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汚職の罪

2023-08-06

公務員は全体の奉仕者として、公共の利益のために職務を行うものであり、一般国民が持てないような職権を持ち、逮捕のように国民の権利利益に強制的に介入する公権力の行使などを行います。このような公務員がその職権を濫用すれば、公務の適正が害され、公務に対する国民の信頼も損なわれてしまいます。そのため、公務員が職権を濫用することに対しては、重い刑罰が科されます。

この記事では、公務員の汚職について解説します。

職権濫用罪

職権を濫用して国民の権利利益を侵害した場合、害悪が重く、公務の適正を害するため、職権乱用を処罰する規定が定められています。特に人の身体を強制的に拘束する権限を濫用した場合は、害悪が甚大であるため、より重く処罰されます。

公務員職権濫用

公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、公務員職権濫用罪が成立し、2年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法193条)。

「職権」とは公務員の一般的職務権限に属する行為を指します。「濫用」とは、この職権の行使に仮託して、実質的、具体的に違法・不当な行為をすることをいいます。

公務員職権濫用罪は2年以下の懲役に処すると定められており、3年以下の懲役に処される強要罪(刑法223条)より刑罰が軽くなっています。これは、公務の適正の確保という抽象的な利益を保護法益とするためです。

公務員職権濫用罪に該当する行為でも、暴行や、生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した場合は、強要罪のみが成立するとされています。強要罪の場合は、未遂罪も処罰されます(刑法223条3項)。

特別公務員職権濫用

裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、6月以上10年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法194条)。

本罪の主体は、裁判官、検察官、検察事務官、警察官、のほか、裁判所書記官などが該当します。

これらの公務員は刑事司法に関して職務上逮捕等により人を拘束する権限を有しています。このような職権を濫用することは害悪が甚大であるため、逮捕監禁罪(刑法220条。3月以上7年以下の懲役)よりも刑罰が重くなっています。

特別公務員暴行陵虐

裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、特別公務員暴行陵虐罪が成立し、7年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法195条1項)。法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、同様に処罰されます(刑法195条2項)。

1項の罪の主体も、特別公務員職権濫用罪と同じく、裁判官、検察官、検察事務官、警察官、裁判所書記官などが該当しますが、人を逮捕監禁する権限を有しない者も対象になります。

暴行とは暴行罪などと同じく身体に対する不法な有形力の行使をいいます。

陵辱とは辱める行為や精神的に苦痛を与える行為、加虐とは苦しめる行為や身体に対する直接の有形力の行使以外の肉体的な苦痛を加える行為などをいいます。わいせつ行為など、暴行以外の方法で精神的又は肉体的に苦痛を与える行為が該当します。

2項の「法令により拘禁された者」とは、逮捕や勾留されている者など、法令上の規定に基づいて公権力により拘禁されている者をいいます。このような者を「看取又は護送する者」が本罪の主体となります。

特別公務員職権濫用罪や特別公務員暴行陵虐罪を犯し、よって人を死傷させた場合は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断されます(刑法196条)。

傷害罪は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金(刑法204条)、傷害致死罪は3年以上の有期懲役(刑法205条)に処されます。

特別公務員職権濫用罪は6月以上10年以下と、短期については傷害罪より重いため、特別行員職権濫用致傷罪の場合は6月以上15年以下の刑が科されます。

その他の致傷罪は1月以上15年以下の懲役、致死罪は3年以上20年以下の懲役となります。

賄賂罪

公務員がその職務に関し賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処されます(刑法197条1項)。

賄賂罪の保護法益は、「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」とされています(平成7年2月22日最高裁大法廷判決等)。公務員の職務は法令に則り、施策の必要性等を慎重に検討され、公正に行われなければなりません。このような公務員の職務を賄賂で歪められるのは許されないことです。また、公務員の職務が賄賂で左右できるものだと社会一般の人々に思われてしまうこと自体、社会一般の人々の公務員の職務への信頼を損なうものとなり、行政処分への不服従などをもたらしかねず、社会の根幹を揺るがすものとなります。そのため、賄賂罪は厳しく処罰されるのです。

収賄にあたって請託を受けた場合は、職務と賄賂との対価関係がより明白となり、職務の公正に対する社会の信頼を害する程度が高まるため、受託収賄罪が成立し、7年以下の懲役と刑が重くなります。

公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合、事前収賄罪が成立し、5年以下の懲役に処されます(刑法197条2項)。

公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、またはその供与の要求若しくは約束をしたときは、第三者供賄罪が成立し、5年以下の懲役に処されます(刑法197条の2)。

公務員が単純収賄や受託収賄、事前収賄、第三者供賄の罪を犯し、その結果不正な行為をし、または相当の行為をしなかったときは、加重収賄罪が成立し、1年以上の有期懲役に処されます(刑法第197条の3第1項)。公務員が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、もしくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をしたときも、同様に処されます(刑法第197条の3第2項)。賄賂を受け取ったうえで不正な行為をしたり相当な行為をしなかったのですから、職務の公正を現実に害しており、職務の公正に対する社会の信頼を大きく害しているため、このように重い処罰となっています。

公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、事後収賄罪が成立し、5年以下の懲役に処されます((刑法第197条の3第3項)。

公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、あっせん収賄罪が成立し5年以下の懲役に処されます(刑法第197条の4)。

