Archive for the ‘懲戒処分等’ Category

公務員と国家賠償-公立学校の生徒が教師の不適切な指導により重い障害を負った事件を基に、公務員と国家賠償について解説

2024-04-08

【事例】

2016年に、都立高校の水泳の授業中に教諭から無理な飛び込みの指示を受け、プールの底に頭を打ち付けて重いけがをしたとして、当時3年生だった元男子生徒が東京都に損害賠償を求めた裁判で、東京地裁は3億8000万円あまりの賠償を命じる判決を言い渡しました。

2016年7月、東京・江東区の都立高校で水泳の授業中に、元男子生徒は、体育教諭からデッキブラシを越えてプールに飛び込むよう指示され、頭をプールの底に打ち付けて、首の頸髄を損傷し、両手足に重度のまひが残る大けがをしました。

元男子生徒と家族は「事故は担当教諭による不適切な体育指導が原因で起きた」「18歳の男子高校生が何の落ち度もないまま、突然、夢見ていた将来を奪われた精神的な苦痛は甚大だ」と訴えて、東京都に対し、およそ4億2800万円の損害賠償を求めて裁判を起こしていました。

裁判では都に賠償義務があることは争いがなく、金額が争点となっていましたが、東京地裁はきょうの判決で3億8000万円あまりの賠償を命じました。判決後、元男子生徒は「事故からおよそ8年が過ぎ、この間に母が亡くなり、大きな支えを失ってしまいました」とコメント。そのうえで、教諭からは直接の謝罪がなく、「判決が出ても許すことはできません」などとしています。

元男子生徒に危険な飛び込みの指示をした体育教諭は、その後、業務上過失傷害の罪に問われ、2021年に東京地裁から罰金100万円の判決が言い渡されています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8067d866f3bdcfa6439c7818248d9388de352dea

3月26日火曜日13:18配信

(個人名などは修正しています)

刑罰と懲戒処分

公務員が一般市民に被害を与えた場合、犯罪に当たれば刑罰を受けます。また、非違行為として任命権者から懲戒処分を受けます。

参照:東京都教育委員会「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」

https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/staff/personnel/duties/culpability_assessment.html

【事例】の教諭は業務上過失傷害(刑法第211条)の罪に問われ、罰金刑を科されています。

国家賠償

また、このような被害を与えれば、本来であれば被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うところです。しかしながら、公務員の行為により一般市民が損害を被った場合、それは国・公共団体の活動により損害を被ったといえ、国・公共団体が責任を負うべきともいえます。また、このような場合、被害者が損害をより確実に補填される必要があります。そこで、国家賠償法により、特別に賠償されます。

国家賠償法第1条第1項は「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」と定めています。

国家賠償法では「公権力の行使に当る公務員」と規定されていますが、私人の権利義務を一方的に変動させる権力的公務だけでなく、広く公務員の公務全般が対象になります。

「その職務を行うについて、」とは公務員の職務の遂行において生じたことを意味します。【事例】のように公立学校の教諭が授業中に起こした事件では該当することについてはあまり問題になりませんが、事案によっては「その職務を行うについて」といえるか問題となる場合があります。

警察官が、もっぱら自己の利益を図る目的で、制服を着て職務中であることを装って、被害者に不審尋問をして所持品を預かり、持っている拳銃で射殺した事件では、最高裁は「客観的に職務執行の外形をそなえる行為をしてこれによって、他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体に損害賠償の責を負わしめ」ると判示しました(最二判昭和31年11月30日)。これにより、客観的に職務行為の外形を備える行為については、「その職務を行うについて」に該当することになります。

「違法」とは公務員が「職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく」行った場合をいます(最一判平成元年3月11日)。教諭は学校のプールのような到底飛び込みに適さないプールで、デッキブラシを超えてというような、愉快犯的なやり方で飛び込むよう指示をしたのですから、職務上尽くすべき注意義務を尽くしていないのは明らかでしょう。

