官製談合

談合は公正な競争を阻害し、自由な経済活動を毀損するものであり、独占禁止法などにより規制されています。このような談合に公務員が関与すると、金額の高騰により税金が不当に流出し、公的事業の適正も損なわれてしまいます。そこで、公務員が関与する談合については、特に重く処罰することとされています。

談合罪

談合については、刑法では次の条文のように、「公契約関係競売等妨害」の一つとして規定されています。

(公契約関係競売等妨害)

第九十六条の六 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。

1項は競争入札妨害罪について定めており、2項が談合罪です。いずれも、公の競売又は入札の公正を保護法益としています。

1項の競争入札妨害罪は、偽計(他人の正当な判断を誤らせるような術策)又は威力(人の意思の自由を制圧するような勢力)を用いて国や地方公共団体の実施する競売や入札の公正に不当な影響を及ぼす行為を処罰します。

2項の「談合」とは、公の競売・入札に際し、競売人・入札人が相互に通謀して、特定の者を競落者・落札者にするために、他の者は一定の価格以上に値を付けないことを協定することをいいます。競売の申し出を放棄することも含まれます。

「公正な価格」とは、談合が行われず自由な競争に任せたならば形成されたであろう競落又は落札価格をいいます。「公正な価格を害する目的」とは、競売であれば公正な価格を殊更引き下げること、入札であれば公正な価格を殊更引き上げることを目的とすることことをいいます。「不正な利益を得る目的」とは、特定の競落者・落札者においてはこのような不正により競落者・落札者となり契約上不当な利益を取得する目的をいい、他の参加者は談合金を得る目的をいうとされています。

談合は参加者各自の自由な意思に基づいて行われるものであり、偽計や威力を用いて参加させれば談合罪ではなく競争入札妨害罪となります。

独占禁止法違反

独占禁止法の正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。

この法律は「私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的」としています。つまり、談合やカルテルなどによる事業者の活動への拘束を排除して、自由競争を促進し、経済活動の発展を促進することを目指しています。

独占禁止法には「談合」という言葉はありませんが、「不当な取引制限」が談合に該当します。「不当な取引制限」とは、「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」をいいます(独占禁止法2条6項)。

独占禁止法は、事業者(商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいいます。独占禁止法2条1項)がこの不当な取引制限をすることを禁止しています(独占禁止法3条)。

「不当な取引制限」に該当する行為としては、国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札に際し、事前に受注事業者や受注金額などを決めてしまう「入札談合」が挙げられます。このほか、事業者又は業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い、本来各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める「カルテル」も「不当な取引制限」に該当します。

不当な取引制限をした場合、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処されます(独占禁止法89条1項1号)。法人の代表者や使用人等が法人の業務等に関して不当な取引制限を行ったのであれば、その法人にも5億円以下の罰金が科されます(独占禁止法95条1項1号)。

入札談合等関与行為防止法

入札談合等関与行為防止法は、正式名称は「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」です。この法律は、「公正取引委員会による各省各庁の長等に対する入札談合等関与行為を排除するために必要な改善措置の要求、入札談合等関与行為を行った職員に対する損害賠償の請求、当該職員に係る懲戒事由の調査、関係行政機関の連携協力等入札談合等関与行為を排除し、及び防止するための措置について定めるとともに、職員による入札等の公正を害すべき行為についての罰則を定め」ています(同法1条)。

同法では、「職員」(同法2条5項。国若しくは地方公共団体の職員又は特定法人(同法2条2項に定められており、国や地方公共団体が持ち分の多数を有して実質支配している法人です)の役員若しくは職員)が談合にかかわる行為について、次のように定めています。

(職員による入札等の妨害)

第八条 職員が、その所属する国等が入札等により行う売買、貸借、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に談合を唆すこと、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、五年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。

談合の問題

談合の方法

談合といっても、各企業の担当者や担当公務員が一堂に会してどの企業を競落人・落札者にするか、価格はいくらにするか、を決めるわけではありません。事前に受注希望者に見積額を出させ、それを他の参加者に知らせて、特定の企業の見積額より低い金額で出さないことを暗に示し合わせるといった方法がしばしば行われます。国や自治体が競争入札を行うに当たっては、予定価格を決定して作成しなければならないと定められています(予算決算及び会計令79条・80条)。この予定価格は、発注する国や自治体の予算の上限を示すものであり、受注希望者にとっても入札の見込みを知る重要なものです。しかし、この予定価格を示すこと自体談合を容易にするといわれています。また、予定価格を作成するにあたって、国や自治体の担当者は専門業者ほどには工事やその他事業に要する費用についての知識はなく、したがって業者に見積額の提出を求めることになります。しばしば複数の業者に見積額の提出を求めますが、これを提出した業者以外の業者にも見せれば、相互の見積額を知らせていることになり、談合とみなされかねません。

談合になるのか

上記のように、談合行為としては、各業者や官公庁の担当者が集まって落札者や価格を決めるほか、見積額を他の参加者に知らせるものがあります。

一方で、どの業者からも見積もりをとらないというのは現実的ではありません。また、行政の担当者としては、複数の見積もりを見て最も適切な金額を算定したいところです。複数の業者から見積もりをとっただけでは直ちに談合とはなりません。一方で、受け取った見積もりを他の業者に見せたりすると、談合となりえます。

また、独占禁止法違反の「不当な取引制限」の場合は、談合罪の「談合」のように価格を決める協定を交わすだけでは成立せず、「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」が必要です。

不当な取引制限といえるには、まず「一定の取引分野」を特定する必要があります。また、「競争を実質的に制限」する必要があります。前例のない公共事業で、対応できる業者が数限られている場合、もともと競争がなかったと判断される余地があります。

まとめ

このように、談合については重い刑罰が下される一方、その成否の判断は難しいです。疑わしい行為、危険性の高い行為は避けるよう、取引体制を構築する必要があります。また、弁護士などの専門家に危険性がないかどうか、安全な制度を構築するためにはどうすればよいか相談するべきでしょう。

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