賄賂の没収

犯人や賄賂であることを認識している第三者が受け取った賄賂は没収します。費消されたり、接待など性質上没収できない場合は、その価額を金銭的に評価して没収します(刑法第197条の5)。これは賄賂を収受した者たちに不正な利益を残さないようにするためです。

おわりに

以上のように、公務員の汚職事件は重い刑罰を科される可能性が高いです。そのため、早期に弁護士に相談して対応を決めるべきです。

公文書偽造

2023-07-28

文書の偽造は文書に対する社会の信用を害するとして厳しく処罰されます。公務員の作成する公文書が偽造された場合、社会の信用は大きく害されるため、より重く処罰されます。ここでは、公務員による文書偽造について解説します。

公文書偽造

個人や私企業について、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造した場合は、私文書偽造罪が成立します(刑法159条)。

一方で、行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書を偽造した者は、公文書偽造罪に問われます。(刑法155条1項)。私文書偽造罪の法定刑は3月以上5年以下の懲役(刑法159条1項)ですが、公文書偽造罪の法定刑は1年以上10年以下の懲役(刑法155条1項)と重くなっています。公文書はその信用性が一般の文書よりも重いため、文書に対する社会的信用を損ねる程度もより大きくなるため、処罰はより重くなっています。

偽造とは、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽って文書を作成する、つまり文書の名義人以外の者が名義を冒用して文書を作成することをいいます。上司の決裁が必要な文書を勝手に作成した場合が当たります。一方、公務員が自分一人で全て作成できる文書を濫用して作成しても、偽造とはいえません。もっとも、その文書の内容が虚偽の場合、後述の虚偽公文書作成罪に当たる可能性があります。

行使の目的とは、他人にその偽造文書を真正な文書と誤信させる目的をいいます。

公務所又は公務員が押印し又は署名した文書または図画、つまり公文書を変造した者も、同様に処罰されます(刑法155条2項)。

変造とは、文書の名義人でない者が、真正に成立した文書の内容に改ざんを加えることをいいます。数字部分など、文書の本質的ではない部分を改ざんした場合が変造に当たります。対象事業など文書の本質的な部分を改ざんした場合はもはや別の文書であり、偽造となります。

これらは公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用する文書を対象としており、そうした文書を有印公文書といいます。一方、このような印章や署名のない文書は無印公文書といわれ、これを偽造又は変造した場合は、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処されます(刑法155条3項)。公務員や公務所の印章や署名のある文書の方がより信用性が高いため、有印公文書偽造・変造の方が重く処罰されます。

これらの公文書偽造・変造は、文書の名義人を偽る罪とされています。これらは有形偽造といわれています。

一方で、文書の名義人は偽っていない、つまり当該文書を作成する正当な権限のある者が作成した場合であって、内容が虚偽の文書を作成する場合は、無形偽造と呼ばれます。私文書の場合名義人と作成者が一致するのであればその内容については名義人が責任を負うため、その内容が偽りであるからといってそのことを理由に処罰はされません。一方、公文書の場合、その内容の証拠力や証明力は一般的に高く、公文書の内容の真実性も保護しなければならないため、このような無形偽造も処罰しています。

虚偽公文書作成

公務員が、自分自身で作成できる文書であっても、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造した場合は、虚偽公文書作成罪(刑法156条)が成立します。公文書は特に信用性が高いため、名義を偽っていなくても内容を偽っていれば処罰します。

ここでの行使の目的とは、虚偽の文書を内容が真実な文書であると誤信させようとする目的のことをいいます。

虚偽公文書作成罪も、虚偽の内容を作成された公文書が有印公文書か無印公文書かにより区別されます。有印公文書の場合、1年以上10年以下の懲役に処されます。無印公文書の場合、3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処されます。

公正証書原本不実記載等

一般市民が公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿や戸籍簿など権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせた場合は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(刑法157条1項)。現在は登記簿や戸籍は電子データとして記録させることが多く、「公正証書の原本として用いられる電磁的記録」に不実の記録をさせた場合は「電磁的公正証書原本不実記録罪」として、同様に処罰されます。偽装結婚をして婚姻届を提出する場合などがこれらの罪に当たります。

公務員が共謀してこのような虚偽の申立てをして不実の記載又は記録をさせた場合、公務員は公正証書原本不実記載等ではなく虚偽公文書作成の共同正犯となるとされています。

詔書偽造等

行使の目的で、御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造し、又は偽造した御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書尊他の文書を偽造した者は、無期又は3年以上の懲役に処されます(刑法154条1項)。御璽若しくは国璽を押し又は御名を署した詔書その他の文書を変造した者も同様に処罰されます(刑法154条2項)。「御璽」は天皇の印章、「国璽」は日本国の国章、「御名」は天皇の署名、「詔書」は天皇が一定の国事行為に関する意思表示を公示するために内閣総理大臣の副署など一定の形式により作成される文書を言います。このような天皇名義の文書は、一般の公文書に比べてより一層保護する必要があることから、非常に重い刑罰が定められています。

偽造公文書行使等

公文書偽造罪、詔書偽造、虚偽公文書作成罪、公正証書原本不実記載罪により作成された文書を行使した場合は、偽造公文書等行使罪に問われます(刑法158条)。法定刑は、それぞれの偽造罪と同じです。公文書偽造に当たる行為により作成された偽造公文書を行使した場合は、公文書偽造罪と同じ1年以上10年以下の懲役に処されます。