「故意又は過失」は一般的な不法行為と同様に、過失がない場合までは責任を負わないというものです。

以上の要件を満たせば、公務員の所属する国又は公共団体が、被害者に賠償責任を負います。

国家賠償法第1条第2項では、「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」と定めています。公務員に故意又は重大な過失があったときは、被害者に賠償した国や公共団体から、賠償額分を請求されてしまいます。

前述のように、教諭は学校のプールのような到底飛び込みに適さないプールで、デッキブラシを超えてというような、愉快犯的なやり方で飛び込むよう指示をしたのですから、重大な過失があるとされるでしょう。

まとめ

このように、公務員が公務を行うにあたり一般市民に損害を与えると、国又は公共団体が賠償責任を負いますが、故意又は重過失があれば、公務員自身が賠償額を負担しなければならなくなります。

公務員の方で他人に被害を与えてしまい心配の方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

こちらの記事もご覧ください。

公務員の犯罪

公務員の窃盗事件-公務員が窃盗事件を起こしてしまった場合の、問題となる犯罪、懲戒処分について解説

2024-04-01

公務員が起こす刑事事件の中で,窃盗事件が少なくありません。

プライベートで窃盗事件を起こすこともあれば,市役所や自衛隊内など職場で窃盗事件を起こすこともあります。

窃盗の態様も,仕事で保管されているお金を盗んだり,同僚の物を盗んだり,仕事で使う物を勝手に盗んだりすることなどがあります。

窃盗罪

刑法第235条は,「他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」と規定されております。

窃盗罪の保護法益は,占有です。

社会における財産的秩序は,所有権等の本権の存否自体よりも,むしろ占有が有する本権推定機能に対する信頼を基礎にしていると考え,財物の所持自体が保護されるべき対象であるとされています。

刑法第242条は,「自己の財物であっても,他人が占有し,又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは,この章の罪については,他人の財物とみなす。」とされていて,自己の財物でも他人が所持する物は窃盗罪の客体となります。

占有・所持は,人が物を事実上支配・管理する状態をいいます。

このような事実上の支配があるとするためには,主観的要素としての支配の意思と,客観的要素としての支配の事実が必要です。

窃取とは,財物の占有者の意思に反して,その占有を侵害し,自己又は第三者の占有に移すことです。

実行の着手は,他人の財物の占有を侵害する具体的危険が発生する行為を行った時点で認められます。

具体的事案において判断する場合には,対象となる財物の形状,窃取行為の態様,犯行の日時・場所等の諸般の状況が考慮されることになります。例えば、ロッカーの中のものを盗むのであれば、ロッカーを開けた段階で着手があったと判断される可能性があります。

既遂時期については,犯人が目的となる財物の他人の占有を排除して,自己又は第三者の占有に移した時点となります。

具体的事案における既遂時期の判断に当たっては,実行の着手の判断と同様に,対象となる財物の形状,窃取行為の態様,犯行の日時・場所等の諸般の状況が勘案されることになります。財布のような手に持てるものであれば、自分のポケットなどにいれた段階で既遂になります。

本罪は故意犯であり,財物の占有者の意思に反して,その占有を侵害し,自己又は第三者の占有に移すことについての認識が必要となります。

故意の他に,不法領得の意思が必要となります。

不法領得の意思とは,権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思をいいます。

経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思にいう経済的用法とは,その物の本来の用途にかなったとか,財物から生じる何らかの効用を享受するということで足ります。

利用し又は処分することも,必ずしも経済的な意義を有する必要はありません。

性的目的で下着を盗んだ場合等も,窃盗罪が成立します。一方で、嫌がらせのために隠したような場合は、不法領得の意思があったとはいえないとされます。

懲戒処分

公務員が窃盗を行った場合、刑罰だけでなく懲戒処分も受けます。

国家公務員に関する人事院の「懲戒処分の指針」によれば、「公金又は官物を窃取した職員は、免職とする。」と定めています。公務外であっても、「他人の財物を窃取した職員は、免職又は停職とする。」と定めています。

