公務員は全体の奉仕者として、公共の利益のために職務を行うものであり、高い倫理観が求められ、一般市民の模範となることを期待されており、その職責を果たすため特別な身分保障がされています。一方で、このような特殊な立場にあるため、この立場を利用して不正な行為を行えば、公共の利益が害され、社会の期待は裏切られることとなります。この公務員の身分を利用した不正な行為については、特別な犯罪が成立するものがあります。
公務員とは
「公務員」
「公務員」については、刑法第7条第1項に定められています。同条項では「この法律において『公務員』とは、国または地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。」と定められています。
「法令」には、法律や条例だけでなく、行政内部の通達や訓令も含まれます。
「公務に従事する」とは、職務権限の定めがある必要はなく、その公務に従事する資格が上記の「法令」に根拠を有し、これにより公務を行うことをいいます。
「公務」は必ずしも公権力の行使など強制力を行使するものに限られません。
「議員、委員、その他の職員」が刑法上の公務員に当たり、単に機械的、肉体的な業務に従事する者は含まれません。「議員」は国会議員や地方議会の議員、「委員」とは、国又は地方公共団体において任命、委嘱、選挙等により一定の事務を委任・嘱託される非常勤の者をいいます。「その他の職員」とは、議員、委員のほか、国又は地方公共団体の期間として公務に従事するすべての者をいいます。
刑法第7条にこのように定義されているほか、特別法では、その職務の性質を鑑みて、刑法やその他の罰則については公務員とみなす規定が設けられています。これを「みなし公務員規定」といいます。
公務員の身分による犯罪
身分犯
刑法第197条第1項は、「公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、またはその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。」と定めています。この罪は「公務員」でなければ犯罪の主体とはなりません。これを身分犯といいます。もっとも、公務員の身分がない者であっても、収賄を持ちかけたり、実際の賄賂のやり取りを担当したりするなど、犯罪行為に加担すれば、共犯者となります(刑法第65条第1項)。
公務員による犯罪
公務員の身分が必要な犯罪としては、汚職の罪があります。公務員職権濫用罪(刑法第193条)、特別公務員職権濫用罪(刑法第194条)、特別公務員暴行陵虐罪(刑法第195条)、特別公務員職権濫用等致死傷罪(刑法第196条)、収賄、受託収賄および事前収賄(刑法第197条)、第三者供賄罪(刑法第197条の2)、加重収賄及び事後収賄罪(刑法第197条の3)、あっせん収賄罪(刑法第197条の4)、がこれにあたります。
この他、虚偽公文書作成罪(刑法第156条)は公務員が行うことが必要です。
刑法以外の特別法では、「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律(入札談合等関与行為防止法)」が「職員が、その所属する国等が入札等により行う売買、賃貸、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に談合を唆すこと、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、五年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。」と定めています(同法第8条)。
公務員の犯罪についてはこちらもご覧ください。
公務員の場合の特別な手続き
公務員が刑事事件の被疑者・被告人となった場合、各法令により、一般市民の場合と異なる対応がとられることになります。
休職・失職
公務員の場合、起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。
そして、裁判の結果、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。
懲戒処分
公務員が刑事事件になるような不正な行為を行うと、懲戒処分を科されることになります。懲戒処分には、戒告、減給、停職、免職があります(地方公務員法第29条第1項、国家公務員法第82条第1項)。懲戒事由としては「(国民)全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」(地方公務員法第29条第1項第3号、国家公務員法第82条第1項第3号)とされるでしょう。
なお、国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国家公務員法第85条)。
懲戒処分についてはこちらもご覧ください。
おわりに
以上のように、公務員の身分がある者については特別な犯罪が成立し、一般市民とは異なる手続きが取られるため、注意が必要です。