刑法197条1項前段は、「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。」としています(単純収賄罪)。
このブログでは、刑法でいう賄賂とは、どういうものを指すのか解説します。
【賄賂の目的物】
賄賂とは、公務員の職務行為に対する対価としての不正な報酬をいいます。
賄賂の典型的な目的物としては、金銭が真っ先に思いつくでしょうし、ニュースでは職務行為の対価として物品を受取ったという収賄罪の事案もよく見かけます。
それでは、形が無いものについてはどうなのでしょうか。
判例によれば、「賄賂は、財物のみに限らず、又有形たると無形たるとを問はず、苟も人の需用若くは慾望を充たすに足るべき一切の利益を包含するものとす」とされています。
判例が賄賂になるとしてきた利益には、債務の肩代わり、芸者の花代などの饗応接待、ゴルフクラブの会員権、値上がり確実な未公開株式を一般人では買えないような公開価格で取得できる利益、思うように土地を売却できない状況で土地を時価相当額で買取ってもらった場合の換金の利益といった財産的利益のほか、就職のあっせんの約束、異性間の情交などがあります。
【社交儀礼の贈与は賄賂にあたるのか】
日本には、お中元、お歳暮などの季節の贈り物、手土産、餞別、お祝いといった様々な呼び方での贈答が文化としてあります。
このような社交儀礼としての贈与は、賄賂にあたるのでしょうか。
例えば、贈与が多少公務員の職務と関連していても、受取る側の公務員が、送った側の人との間で元々私的な交友関係があり、主にそのような関係に基づきされた贈与であれば、賄賂にはあたりません。
問題となるのは、職務行為との対価関係はあるけれど、贈り物の金額、価値といった程度が社交儀礼の範囲にとどまる場合です。
判例は、社交上の儀礼程度の中元・歳暮といった贈物であっても、職務に関して収受される以上、収賄罪が成立するとし、基本的には、職務行為との対価関係さえあれば、金額の多寡を問わず社交儀礼程度の贈与も賄賂にあたるとしてきました。
なお、公立中学校の教諭が新しく担任となった生徒の親から、5000円分の贈答用小切手を受取った事例で、最高裁は、その親が元々季節の贈答や学年初めの挨拶を慣行としていたことから、この小切手の贈与は父兄からの慣行的儀礼として行われたと考える余地があり、担任教諭としての教育指導という職務行為そのものに関する対価的給付と断ずることはできないとし、収賄罪の成立を否定していますが、この判例は、贈り物の金額が社交儀礼の範囲にとどまるからということだけでなく、父兄の慣行などの諸事情を考慮し、職務行為に対する対価であることを否定したものと思われます。
【政治献金と賄賂】
一般的に政治献金と言われる、政治家個人や、後援会・政党といった政治団体への寄付は、時に賄賂との境界が問題となります。
金品を受け取った側が、「政治献金として受取ったので、賄賂ではない」と主張することはよくあります。
政治献金が賄賂にあたるか否かの問題は、寄付の目的・趣旨、金額、人的関係等の諸事情を考慮した上で、結局は、政治家の職務との対価関係があるか否かがポイントとなります。
判例は、献金者の利益にかなう政治活動を一般的に期待して行われるだけなら賄賂にはあたらないとする一方、政治家の職務権限の行使に関して具体的な利益を期待する趣旨なら賄賂にあたるとしています。
なお、政治献金については、政治資金規正法により、寄附者が個人か企業などの団体か、寄附先が政治家個人か政党等の政治団体かに応じた規制や、届出の義務などの規制がされており、この点からも注意が必要です。
【収賄罪関係でご心配の際は】
他人から受取る金品そのほかの利益が賄賂にあたるかどうかは、時に判断が難しいことがあります。
賄賂を受取ってしまったのではないかとご心配の方、賄賂とは思わず受取ったものが賄賂にあたるとして収賄の容疑をかけられた方は、専門的見地からのアドバイスができる弁護士にご相談ください。
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