公務員が窃盗を行った場合、重い懲戒処分を受けることになります。

すぐに弁護士に相談を

窃盗罪を行ったら,逮捕される可能性があります。

現行犯で逮捕されるだけでなく,事件発生からしばらくしてから犯人が特定されて令状逮捕される可能性があります。

逮捕されたら,公務員の場合,その地位の重要性から,一般の人よりも実名報道される可能性が高いです。

職場にばれてしまい,懲戒処分を受けることになります。

窃盗の金額が大きかったり,常習的に何度もしている状況であれば,起訴されて正式裁判となる可能性もあります。

執行猶予が付いたとしても,懲役刑となれば,失職となります。

窃盗事件が起こってしまったら,すぐに弁護士に相談してください。

逮捕されたら釈放活動が必要ですし,被害者への被害弁償示談活動も必要になります。

懲戒処分や失職のリスクに対処するために,スピードを持って対応する必要があります。

事件をそのまま放置してしまったら,後で取り返しの付かない状況になってしまうことになります。

迅速な対応が必要になりますので,事件を起こしたご本人やご家族の方は,ぜひ当事務所にご連絡・ご相談してください。

こちらの記事もご覧ください。

市役所職員の刑事事件-市職員の置引きのケースを基に、置引き事件の弁護活動について解説

公務員の汚職の罪-警察官が勾留中の女性に抱きつくなどした事件を基に特別公務員暴行陵虐罪について解説

2024-03-25

【事例】

勾留中の30代女性に抱きつくなどしたとして、千葉県警は15日、特別公務員暴行陵虐の疑いで当時船橋署留置管理課に勤務していた男性警部補(54)を書類送検し、減給100分の10(6カ月)の懲戒処分とした。警部補は同日依願退職した。県警で今年、懲戒処分を受けた職員は3人目。

 書類送検容疑は昨年11月上旬ごろ、同署留置施設内で、勾留中の女性に抱きつき、12月13日には護送中の車内で同じ女性の手を握った疑い。

 県警監察官室によると、警部補は留置管理施設内で、女性が居室外のロッカーに着衣をしまう際、後ろから抱きついた。手を握った際、警部補は隣に座っていた。いずれも複数人で業務を行っている中で行われたが気付いた人はいなかった。

 1月下旬、女性から留置業務の担当官に申告があり発覚した。県警の調べに対し警部補は対応する中で特別な感情を抱いてしまったとしている。警部補は2月、本部警務課に異動になった。警部補は「このような行為を行い、関係者や警察組織に申し訳ない気持ちでいっぱい。職を辞して責任を取る」と話している。

 同室の首席監察官は「被留置者の適切な処遇を行うべき警察官が、このような行為に及んだことは警察業務の信頼を損なうもので誠に遺憾。被害者と県民に深くおわび申し上げる」とコメントした。

https://news.yahoo.co.jp/articles/8ffbce62e93eb5f676e2e0a6a2e0891b2ca8e060

千葉日報3/17(金)15:37配信

(個人名などを修正しています)

公務員の中でも裁判官や検察官、警察官は逮捕のように国民の権利利益を強制的に制約する公権力の行使をも行うことができます。このような公務員がその職権を濫用すれば、公務の適正が害され、公務に対する国民の信頼も損なわれてしまいます。そのため、公務員が職権を濫用して汚職をすることに対しては、重い刑罰が科されます。

汚職の罪には贈収賄罪も含まれますが、これらは公務の適正とそれに対する国民の信頼を脅かすものです。一方、人を逮捕するなど身体拘束をする権限を有する者が、その権限を悪用して暴行やわいせつ行為を行う罪が特別公務員暴行陵虐罪です。

特別公務員暴行陵虐罪

裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、特別公務員暴行陵虐罪が成立し、7年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法第195条第1項)。法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、同様に処罰されます(刑法第195条第2項)。

第1項の罪の主体も、特別公務員職権濫用罪と同じく、裁判官、検察官、検察事務官、警察官、裁判所書記官などが該当しますが、人を逮捕監禁する権限を有しない者も対象になります。