関連犯罪との関係

各公文書偽造罪(刑法154条から157条)とその行使罪(刑法158条)を行った場合、公文書の偽造と行使は手段と目的の関係にあるため、牽連犯(刑法54条1項)として処断されます。牽連犯の場合、最も重い刑により処断されますが、公文書偽造とその行使罪は法定刑が同じですので、その法定刑により処断されます。

公文書の偽造や行使は、他の犯罪の手段として行われることが多くあります。この場合、牽連犯として最も重い刑により処断されます。たとえば、偽造した運転免許証を示して別人のように装って詐欺を行った場合、詐欺罪と偽造公文書等行使罪が成立しますが、詐欺罪は短期が1か月、長期が10年の懲役であり、偽造公文書等行使罪は短期が1年、長期が10年の懲役ですので、短期と長期其々が重い方で処断され、1年以上10年以下の刑が科されます。

公文書の偽造は談合や贈収賄等他の犯罪を隠ぺいするために行われることが多くあります。この場合、公文書の偽造や行使がそれらの犯罪の手段として行われたとはいえない場合があります。このような場合は併合罪(刑法45条)として処断されます。併合罪に当たる罪で複数の罪が有期懲役刑に当たる場合、最も重い刑の長期の1.5倍が長期となります。ただし、それぞれの刑の長期を越えることはできません(刑法47条)。たとえば、虚偽公文書作成罪と受託収賄罪(刑法197条1項)が成立した場合、虚偽公文書作成罪は1年以上10年以下の懲役、受託収賄罪は7年以下の懲役ですので、1年以上15年以下の懲役になります。

公文書の偽造は単発で終わるのでなく継続的常習的に行われることが多々あります。また、贈収賄などの他の犯罪ともかかわりがあることが多く、非常に厳しく処罰されます。

公務員の横領事件

2023-07-24

横領(刑法252条)や業務上横領(刑法253条)は、公務員以外の職種でも問題となりますが、公務員が行った場合、その隠ぺいのために公文書偽造等(刑法155条)を行うなど他の公務員犯罪につながりかねません。また、このような犯罪は、勤務先に損害を与えるだけでなく、公務員に対する社会的信用全体を損ねる点で、より厳しく処罰されます。

ここでは、公務員の横領について解説します。

横領罪

横領罪の対象(客体)

横領罪の対象(客体)となるのは、「自己の占有する他人の物」です。現金の他、保管中の遺失物なども対象になり得ます。

「占有」とは、事実上の占有だけでなく、法律上の占有も含まれます。預金なども対象になり得ますが、預金通帳やキャッシュカード等を事務的に預かっているだけでは預金を占有しているとはいえません。

金銭は一般的に占有者の所有に属しますので「自己の物」になりますが、一定の目的・使途を定めて委託された金銭の所有権は依然として委託者にありますので、「他人の物」になります。

占有の基礎には、物の所有者等と占有者との間に委託信任関係がなければならないとされています。委託とは無関係に偶然に支配下に入った物はあくまで遺失物等横領(刑法254条)の客体になります。

横領行為

「横領」とは、不法領得の意思を実現する一切の行為をいいます。この「不法領得の意思」とは、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」をいうとされています。窃盗罪ではこの不法領得の意思は「権利者を排除し、他人の所有物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」といわれており、単に毀棄隠匿する意思の場合は窃盗罪の不法領得の意思には当たらないとされています。一方で、横領罪の不法領得の意思の場合は「経済的用法に従」う必要はなく、毀棄隠匿するだけでも成立し得ます。もっとも、保管している自転車に短時間乗車して元に戻すような、単なる一時使用の目的で使用しただけでは、不法領得の意思は認められないでしょう。一方、預かっている預金を自己の都合で使用し、後日穴埋めするような場合は、委託者の許すような性質ではなく、一時使用とはいえず不法領得の意思があるとされています。

「横領」に該当する行為の態様は、着服、毀棄・隠匿のほか、売却や貸与、譲渡担保や抵当権などの担保権の設定、質入れなど多彩な行為が考えられます。

業務上横領

横領罪(単純横領罪)は5年以下の懲役ですが、業務上横領罪は10年以下の懲役と重い刑罰になっています。横領罪の公訴時効は5年(刑事訴訟法250条2項5号)ですが、業務上横領罪の公訴時効は7年(刑事訴訟法250条2項4号)となっており、より古い時期に遡って不正行為が追及されます。このように業務上横領罪が単純横領罪よりも重くなっているのは、物の占有が業務上の委託信任関係に基づいており、これを破ることはより強く非難に値するためです。

業務」とは、人がその社会生活上の地位に基づき反復継続して行う事務です。公務員がその仕事として行うものであれば「業務上」占有すると判断されるでしょうから、公務員がその業務に関係する物を横領した場合は、多くは業務上横領罪に当たるでしょう。なお、業務上占有できる物を占有していたとしても、業務とは無関係に占有した場合は、業務上占有しているとはいえません。

共犯

横領の計画を策定して分け前を受け取ったり、売却や質入れなどの横領行為にかかわるなど、公務員が公務員でないものと共謀して横領した場合、公務員でない者も公務員と共に処罰されます。横領・業務上横領の占有者のような「一定の犯罪に行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態」は「身分」といわれており、この有無によって犯罪の成否や刑罰の重さが決まる犯罪もあります。共犯の場合、刑法65条によって刑罰が決まります。

