事例
市職員であるAさんは、窓口で対応した相手に好意を抱き、私的に個人情報を探る目的で、申請に必要であると嘘の説明を行い、本来なら提出義務のない個人情報に係る書面を持参させました。
その後、Aさんの対応に疑問を抱いた申請者が役所に相談したことで上記事情が発覚し、Aさんは直属の上司から事情を聞かれることになりました。(フィクションです)
解説
刑法は汚職の罪として、収賄に関する罪(刑法197条1項など)のほかに職権濫用の罪を定めています。
刑法193条は公務員職権濫用罪について、「公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、2年以下の懲役又は禁錮に処する」と規定しています。
「濫用」とは、公務員が一般的職務権限に含まれる事項について、職権の行使に名を借りて実質的・具体的に違法・不当な行為をすることを指します。
事例のAさんは、窓口での申請対応にかこつけて、私的な目的で本来なら必要のない書面を提出させているため、公務員職権濫用罪が成立するおそれがあります。
職権濫用の罪について、刑法は他にも特別公務員職権濫用罪(刑法194条)や特別公務員暴行陵虐罪(刑法195条)なども規定しています。
刑法194条は「裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、6月以上10年以下の懲役又は禁錮に処する」と定めています。
ここでは警察官や検察官といった、刑事司法に携わり身体拘束などの権限を有する公務員の職権濫用行為に罰則が設けられています。
これらの行為も公務員の職権濫用の一つではありますが、その職務の内容からして、濫用された場合の危険がより高いことから、特則として刑法194条が設けられ、法定刑も公務員職権濫用罪よりも重くなっています。
刑事司法に携わる公務員は刑法195条1項が定める特別公務員暴行陵虐罪の主体にもなりますが、こちらは形式的にも職権の行使とは言い難い、権限逸脱行為に対する罰則になります。
公務員職権濫用罪は法定刑に懲役刑(刑法12条1項)及び禁錮刑(刑法13条1項)しか定めていないため、不起訴処分にならない限りは刑事裁判を受けることになります。
刑事裁判で有罪判決が言い渡されてしまうと、たとえ執行猶予がついたとしても、失職事由に該当してしまいます(国家公務員法76条、同38条1号。地方公務員法28条4項、同16条1号)。
そのため、検察官に起訴されることがないよう、早期に弁護士に依頼をして、刑事処分を回避するための弁護活動を行うことが重要です。
弁護士へ依頼すると、検察官に対して不起訴処分を求める意見書を提出するといった弁護活動も可能となります。
反省を裏付ける事情や、起訴されて失職した場合の経済的不利益など、具体的な事実の指摘を伴っていれば、不起訴処分となる可能性を高めていくことができます。
最後に
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件を中心に扱う弁護士が依頼者を懇切丁寧にサポートします。
弁護士の助力を得ることで、所属部署から説明を求められた際の対応への助言や、検察官に対して適切に情状を示す弁護活動が可能になります。
職権濫用の罪に問われるかもしれないとご心配な公務員の方は、まずは弊所までご相談ください。