公務員と秘密保持

公務員は国や地方公共団体の国民・住民の個人情報を扱ったり、重要な政策上の情報を扱っています。こうした情報が洩れれば、国民・市民のプライバシーを害する事態になりかねません。また、入札など利害関係企業に不正に利用される虞もあります。さらには、外交や安全保障において重大な損害を加えかねない可能性があります。このような事態を防ぐため、公務員はその秘密の保持について厳格に規制されています。

ここでは、公務員の秘密保持について説明します。

公務員の守秘義務

国家公務員は、国家公務員法100条1項において、「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」と定められています。

地方公務員についても、地方公務員法で同様に定められています(地方公務員法34条1項)。

これらの規定に違反して秘密を洩らしたときは、いずれも1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(国家公務員法109条12号、地方公務員法60条2号)。

特定秘密保護法

「特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)」では、防衛や外交など重要な事項について、「当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」を特定秘密として指定するものとしています(特定秘密保護法3条1項)。

別表には以下の事項があげられています。

別表(第三条、第五条―第九条関係)

 防衛に関する事項

 自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究

 防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報

 ロに掲げる情報の収集整理又はその能力

 防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究

 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物の種類又は数量

 防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法

 防衛の用に供する暗号

 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの仕様、性能又は使用方法

 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの製作、検査、修理又は試験の方法

 防衛の用に供する施設の設計、性能又は内部の用途(ヘに掲げるものを除く。)

 外交に関する事項

 外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち、国民の生命及び身体の保護、領域の保全その他の安全保障に関する重要なもの

 安全保障のために我が国が実施する貨物の輸出若しくは輸入の禁止その他の措置又はその方針(第一号イ若しくはニ、第三号イ又は第四号イに掲げるものを除く。)

 安全保障に関し収集した国民の生命及び身体の保護、領域の保全若しくは国際社会の平和と安全に関する重要な情報又は条約その他の国際約束に基づき保護することが必要な情報(第一号ロ、第三号ロ又は第四号ロに掲げるものを除く。)

 ハに掲げる情報の収集整理又はその能力

 外務省本省と在外公館との間の通信その他の外交の用に供する暗号

 特定有害活動の防止に関する事項

 特定有害活動による被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「特定有害活動の防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究

 特定有害活動の防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報

 ロに掲げる情報の収集整理又はその能力

 特定有害活動の防止の用に供する暗号

 テロリズムの防止に関する事項

 テロリズムによる被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「テロリズムの防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究

 テロリズムの防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報

 ロに掲げる情報の収集整理又はその能力

 テロリズムの防止の用に供する暗号

特定秘密の取り扱いの業務に従事する者がその業務により知得した特定秘密を洩らしたときは、10年以下の懲役に処され、情状によりさらに1000万円以下の罰金に処されます。特定秘密の取り扱いの業務に従事しなくなった後に漏らした場合も同様です(特定秘密保護法23条1項)。

また、行政機関の長が内閣に提示したり(同法4条5項)、外国の政府や国際機関に提供したり(9条)、国会両議院や裁判所など公益上必要の認められる相手に提供したり(10条)、内閣総理大臣が特定秘密の指定及び解除並びに適正評価の実施のため特定秘密である情報を含む資料の提出を求めること(18条4項後段)により、特定秘密が第三者に提供されることがあります。これらの提供の目的である業務により当該特定秘密を知得したものがその特定秘密を洩らしたときは、5年以下の懲役に処され、又は情状によりさらに500万円以下の罰金に処されます(同法23条2項)。

これらの罪は未遂も処罰します(同法23条3項)。また、過失により漏らした場合も処罰されます(23条1項の罪については2年以下の禁錮又は50万円以下の罰金。23条2項の罪ついては1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金)。