業務上横領罪については、公務員でない者は「占有する」という身分を持っていませんが、同時に「業務上」占有するという身分も持っていません。まず、横領罪は「占有する」かどうかで犯罪の成否が変わりますので、刑法65条1項の「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為」にあたり、「占有」していない者にも横領罪が成立します。次に、「業務上」占有しているかどうかで業務上横領罪と横領罪という刑の軽重がありますので、刑法65条2項の「身分によって特に刑の軽重」にあたり、「業務上」占有していない者には、単純横領罪の刑が科されます。(なお、この場合に業務上横領罪と単純横領罪のいずれの犯罪が成立するかについては、裁判例も定まっていません。)

したがって、公務員の横領に公務員でない者が加担した場合、公務員には業務上横領罪が成立しその刑が科されますが、公務員でない者については単純横領罪の刑が科されることになります。

他の犯罪への派生

公務員に限られませんが、自分の勤務するところで横領をした場合、それが発覚しないように関係書類を改ざんしたり、関係者に金銭を渡して口止めをするといったさらなる不正行為が行われることが多々あります。公務員以外の者がする場合、私文書偽造や詐欺や電子計算機使用詐欺、不正アクセス防止法違反などが考えられます。これらの罪も軽くはありませんが、公務員がすると、他の犯罪に該当する場合があります。

文書偽造

個人や私企業について、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書等を偽造した場合は、私文書偽造罪が成立します(刑法159条)。一方で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書等を偽造した場合は、公文書偽造罪が成立します(刑法155条)。私文書偽造罪の法定刑は3月以上5年以下の懲役(刑法159条1項)ですが、公文書偽造の法定刑は1年以上10年以下の懲役(刑法155条1項)と重くなっています。公文書はその信用性が一般の文書よりも重いため、文書に対する社会的信用を損ねる程度もより大きくなるため、処罰はより重くなっています。

これら私文書偽造や公文書偽造は、有形偽造といわれ、文書の作成者の名義を偽る犯罪です。例えば、上司の決裁がなければ作成できない文書を勝手に作成する場合が当たります。

一方で、公務員が、自分自身で作成できる文書であっても、内容が虚偽の文書を作成する等した場合は、虚偽公文書作成罪(刑法156条)が成立します。これは文書の内容を偽る犯罪で、無形偽造といわれています。公文書は特に信用性が高いため、名義を偽っていなくても処罰します。

以上をまとめると、公務員が自らの横領を隠ぺいするために上司の決裁が必要な文書を勝手に作成した場合は公文書偽造罪、自らが作成できる文書の内容を偽った場合は虚偽公文書作成罪が成立します。

これらの公文書偽造罪や虚偽公文書作成罪により作成された文書を、上司や関係部署に提出した場合、偽造公文書を行使したとして偽造公文書行使罪(刑法158条)が成立します。法定刑は公文書偽造等と同じ1年以上10年以下の懲役です。

贈収賄

公務員は法令に忠実に従うことを職責としており、法令違反があれば是正する必要があります。公務員が同僚に対して金銭等を提供してみずからの横領行為を隠ぺいや黙認するよう働きかけた場合は、その金銭等を提供した公務員には贈賄罪(刑法198条)、受け取った公務員には収賄罪(刑法197条1項)が成立します。贈賄罪は3年以下の懲役又は250万円以下の罰金です。単に賄賂を受け取った単純収賄罪は5年以下の懲役、請託を受けた受託収賄罪は7年以下の懲役となります。具体的な横領行為について隠ぺい等するよう依頼するのであれば、受託収賄罪にあたるでしょう。これを受けて賄賂を受け取った公務員が、不正をただすべきにもかかわらず上司等に報告しなかったりして横領行為を放置すれば、「相当の行為をしなかった」として加重収賄罪(刑法197条の3第1項)が成立するでしょう。法定刑は1年以上20年以下の有期懲役と非常に重くなっています。

横領との関係

これらの犯罪が横領罪又は業務上横領罪の手段として行われた場合、牽連犯(刑法54条1項)として最も重い刑により処断されます。たとえば、業務上保管している動産を勝手に持ち出す際に、法令に基づく処分かのように作成した書類を上司に提出すれば、業務上横領罪と偽造公文書等行使罪が成立しますが、業務上横領罪は下限が1か月、上限が10年の懲役であり、偽造公文書等行使罪は下限が1年、上限が10年の懲役ですので、1年以上10年以下の刑が科されます。

一方で、横領行為そのものではなく、これを隠ぺいするためなど横領罪と並列して行われた場合、併合罪として処罰されます。この場合、最も重い刑の上限の1.5倍を上限として刑が科されます。ただし、それぞれの刑の長期の合計を越えることはできません(刑法47条)。業務上横領罪と偽造公文書等行使罪が成立している場合、1年以上15年以下の懲役となるでしょう。

まとめ

このように、公務員の横領は厳しく処罰されるうえ、関係する他の犯罪も厳しく処罰されるでしょう。

公務員と職務と賄賂

2023-07-17

東京オリンピックにおける汚職で、贈収賄が大変な問題になりました。オリンピック委員会の委員という立場で賄賂を受け取ったという疑いで、みなし公務員規定や、職務との関係が問題とされています。ここでは、賄賂罪における公務員や職務、賄賂について説明します。

