届を出しましたが、結局、見つかりませんでした。(フィクションです)
解説
⑴ 不注意での紛失は犯罪ではない
Aさんは、職場の資料を「不注意で」紛失していますが、この場合、Aさんに犯罪は成立しません。
これに対して、公務員の場合、「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。」とされており(国家公務員法100条1項。地方公務員については、地方公務員法34条1項)、この規定に違反し、秘密を(故意に)漏らした者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処するとされています(国家公務員法109条12号。地方公務員の場合も同様で、地方公務員法60条2号)。
つまり、故意に情報を漏洩した場合には、国家公務員法や地方公務員法違反の罪に問われる可能性があります。
⑵ 不注意での紛失でも職を失う可能性がある
Aさんの場合、犯罪は成立しませんので、欠格事由に当たることはありません(国家公務員法76条、地方公務員法28条4項)。
もっとも、Aさんは、懲戒処分を受ける可能性があります。国家公務員の懲戒処分の基準として、人事院事務総長が発する「懲戒処分の指針」(平成12年3月31日職職―68)において、「具体的に命令され、又は注意喚起された情報セキュリティ対策を怠ったことにより、職務上の秘密が漏えいし、公務の運営に重大な支障を生じさせた職員は、停職、減給又は戒告とする。」とされています(第2・1⑻イ)。
Aさんは、その資料を外に持ち出さないようにという具体的な命令を受けていたにもかかわらず、資料を持ち出し、その結果、資料を紛失しているため、この規定に該当する可能性があります。
その「懲戒処分の指針」第2・1⒀ウには、「公文書を改ざんし、紛失し、又は誤って廃棄し、その他不適正に取り扱ったことにより、公務の運営に重大な支障を生じさせた職員は、停職、減給又は戒告とする。」ともされており、Aさんはこの規定にも該当する可能性があります。
Aさんは、こうした基準に従って、懲戒処分を受ける可能性があります。もっとも、こうした基準は、あくまでも1つの基準にすぎず、実際には、個別事情を考慮して判断されます。いくつか例を挙げるとすれば、Aさんの不注意の程度や、どのような資料を持ち出したかどうか、職場に自主的に申し出たかどうか等の個別事情を考慮して判断されます。
そのため、情報漏洩をしてしまった場合、早期に職場に申し出るかどうか、申し出るとしてどのような事情を説明すべきかといった点について、早期に弁護士に相談する必要があります。
最後に
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心に扱う弁護士が依頼者を誠心誠意サポートします。
情報漏洩行為が犯罪に該当するかどうか、これからどのような対応をすべきかご心配な公務員の方は、まずは弊所までご相談ください。