秘密にあたるか

以上のように、公務員が職務上取り扱う秘密を洩らした場合は重い処罰が下されます。しかし、そもそもその情報が「秘密」でなければなりません。

昭和52年12月19日最高裁第二小法廷決定(徴税トラの巻事件)において、最高裁判所は「国家公務員法一〇〇条一項の文言及び趣旨を考慮すると、同条項にいう「秘密」であるためには、国家機関が単にある事項につき形式的に秘扱の指定をしただけでは足りず、右「秘密」とは、非公知の事項であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに価すると認められるものをいうと解すべき」としました。この事件では「営業庶業等所得標準率表」及び「所得業種目別効率表」を漏らしたことが問題となりましたが、「いずれも本件当時いまだ一般に了知されてはおらず、これを公表すると、青色申告を中心とする申告納税制度の健全な発展を阻害し、脱税を誘発するおそれがあるなど税務行政上弊害が生ずるので一般から秘匿されるべきものであるというのであつて、これらが同条項にいわゆる「秘密」にあたる」と判断しました。

昭和53年5月31日最高裁第一小法廷決定(外務省秘密漏洩事件)では、いわゆる沖縄返還協定に関する会談の概要が記載された電信文案を、記者が外務省の職員に提供させたことが、秘密漏洩(国家公務員法109条12号・100条1項)をそそのかした罪(同法111条)に当たるかどうかが問題となりました。この事件で、最高裁は「その内容は非公知の事実であるというのである。そして、条約や協定の締結を目的とする外交交渉の過程で行われる会談の具体的内容については、当事国が公開しないという国際的外交慣行が存在するのであり、これが漏示されると相手国ばかりでなく第三国の不信を招き、当該外交交渉のみならず、将来における外交交渉の効果的遂行が阻害される危険性があるものというべきであるから、本件第一〇三四号電信文案の内容は、実質的にも秘密として保護するに値するものと認められる。右電信文案中に含まれている原判示対米請求権問題の財源については、日米双方の交渉担当者において、円滑な交渉妥結をはかるため、それぞれの対内関係の考慮上秘匿することを必要としたもののようであるが、わが国においては早晩国会における政府の政治責任として討議批判されるべきであつたもので、政府が右のいわゆる密約によつて憲法秩序に抵触するとまでいえるような行動をしたものではないのであつて、違法秘密といわれるべきものではなく、この点も外交交渉の一部をなすものとして実質的に秘密として保護するに値するものである。したがつて右電信文案に違法秘密に属する事項が含まれていると主張する所論はその前提を欠き、右電信文案国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密にあたる」としました。

以上の判例のように、秘密保持の対象となる情報は、実質的に秘密として保護に値するものであることが必要です。

懲戒処分

秘密漏洩に対しては厳しい懲戒処分が下されます。

人事院の「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)」によると、「1 一般服務関係 イ 情報セキュリティ対策のけ怠による秘密漏えい」については、停職・減給・戒告処分の対象となります。「ア 故意の秘密漏えい」は免職又は停職となり、特に「自己の不正な利益を図る目的」の場合は、必ず免職となります。

参照

懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)

https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html

秘密保持の例外

公務員が職務上知った情報が「秘密」に該当するとしても、これを一切口外できないとなると、不当・違法な行為が行われているにもかかわらず秘密にされてしまい、かえって国民・住民の利益を損ねてしまいかねません。

そもそも、「秘密」とは上記の「徴税トラの巻事件」や「外務省秘密漏洩事件」の判示のように実質的にもそれを秘密として保護するに値するものである必要があります。犯罪に該当したり憲法秩序を脅かすような重大な違反については、秘密情報として保護に値しないといえるでしょう。また、公務員は、職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならないと定められています(刑事訴訟法239条2項)。

したがって、公務員がその職務に関する情報を第三者に開示できる場合があります。

参照

行政機関向けQ&A(内部の職員等からの通報)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/faq/faq_011/

まとめ

以上のように、公務員には厳格な秘密保持の義務があり、違反すれば厳罰に処されます。

一方で、犯罪に該当するような重大な違法に関わる情報であれば、然るべき第三者に提供することが要請されます。

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