「公務員」

刑法第197条第1項は、「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。」と定めています。

この「公務員」については、刑法第7条第1項に定められています。同条項では「この法律において『公務員』とは、国または地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。」と定められています。

「法令」には、法律や条例だけでなく、行政内部の通達や訓令も含まれます。

「公務に従事する」とは、職務権限の定めがある必要はなく、その公務に従事する資格が上記の「法令」に根拠を有し、これにより公務を行うことをいいます。

「公務」は必ずしも公権力の行使など強制力を行使するものに限られません。

「議員、委員、その他の職員」が刑法上の公務員に当たり、単に機械的、肉体的な業務に従事する者は含まれません。「議員」は国会議員や地方議会の議員、「委員」とは、国又は地方公共団体において任命、委嘱、選挙等により一定の事務を委任・嘱託される非常勤の者をいいます。「その他の職員」とは、議員、委員のほか、国又は地方公共団体の期間として公務に従事するすべての者をいいます。

刑法第7条にこのように定義されているほか、特別法では、その職務の性質を鑑みて、刑法やその他の罰則については公務員とみなす規定が設けられています。これを「みなし公務員規定」といいます。

オリンピックの組織委員会の役員や職員についても、次のように「みなし公務員規定」が定められています。

令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法

(組織委員会の役員及び職員の地位)

第二十八条 組織委員会の役員及び職員は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす。

この規定により、組織員会の理事も「法令により公務に従事する職員」すなわち公務員として扱われます。

刑法第7条やみなし公務員規定により「公務員」に当たる者が賄賂罪に該当する行為を行えば、この罪に問われます。

「職務」

賄賂罪について基本となる単純収賄罪及び受託収賄罪は、次のとおり定められています。

(収賄、受託収賄及び事前収賄)

第百九十七条 公務員が、その職務に関し、賄()を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。

 公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、五年以下の懲役に処する。

職務」とは、公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務を指します。賄賂と対価関係にあれば、具体的に担当する職務でなくとも、また、当該具体的な事情の下において適法に行うことができたかどうかにかかわらず、法令に定められた一般的職務権限内にあれば成立します。また、法令に明記された職務権限を行使するだけでなく、解釈上当然含まれ、または付随すると認められる行為も、職務に含まれます。

その他にも、「職務と密接な関係にある行為」も賄賂罪の「職務」に含まれます。

職務にあたるか―ロッキード事件

ロッキード事件では、当時の運輸大臣が民間航空会社に特定機種の航空機の選定購入を勧奨することが運輸大臣の職務権限に含まれるか、そして、内閣総理大臣が運輸大臣に対しこのような勧奨をするよう働きかけることが内閣総理大臣の職務権限に含まれるかが問題となりました。ロッキード事件に関する平成7年2月22日最高裁判所大法廷判決は次のように述べ、それぞれ職務権限内にあると判断しました。

まず、判決では、

「運輸大臣が民間航空会社に対し特定機種の選定購入を勧奨することができるとする明文の根拠規定は存在しない。」

と述べる一方で、

「一般に、行政機関は、その任務ないし所掌事務の範囲内において、一定の行政目的を実現するため、特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言等をすることができ、このような行政指導は公務員の職務権限に基づく職務行為であるというべきである。」

としています。

続いて、運輸省設置法などの法令の規定から、運輸省の任務の一つとして「航空」に関する国の行政事務を一体的に遂行することを挙げており、

○運輸大臣が航空運送事業に関する免許権限や航空運送事業者の事業計画変更の認可権限等を有すること

○民間航空会社が新機種の航空機を選定購入して路線に就航させようとするときは事業計画の変更が必要となり運輸大臣の認可を受けなければならないこと

○運輸大臣は事業計画変更申請に際し認可基準に適合するかどうかを審査して新機種の路線への就航の可否を決定しなければならないこと

などを指摘しています。

そして、「このような運輸大臣の職務権限からすれば、航空会社が新機種の航空機を就航させようとする場合、運輸大臣に右認可権限を付与した航空法の趣旨にかんがみ、特定機種を就航させることが前記認定基準に照らし適当であると認められるなど、必要な行政目的があるときには、運輸大臣は、行政指導として、民間航空会社に対し特定機種の選定購入を勧奨することも許されるものと解される。したがって、特定機種の選定購入の勧奨は、一般的には、運輸大臣の航空運輸行政に関する行政指導として、その職務権限に属するものというべきである。」と述べ、運輸大臣が民間航空会社に特定機種の航空機の選定購入を勧奨する行政指導は、運輸大臣の職務権限に属するものということができるとしました。

そして、内閣総理大臣については、

憲法上、

○行政権を行使する内閣の首長である(六六条)

○国務大臣の任免権(六八条)

○内閣を代表して行政各部を指揮監督する職務権限(七二条)を有する

など、内閣を統率し、行政各部を統轄調整する地位にあるものであること

内閣法は、閣議は内閣総理大臣が主宰するものと定め、内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基づいて行政各部を指揮監督し、行政各部の処分又は命令を中止させることができるものとしていること

を指摘しています。

その上で、「内閣総理大臣が行政各部に対し指揮監督権を行使するためには、閣議にかけて決定した方針が存在することを要するが、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、内閣総理大臣の右のような地位及び権限に照らすと、流動的で多様な行政需要に遅滞なく対応するため、内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有するものと解するのが相当である。」とし、内閣総理大臣の運輸大臣に対する選定購入の勧奨は、内閣総理大臣の指示として、その職務権限に属することは否定できないとしました。


