パワハラやセクハラへの対処はあらゆる組織・企業で喫緊の課題となっています。公務員は国民・市民の模範となる立場であり、ハラスメント対策は一層重要となっています。近年は自衛隊内でのセクハラなど、公務員組織内でも大きな問題となっています。ハラスメントもその内容によっては、犯罪となりえます。
ここでは、公務員とハラスメントについて説明します。
パワハラ
パワーハラスメント(パワハラ)とは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業関係が害されるものであり、①~③までの要素のすべてを満たすものをいいます。客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しません。
仕事でミスをした部下を指導する場合であっても、殊更に他の職員のいる前でさらしものにしたり、人格を否定するような罵倒をすれば、パワハラに該当する可能性があります。
パワハラに含まれる行為であっても、その態様や状況によって様々なものがあり、不適切な行為から、民事責任を負う行為、さらには刑事責任を負う行為もあります。相手に暴行したり怪我を負わせた場合、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)に問われる可能性があります。殴るなどの有形力の行使によって怪我をさせただけでなく、強いストレスを与えて相手を精神疾患に罹患させた場合も、傷害罪になりえます。
個室に数名しかいない状況で叱責するようなものではなく、大勢の人がいる場所で侮辱したり人格を否定するような罵倒をすれば、侮辱罪(刑法231条)や名誉毀損罪(230条)が成立する可能性があります。
セクハラ
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されることをいいます。異性間に限らず同性間でもセクハラになりえます。性的な言葉を投げかけたり、執拗に食事に誘ってきたり、相手の胸や尻などセンシティブな部位に触る等の行為が該当します。
セクハラもパワハラと同様に、態様や状況によっては犯罪になり得ます。セクハラの中でも悪質なものは、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪に該当する行為でしょう。
令和5年7月13日より改正刑法が施行され、強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪(刑法176条)に、強制性交等罪は不同意性交等罪(刑法177条)に改められました。この改正により、暴行・脅迫による場合だけでなく、不同意を示せないような状況を強いられてわいせつ行為や性交等をされた被害者も保護できるようになりました。
不同意わいせつ罪、不同意性交等罪は、次に掲げる行為や事由により、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、」わいせつな行為や性交等をした場合に成立します。
①暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
②心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
③アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
④睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
⑤同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
⑦虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
セクハラの場合、特に⑧の「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。」がよく見られます。例えば、自分の要求に従わなければ昇進等で不利益が及ぶことを示唆して性交等に及ぶ場合です。その他、③の「アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること」としては、お酒を飲んで昏睡にまでは至らずとも酩酊状態で同意しない意思を表明することが困難な状況に乗じて性交等をする場合が考えられます。⑥の「予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること」としては、事前に告げていたところとは違う場所に連れていって性交する場合などが考えられます。
不同意性交等罪は5年以上の懲役、不同意わいせつ罪は6月以上10年以下の懲役に処されます。
刑事事件化した場合
公務員の場合は、刑事事件として起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。
そして、裁判の結果、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。
懲戒処分
公務員がその職務に関してハラスメントをすると、非違行為をしたとして、重い懲戒処分を受けることになります。
国家公務員の服務の基本的な事項が載せられています。「義務違反防止ハンドブック」には、懲戒処分の指針についての記載も載せられています。
この指針によると、「1 一般服務関係」において、「(14)セクシュアル・ハラスメント」の「ア 強制わいせつ、上司等の影響力利用による性的関係・わいせつな行為」は免職または停職という重い懲戒処分が定められています。また、「ウ 意に反することを認識の上でのわいせつな言辞等の性的な言動」は減給又は戒告になりますが、「イ 意に反することを認識の上でのわいせつな言辞等の性的な言動の繰り返し」は停職又は減給という比較的重い処分ですし、その中でも「執拗な繰り返しにより強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患させたもの」は免職または停職という重い懲戒処分となります。
また、「(15)パワー・ハラスメント」の「ア 著しい精神的又は身体的な苦痛を与えたもの」は停職・減給・戒告の対象となりますが、「イ 指導、注意等を受けたにもかかわらず、繰り返したもの」は戒告では済まされず、停職又は減給とより重くなります。「ウ 強度の心的ストレスの重責による精神疾患に罹患させたもの」は免職・停職・減給の対象となり、もっとも重い懲戒免職もありえます。
なお、国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国家公務員法第85条)が、起訴される前に懲戒処分を下されることもあります。
参考
人事院ハラスメント防止リーフレット
ハラスメントを起こしてしまったら
ハラスメントが発覚すれば、調査を受けることになり、内容によっては懲戒処分を受けることになります。
被害者に対しては真摯に謝罪し償いをするべきでしょう。不法行為とみなされるほどの態様であれば被害者に損害賠償請求権が発生するため、当事者同士で話し合って謝罪し弁償をして解決する示談(和解)はより重要となります。刑事事件となった場合でも、被害者と示談が成立すれば、起訴猶予となる可能性が高まります。
示談については、加害者本人が被害者と交渉しても被害者の精神的負担が大きく交渉を拒絶されることも多いため、円滑な交渉のために弁護士に依頼するのが良いでしょう。その他にも、人事院の調査や警察・検察の捜査などに適切に対応するためにも、弁護士の援助が重要になります。
まとめ
このように、公務員のハラスメントは重い懲戒処分となる可能性が高く、刑罰を科される可能性があり、適切な対応が必要となります。このような事態になったときは、なるべく早く、公務員のハラスメント事件に精通した弁護士に相談するのが良いでしょう。