公務員のハラスメントと懲戒処分・犯罪-公務員がハラスメントを起こした場合の懲戒処分や刑罰について解説

自衛隊内でのセクハラ、役所内でのパワハラなど、公務員のハラスメントが問題となっています。このようなハラスメントは懲戒処分の対象になりますし、悪質なものは刑事事件となってしまいます。ここでは、公務員がハラスメントをした場合どうなるかについて解説します。

ハラスメントについて

ハラスメントは人間の尊厳を侵害する行為を指しますが、代表的なものはパワーハラスメント(パワハラ)とセクシャルハラスメント(セクハラ)です。

パワハラとは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業関係が害されるものであり、①~③までの要素のすべてを満たすものをいいます。①優越的な関係とは、上司や部下という関係が一般的ですが、部下であっても代替できない資格・技能を有していたり、多数の部下が共同して業務に支障が出るようにする場合も、優越的な関係を背景としたといえます。②については、厳しい叱責であっても、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しません。これを越えた、業務とは無関係な話や、殊更に他の職員のいる前でさらしものにしたり、人格攻撃に至れば、業務上必要かつ相当な範囲を超えたとされます。③については、①や②該当する言動が行われれば、その対象となった者の心身に不調をきたしますし、職場内も対象になった者に不当な対応をする雰囲気になったりするため、該当することになるでしょう。

セクハラとは、「他の者(職員以外も含む)を不快にさせる職場における性的な言動」又は「職員が他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動」をいいます。「性的な言動」とは、①性的な関心や欲求に基づくものをいい、②性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動、③性的指向や性自認に関する偏見に基づく言動も含まれます。性的な内容の発言や性的な行動のことをいいます。性的な関心や欲求に基づくものの具体例としては、性的な事実関係を尋ねることや性的な内容のうわさを流すこと、性的な冗談やからかいのほか、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すこと、不同意性交や不同意わいせつ行為、性的な関係を強要することや、必要なく身体に触れること、わいせつ図画を配布・掲示すること等があります。職員間においては、場所・時間の限定はなく、「職員以外の者」との関係では「職場・勤務時間内(超過勤務時間も含む)」に限られますが、「職場」とは「職務に従事する場所」をいい、庁舎内に限らず出張先等も該当します。

懲戒処分

公務員がその職務に関してパワハラやセクハラをすると、非違行為をしたとして、重い懲戒処分を受けることになります。

国家公務員については、「防止リーフレット」や「義務違反防止ハンドブック」に、ハラスメントの防止や懲戒処分の指針について記載されています。また、人事院の「懲戒処分の指針」にも、ハラスメントをした場合の懲戒処分について定められています。

人事院の「懲戒処分の指針」によると、「1 一般服務関係」において、「 (14)セクシュアル・ハラスメント(他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び他の職員を不快にさせる職場外における性的な言動)」の「ア 暴行若しくは脅迫を用いてわいせつな行為をし、又は職場における上司・部下等の関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び若しくはわいせつな行為をした職員」は、免職又は停職となります。「イ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞、性的な内容の電話、性的な内容の手紙・電子メールの送付、身体的接触、つきまとい等の性的な言動(以下「わいせつな言辞等の性的な言動」という。)を繰り返した」職員は、停職又は減給となります。この場合においてわいせつな言辞等の性的な言動を執拗に繰り返したことにより相手が強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患したときは、当該職員は免職又は停職とより重い処分となります。「ウ 相手の意に反することを認識の上で、わいせつな言辞等の性的な言動を行った」職員は、減給又は戒告となります。

「(15)パワー・ハラスメント」の「ア 著しい精神的又は身体的な苦痛を与えたもの」は停職・減給・戒告の対象となります。「イ 指導、注意等を受けたにもかかわらず、繰り返したもの」は戒告では済まされず、停職又は減給とより重くなります。「ウ 強度の心的ストレスの重責による精神疾患に罹患させたもの」は免職・停職・減給の対象となり、もっとも重い懲戒免職もありえます。

これらの事案について処分を行うに際しては、具体的な行為の態様、悪質性等も情状として考慮の上判断するものとしています。

犯罪・刑事責任

パワハラやセクハラに含まれる行為であっても、その態様や状況によって様々なものがあり、行政庁内の懲戒処分にとどまらず、民事責任、さらには刑事責任を負う行為もあります。

相手に暴行したり怪我を負わせた場合、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)に問われる可能性があります。殴るなどの有形力の行使によって怪我をさせただけでなく、強いストレスを与えて相手を精神疾患に罹患させた場合も、傷害罪になりえます。個室に数名しかいない状況で叱責するようなものではなく、大勢の人がいる場所で侮辱したり人格を否定するような罵倒をすれば、侮辱罪(刑法231条)や名誉毀損罪(230条)が成立する可能性があります。

セクハラについても態様によっては、不同意性交等(刑法第177条第1項)や不同意わいせつ(刑法第176条第1項)に該当します。刑法第176条第1項の「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」にさせる事由として挙げられている「八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。」は、まさに職場での上下関係を利用したハラスメントです。その他、わいせつな図画の配布がわいせつ物頒布等罪(刑法第175条)に該当する可能性があります。

また、懲戒処分において、「これらの事案について処分を行うに際しては、具体的な行為の態様、悪質性等も情状として考慮の上判断する」と書きましたが、刑事事件として処理される場合、さらに懲戒処分も重くなる可能性があります。上述の人事院の「懲戒処分の指針」では「3 公務外非行関係」で「(3)傷害 人の身体を傷害した職員は、停職又は減給とする。」と定めていますが、ハラスメントにより人を傷害させたといえるときは、これと同等以上の処分を受けることにもなります。

なお、国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国家公務員法第85条)が、起訴される前に懲戒処分を下されることもあります。

公務員のパワハラについては、次の記事もご覧ください。

公務員とハラスメント

まとめ

このように、公務員がハラスメントを起こした場合、懲戒処分や刑罰など多くの不利益が科される可能性があります。ご自身の言動がハラスメントに当たるかお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

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