そして、運輸大臣が民間航空会社に特定機種の航空機の選定購入を勧奨する行為は、運輸大臣の職務権限に属する行為であり、内閣総理大臣が運輸大臣に対し右勧奨行為をするよう働き掛ける行為は、内閣総理大臣の運輸大臣に対する指示という職務権限に属する行為であり、賄賂罪における職務行為に当たるとした原判決を是認しました。

東京オリンピックの組織委員会理事の賄賂事件においても、「職務」に当たるかどうかの判断は、法令等を検討してどのような権限があったかを精査して判断されるでしょう。

「賄賂」

賄賂」は職務行為と対価関係にある利益をいいます。有形無形を問わず、人の需要、欲望を満たす一切の利益を含みます。したがって、現金に限られず、酒食の饗応や情交、公私の職務などにおける有利な地位の提供、投機的事業の参加の機会の提供、など様々な利益が賄賂になり得ます。個々の職務行為との間に対価関係のあることは必要ではありません。公務員の職務と対価関係にあることが必要ですので、職務と無関係のものは含まれません。そのため、公務員に金銭を送れば当然に賄賂となるわけではありません。また、社交儀礼の範囲内であれば賄賂には当たりません。

賄賂に当たるかどうかは、利益といえるものを受け取ったのかだけでなく、問題となる職務と無関係に受け取ることになった可能性がないかどうかが検討されるでしょう。そこでは、当該利益を受け取ることになったと被疑者が主張する理由や経緯が不自然ではないか、職務行為の対価関係を隠すものではなかったかなどが検討されます。

まとめ

このように、賄賂罪が成立するかどうかは、「公務員」、「職務」や「賄賂」について詳細に検討する必要があります。

賄賂罪

2023-07-10

東京オリンピックにおける贈収賄など、公務員の収賄事件は大変な問題とみられています。

ここでは、賄賂罪について説明します。

賄賂はなぜ許されないのか

賄賂罪の保護法益(刑罰を科すことで守ろうとする利益)は、「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」とされています(平成7年2月22日最高裁大法廷判決等)。公務員の職務は法令に則り、施策の必要性等を慎重に検討され、公正に行われなければなりません。このような公務員の職務を賄賂で歪められるのは許されないことです。また、公務員の職務が賄賂で左右できるものだと社会一般の人々に思われてしまうこと自体、社会一般の人々の公務員の職務への信頼を損なうものとなり、行政処分への不服従などをもたらしかねず、社会の根幹を揺るがすものとなります。そのため、賄賂罪は厳しく処罰されるのです。

「職務」にあたるか

上記の通り、賄賂罪の保護法益は「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」です。賄賂を受け取る際に特定の職務について依頼を受けたことや実際に公務員の職務が賄賂に影響されたかどうかは犯罪の成立を左右しません。「賄賂を受け取っても不正をしたわけではないから問題ない」というようなことはありません。これらの事情は、賄賂を受けるにあたって請託を受けた場合(受託収賄罪)や賄賂を受けとって実際に不正行為を行った場合(加重収賄罪)の成否に当たって考慮されます。これらの行為は、「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」を害する程度がより大きいため、単純収賄よりも重く処罰されます。

もっとも、賄賂罪の保護法益が「公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼」である以上、公務員の職務と無関係に公務員に利益を供与しただけでは賄賂罪は成立しません。

賄賂は公務員の「職務」「に関し」収受される必要があります。

賄賂罪の「職務」とは、公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の職務を指します。当該公務員に独立の決裁権は必要ではなく、補助的な職務でも成立します。実際に行った行為が違法だからといって「職務」でなくなるわけでもありません。また、法令上公務員の一般的職務権限に属する行為であれば、具体的事情の下その行為を適法に行うことができたかどうかは問われません。また、具体的に担当する職務でなくとも、法令に定められた一般的職務権限内にあれば職務に当たります。現在その職務を担当していないからといって無関係とはいえません。また、法令に明記された職務だけでなく、これに当然に含まれあるいは付随する行為も「職務」に含まれます。

また、公務員の職務そのものではなくとも、職務に密接に関連する行為も賄賂罪の「職務」に含まれます。

「賄賂」にあたるか

賄賂罪の「賄賂」は職務行為と対価関係にある利益のことをいいます。金銭に限られず、人の欲望や需要を満たす一切の利益をいいます。職務行為との対価である必要がありますので、単なる社交儀礼上の贈答は「賄賂」にあたりません。

なお、賄賂を実際に受け取る「収受」だけでなく、賄賂の供与を求める「要求」をしたり、賄賂の申し込みを承諾する「約束」をした場合でも、収賄罪は成立します。

刑罰

単純収賄罪の刑罰は5年以下の懲役です。罰金刑がなく、重いものとなっています。

受託収賄

収賄にあたって請託を受けた場合は、7年以下の懲役と刑が重くなります。

「請託」とは、公務員がその職務に関する事項について依頼を受けてこれを承諾することを言います。

請託があった場合に刑罰が重くなるのは、一定の職務について依頼を受け承諾することで、職務と賄賂との対価関係がより明白となり、職務の公正に対する社会の信頼を害する程度が高まるからです。

