事例
東京都X区役所にて働くAさんは、以前から好意を寄せていたBさん(25歳)と食事に行った帰り道、人気のない路地に差し掛かったところで、急にBさんに抱きついた上で、無理矢理キスをしてしまいました。(フィクションです)
解説
⑴ 不同意わいせつ罪の成立
Aさんには、Bさんに対し、急に抱きつくという「同意しない意思を」「表明」「するいとまがない」状態にし、キスをするという「わいせつな行為」に及んでいることから、不同意わいせつ罪(刑法176条1項)が成立します。強制わいせつ罪の法定刑は、6月以上10年以下の拘禁刑です。
なお、不同意わいせつ罪の他にも、監護者(典型的には親)であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者に成立する監護者わいせつ罪(刑法179条1項)、不同意わいせつ罪等に該当する行為を行い、その機会に人を死傷させた者に成立する不同意わいせつ致死傷罪(刑法181条1項)があります。
⑵ 不同意性交等罪とは
先ほどの事例とは異なり、「前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び179条第2項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、5年以上の有期拘禁刑に処する。」とされています(刑法177条1項)。
これまで強姦罪強制性交等罪と呼ばれていた犯罪となります。
なお、不同意性交等罪にも、監護者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者に成立する監護者性交等罪(刑法179条2項)、不同意性交等罪等に該当する行為を行い、その機会に人を死傷させた者に成立する強制性交等致死傷罪(刑法181条2項)があります。
⑶ 逮捕される可能性が高い
不同意わいせつの容疑が掛けられた場合、法定刑が拘禁刑のみが定められている重大犯罪であることや、Aさんのように被害者との面識があることなどから逮捕される可能性が高い犯罪であるといえます。
Aさんが逮捕されると、仕事を一定期間休まざるを得なくなり、職場に事件のことを知られる可能性が高くなります。
また、公務員が逮捕された場合、社会全体としても関心が高いものとして、報道されるリスクが高いといえます。事件のことが報道された場合、職場に知られる可能性が高くなり、職場に知られると、後で説明するように懲戒処分を受ける可能性が出てきます。
もっとも、実際に報道されるかどうかは、報道機関ごとの判断になりますので、早期に釈放を目指す必要があります。
逮捕された場合には、早期に身体解放を目指す必要があり、逮捕された場合には少しでも早く弁護士に相談する必要があります。
⑷ 懲役刑となった場合、欠格事由に該当してしまう
先ほども説明したように、不同意わいせつの法定刑は、拘禁刑のみが定められていますので、起訴され、有罪となると、執行猶予が付くかどうかという点はありますが、無罪とならなければいずれにせよ拘禁刑となります。
公務員の場合、欠格事由というものが定められていて、これに該当してしまうと、公務員は、当然に職を失うこととされています(国家公務員法76条、地方公務員法28条4項)。そして、拘禁刑の判決となってしまうと、仮に執行猶予が付いたとしても、この欠格事由に該当することになります(国家公務員法38条1号、地方公務員法16条1号)。
Aさんが、不同意わいせつの罪で有罪となり、執行猶予付きの拘禁刑となったとしても、欠格事由になり、公務員の職を失ってしまいます。
そこで、Aさんとしては、不起訴を目指していく必要があります。この点に関する具体的な弁護活動としては、被害者と示談した上で、検察官に対し、不起訴とすべきだと働き掛けていくといったことが考えられます。
⑸ 不起訴となったとしても懲戒処分の可能性がある
Aさんが不起訴となり、欠格事由に当たらないとしても、事件を起こしたことが職場に知られてしまうと、懲戒処分を受ける可能性があります(地方公務員法29条1項3号。国家公務員については国家公務員法82条1項3号を参照)。
東京都は、懲戒処分に関する基準を公表しており、その中で、「暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした職員は、免職とする。」とされています(第5・3⒀ア)。
Aさんについても、事件のことが職場に知られると懲戒免職となることが予想されます。そこで、そもそも職場に知られないための活動をしていく必要があります。
先ほど話したように、身体拘束されている場合には、早期の釈放を目指す必要があります。
また、身体拘束を受けていない場合においても、捜査に積極的に協力し、職場に連絡する必要がないことなどを、捜査機関に説明し、早期に不起訴とするように働き掛けていくといったことが考えられます。
事件のことが職場に知られ、懲戒処分を受けるかが問題となった場合においても、実際にどのような懲戒処分を受けるかは、先ほど話したような基準をベースとしつつも、様々な事情を考慮して判断されることになります。
ここで考慮される事情には、被害者と示談ができているかどうかといった点も含まれると考えられます。よって、懲戒処分を受ける可能性が出てきた場合、職場に対し、そうした事情をきちんと説明していく必要があります。
最後に
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心に扱う弁護士が依頼者に手厚いサポートをいたします。
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