公務員と国家賠償-公立学校の生徒が教師の不適切な指導により重い障害を負った事件を基に、公務員と国家賠償について解説

【事例】

2016年に、都立高校の水泳の授業中に教諭から無理な飛び込みの指示を受け、プールの底に頭を打ち付けて重いけがをしたとして、当時3年生だった元男子生徒が東京都に損害賠償を求めた裁判で、東京地裁は3億8000万円あまりの賠償を命じる判決を言い渡しました。

2016年7月、東京・江東区の都立高校で水泳の授業中に、元男子生徒は、体育教諭からデッキブラシを越えてプールに飛び込むよう指示され、頭をプールの底に打ち付けて、首の頸髄を損傷し、両手足に重度のまひが残る大けがをしました。

元男子生徒と家族は「事故は担当教諭による不適切な体育指導が原因で起きた」「18歳の男子高校生が何の落ち度もないまま、突然、夢見ていた将来を奪われた精神的な苦痛は甚大だ」と訴えて、東京都に対し、およそ4億2800万円の損害賠償を求めて裁判を起こしていました。

裁判では都に賠償義務があることは争いがなく、金額が争点となっていましたが、東京地裁はきょうの判決で3億8000万円あまりの賠償を命じました。判決後、元男子生徒は「事故からおよそ8年が過ぎ、この間に母が亡くなり、大きな支えを失ってしまいました」とコメント。そのうえで、教諭からは直接の謝罪がなく、「判決が出ても許すことはできません」などとしています。

元男子生徒に危険な飛び込みの指示をした体育教諭は、その後、業務上過失傷害の罪に問われ、2021年に東京地裁から罰金100万円の判決が言い渡されています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8067d866f3bdcfa6439c7818248d9388de352dea

3月26日火曜日13:18配信

(個人名などは修正しています)

刑罰と懲戒処分

公務員が一般市民に被害を与えた場合、犯罪に当たれば刑罰を受けます。また、非違行為として任命権者から懲戒処分を受けます。

参照:東京都教育委員会「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」

https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/staff/personnel/duties/culpability_assessment.html

【事例】の教諭は業務上過失傷害(刑法第211条)の罪に問われ、罰金刑を科されています。

国家賠償

また、このような被害を与えれば、本来であれば被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うところです。しかしながら、公務員の行為により一般市民が損害を被った場合、それは国・公共団体の活動により損害を被ったといえ、国・公共団体が責任を負うべきともいえます。また、このような場合、被害者が損害をより確実に補填される必要があります。そこで、国家賠償法により、特別に賠償されます。

国家賠償法第1条第1項は「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」と定めています。

国家賠償法では「公権力の行使に当る公務員」と規定されていますが、私人の権利義務を一方的に変動させる権力的公務だけでなく、広く公務員の公務全般が対象になります。

「その職務を行うについて、」とは公務員の職務の遂行において生じたことを意味します。【事例】のように公立学校の教諭が授業中に起こした事件では該当することについてはあまり問題になりませんが、事案によっては「その職務を行うについて」といえるか問題となる場合があります。

警察官が、もっぱら自己の利益を図る目的で、制服を着て職務中であることを装って、被害者に不審尋問をして所持品を預かり、持っている拳銃で射殺した事件では、最高裁は「客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによって、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめ」ると判示しました(最二判昭和31年11月30日)。これにより、客観的に職務行為の外形を備える行為については、「その職務を行うについて」に該当することになります。

「違法」とは公務員が「職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく」行った場合をいます(最一判平成元年3月11日)。教諭は学校のプールのような到底飛び込みに適さないプールで、デッキブラシを超えてというような、愉快犯的なやり方で飛び込むよう指示をしたのですから、職務上尽くすべき注意義務を尽くしていないのは明らかでしょう。

「故意又は過失」は一般的な不法行為と同様に、過失がない場合までは責任を負わないというものです。

以上の要件を満たせば、公務員の所属する国又は公共団体が、被害者に賠償責任を負います。

国家賠償法第1条第2項では、「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」と定めています。公務員に故意又は重大な過失があったときは、被害者に賠償した国や公共団体から、賠償額分を請求されてしまいます。

前述のように、教諭は学校のプールのような到底飛び込みに適さないプールで、デッキブラシを超えてというような、愉快犯的なやり方で飛び込むよう指示をしたのですから、重大な過失があるとされるでしょう。

まとめ

このように、公務員が公務を行うにあたり一般市民に損害を与えると、国又は公共団体が賠償責任を負いますが、故意又は重過失があれば、公務員自身が賠償額を負担しなければならなくなります。

公務員の方で他人に被害を与えてしまい心配の方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

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