事前収賄

公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合、5年以下の懲役に処されます(刑法197条2項)。

公務員になる前に賄賂を収受等していて、公務員となってしまうと、やはり職務の公正及び職務の公正に対する社会の信頼を害しますので、現職の公務員が収賄した場合と同様に処罰されます。もっとも、ただ賄賂といえるものを収受等しただけでは、職務とのかかわりが薄いため、一定の職務について依頼を受け承諾する「請託を受け」た場合のみ処罰することとしています。

第三者供賄

公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、またはその供与の要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処されます(刑法197条の2)。

公務員自らが賄賂を受けるのに代えて第三者に賄賂を受けさせるような場合も、職務の公正及び職務の公正に対する社会の信頼を害するため、処罰されます。もっとも、公務員本人が賄賂を受けていないため、職務と賄賂の関連性が希薄になるため、請託を受けることが要件となっています。

無論、第三者が仲介役となっているだけで公務員本人が賄賂を受け取っているといえる場合は単純収賄や受託収賄が成立します。また、公務員が保証人となっている主債務者の金銭債務の立替弁済をした場合など、公務員自身に利益をもたらしているといえる場合は第三者供賄ではなく単純収賄や受託収賄が成立します。

加重収賄

公務員が単純収賄や受託収賄、事前収賄、第三者供賄の罪を犯し、その結果不正な行為をし、または相当の行為をしなかったときは、1年以上の有期懲役に処されます(刑法第197条の3第1項)。公務員が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、もしくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をしたときも、同様に処されます(刑法第197条の3第2項)。有期懲役は20年以下ですので(刑法第12条第1項)、1年以上20年以下と非常に重い刑罰となっています。賄賂を受け取ったうえで不正な行為をしたり相当な行為をしなかったのですから、職務の公正を現実に害しており、職務の公正に対する社会の信頼を大きく害しているため、このように重い処罰となっています。

この「不正な行為をし、または相当の行為をしなかった」とは、積極的若しくは消極的行為によりその職務に反する一切の行為を指します。不正な行為によって国等に損害を与える必要はありません。公務員の自由裁量の範囲内であっても不当な処分をした場合も該当するとされています。

事後収賄

公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処されます((刑法第197条の3第3項))。在職中に請託を受けて不正を行い、退職してからその見返りとして賄賂を収受等すれば、やはり職務の公正や職務の公正に対する社会の信頼を害するため、処罰の対象となります。退職してから賄賂を収受等するため、在職中の職務と賄賂との対価関係が希薄であることから、在職中の請託や不正行為も要件となっています。なお、在職中に請託を受けて職務上不正な行為をするだけでなく、賄賂の要求や約束をし、退職後に受け取っていた場合、加重収賄罪も成立し、より重い加重収賄罪で処罰されます。

あっせん収賄

公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処されます(刑法第197条の4)。

「あっせん」とは贈賄者と他の公務員との間に立って仲介の労をとることをいいます。このような、公務員が他の公務員の職に関しあっせんをして謝礼を受け取る「口利き」を処罰するために定められています。自身の職務に関することではないので、請託を受けて、職務上不正な行為をさせ又は相当な行為をさせないようあっせんする必要があります。

賄賂の没収

犯人や賄賂であることを認識している第三者が受け取った賄賂は没収します。費消されたり、接待など性質上没収できない場合は、その価額を金銭的に評価して没収します(刑法第197条の5)。

これは賄賂を収受した者たちに不正な利益を残さないようにするためです。

まとめ

収賄については厳しい処罰が予定され、また利益も没収されます。これは職務の公正とそれに対する社会の信頼を守るために定められています。

公務員の犯罪

2023-07-03

公務員は全体の奉仕者として、公共の利益のために職務を行うものであり、高い倫理観が求められ、一般市民の模範となることを期待されています。そのため、このような公務員が犯罪をしたという疑いが生じれば、社会の期待を裏切ったものとして、世間から非常に厳しい目を向けられます。

この記事では、公務員が犯罪を起こしてしまった、あるいはその疑いをかけられた場合の流れについて解説します。

公務員が犯罪の嫌疑をかけられた場合

公務員に犯罪の嫌疑をかけられた場合、以下のような問題が考えられます。

報道される

犯罪の嫌疑をかけられ被疑者(容疑者)として捜査の対象となった場合、被疑者は実名で報道されることがあります。特に被疑者が逮捕された場合は、実名報道される可能性がさらに高まります。実際に実名報道されるかどうかは、事件の重大性や社会的な関心の程度、報道されることによる被疑者の名誉やプライバシーへの影響等を考慮して判断されます。その判断は、報道機関に情報提供をする警察や検察、警察や検察から情報の提供を受けた各報道機関それぞれが行います。

最初に述べたとおり、公務員には高い倫理観が求められ、一般市民の模範となることを期待されています。公務員が犯罪の嫌疑をかけられていることは、この期待が揺るがされているといえます。そのため、公務員の犯罪は一般市民にとって重大な関心事であり、その情報の公開には高い公益性が認められるため、一般の人々よりも実名が報道される可能性が高いといえます。

また、嫌疑をかけられている犯罪の種類や規模、内容にもよりますが、公務員による犯罪は捜査の進展が逐次報道される可能性があります

休職・失職

被疑者が公務員の場合、起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。

そして、裁判の結果、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。

重い量刑

繰り返し述べていますが、公務員は全体の奉仕者として、高い倫理観が求められています。そのような公務員が犯罪を起こしたとあれば、国民の信頼を裏切るものとなります。そのため、刑事裁判においても、公務員が罪を犯したと認められた場合、その刑は重くなる傾向があります。

もっとも、公務員だからといって当然に一般人よりも刑罰が重くなるわけではありません。職権濫用罪や収賄罪等の汚職の罪は、犯罪の性質上職務の公正を害したり、公務への信用を毀損したりするものであるため、重い刑罰が定められています。これら以外の罪については、勤務外に職務とは無関係に起こした事件であれば、「公務員でありながら」「国民の信頼を裏切る」「強い非難に値する」などと指摘はされるものの、一般市民の場合と比べてそれほど量刑に違いは現れません。一方、詐欺や横領など一般市民でも行うことができる種類の犯罪であっても、職場内での地位を利用した犯罪であったり、自己の職務に関係する業務に関して行った犯罪などであれば、公務を利用した背信的なものとして強く非難され、刑も重くなります。

懲戒処分

刑事手続以外においても、犯罪を起こしたことを理由として、懲戒処分を科されることになります。懲戒処分には、戒告、減給、停職、免職があります(地方公務員法第29条第1項、国家公務員法第82条第1項)。懲戒事由としては「(国民)全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」(地方公務員法第29条第1項第3号、国家公務員法第82条第1項第3号)とされるでしょう。

なお、国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国歌公務員法第85条)。

公務員犯罪の弁護活動

公務員の弁護活動の重要性

公務員であっても他の一般市民と同じ権利を有しており、それは刑事手続であっても同様です。公務員にも黙秘権があります(憲法第38条第1項・刑事訴訟法第198条第2項)し、供述録取書の増減変更申立てもすることができます(刑事訴訟法第198条第4項)。弁護人による弁護活動も、基本的には一般市民が犯罪の嫌疑をかけられた場合と同様です。公務員にも弁護人選任権があり(憲法第37条第3項)、立会人なく弁護人と接見することができます(刑事訴訟法第39条第1項)。

一方で、公務員が犯罪の嫌疑をかけられた場合は、上記のとおり世間の厳しい目が向けられ、報道されるリスクが高まります。捜査の進展は逐次報道され、報道された供述の内容の真偽に関わらず、インターネット上で様々な憶測が広がるでしょう。被疑者・被告人に当然に認められる権利を行使しても、例えば「容疑者は取調べに対して黙秘している」など報道されることで、「反省していない」などインターネット上でネガティブな情報を拡散されるおそれも一般市民より高いでしょう。また、処分や判決によっては、失職や懲戒処分のおそれもあります。

こうしたリスクを回避するため、一層迅速適切な弁護活動を行う必要があります。

報道への対応

上記のとおり、公務員が犯罪の嫌疑をかけられると、実名で報道され、捜査の進捗状況について逐次報道される可能性が高いです。犯罪の嫌疑をかけられたとして実名をさらされ、弁解内容や黙秘の有無まで知られてしまいます。瞬く間に社会に拡散し、半永久的に残ってしまいます。結果的に不起訴となったとしても、ネガティブな情報が世の中に広がってしまい、結局現在の仕事を辞めざるを得ない事態になりかねません。

弁護人は、警察や検察に対し、報道機関に対し、被疑者の実名等個人を特定できる情報や黙秘の有無や供述内容等を発信しないよう申し入れをします。また、報道機関に対しても、こうした情報を報道しないよう申し入れをします。そのうえで、過度にプライバシーを侵害する情報であったり、実際に供述したものとは異なる内容を供述したとして報道された場合、その是正を求めていきます。

不起訴を目指す

「休職・失職」で述べたとおり、被疑者が公務員の場合、起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。そのまま禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。

したがって、公務員の場合は、起訴されないことが何よりも重要となります。犯罪を起こしたのではないときは、不起訴(嫌疑不十分・嫌疑なし)を目指していくことになります。犯罪を起こしたことを認めている場合、被害者がいる事件では被害者と示談をする等して、不起訴(起訴猶予)を目指していくことになります。もっとも、庁舎の備品を損壊する器物損壊事件など、国や地方公共団体が被害者の場合は、示談をすることは拒否され、損害の賠償に留まることも多いです。また、収賄事件など、具体的な被害者がいない事件では、示談をすることはできません。

不起訴とはいかなくても、罰金刑のある犯罪では、罰金刑を目指すことで失職を回避することを目指します。また、100万円以下の罰金又は科料であれば、略式手続(刑事訴訟法第461条以下)により、公判前に、書面で裁判を終了することができます。この場合、休職せずに済むでしょう。

懲戒処分を避けるために

懲戒手続は刑事手続とは別のものです。そのため、刑事手続で処分されなかったり軽微な刑罰であっても、懲戒手続にて重い処分を下される可能性があります。弁護士から、担当部署に、刑事手続の結果の報告だけでなく、非行の内容が重大ではないこと、真摯に反省していること、などを訴えて懲戒処分が過度に重くならないようにしていきます。

おわりに

以上のように、公務員が犯罪の嫌疑をかけられた場合、一般の市民よりも重大なリスクにさらされる可能性が高いです。そのため、早期に弁護士に相談して対応を決めるべきです。

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