暴行とは暴行罪などと同じく身体に対する不法な有形力の行使をいいます。

陵辱とは辱める行為や精神的に苦痛を与える行為、加虐とは苦しめる行為や身体に対する直接の有形力の行使以外の肉体的な苦痛を加える行為などをいいます。わいせつ行為など、暴行以外の方法で精神的又は肉体的に苦痛を与える行為が該当します。

第2項の「法令により拘禁された者」とは、逮捕や勾留されている者など、法令上の規定に基づいて公権力により拘禁されている者をいいます。このような者を「看取又は護送する者」が本罪の主体となります。

【事例】では警部補が勾留中の女性に抱きつくなどしており、特別公務員暴行陵虐罪が成立します。

特別公務員暴行陵虐罪を犯し、よって人を死傷させた場合は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断されます(刑法第196条)。

傷害罪は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金(刑法第204条)、傷害致死罪は3年以上の有期懲役(刑法第205条)に処されます。したがって、致傷罪は1月以上15年以下の懲役、致死罪は3年以上20年以下の懲役となります。

懲戒処分

特別公務員暴行陵虐罪は相当重い罪で、公務員への信頼を大きく損ねかねないことですが、懲戒処分の指針では、特別公務員暴行陵虐罪に当たる非違行為をした場合は挙げられていないところが見受けられます。このような行政庁では、暴行やわいせつをした場合の基準を参照して処分が決められるものと考えられます。

参考

人事院「懲戒処分の指針について」

https://www.jinji.go.jp/seisaku/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html

こちらの記事もご覧ください

汚職の罪

おわりに

以上のように、特別公務員暴行陵虐事件は刑事・懲戒とも重い処分を科される可能性が高いです。そのため、早期に弁護士に相談して対応を決めるべきです。

特別公務員暴行陵虐事件でお悩みの方は、あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

公務員と児童買春-公務員が児童買春をした場合の刑事手続き・懲戒処分について解説

2024-03-18

公務員による児童買春が問題となっています。公務員が児童陪審をした場合、刑事手続きだけでなく懲戒手続においても厳しい処分が下されます。

ここでは、公務員が児童陪審をした場合の問題について解説します。

児童買春

児童買春は、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」(児童ポルノ法)において規制されています。同法の第2条第1項では、「児童」を18歳に満たない者と定め、第2項では、児童買春について定義しています。

 この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。

 児童

 児童に対する性交等の周旋をした者

 児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者

そして、児童買春をした者は、5年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処されます(児童ポルノ法第4条)。

児童の保護者などがあっせんする場合も児童買春になりますが、昨今問題となっているのは、児童と直接会って金銭等の対償を供与して性交等をすることでしょう。

児童買春が成立するには、まず相手が18歳未満の「児童」であることを認識している必要があります。大学生だと紹介されていてそもそも18歳以上だと思っていた場合は成立しません。もっとも、このような認識は故意と呼ばれ、認識できたといえれば故意があったとされます。学生証などを見せてもらって、18歳未満であったと確信するようなことまでは必要はありません。相手が学生服を着ていたような場合、18歳未満の者であると認識できたでしょうから、「18歳未満だとは思わなかった」などという弁解はまず通用しません。

また、児童買春が成立するには、対償を供与し又はその約束をする時点で、相手が「児童」、つまり18歳未満の者であることを認識している必要があります。事前に対象を供与する約束をしており、実際に会って18歳未満だと気づいたがそのまま性交等をした場合や、性交等をした後で学生証を見て18歳未満だと気づいた場合は、児童買春は成立しません。

児童買春の弁護活動

以上のように、児童買春が成立するには、対償を供与し又はその約束をする時点で、相手が18歳未満の者であることを認識している必要があります。そもそも金銭などは与えていないしそのような約束もしていない、18歳未満だとは気づかなかった、気づいたのは会ってからだった、といった事情があれば、児童買春は成立しない可能性があります。もっとも、このような主張をすれば、警察官や検察官から厳しい取り調べを受けるでしょう。弁護士のアドバイスを受けて、適切に取り調べに臨むべきです。

一方で、児童買春をしたことが間違いないのであれば、相手の方と示談をすることになります。児童は18歳未満の者であるため未成年者(民法第4条)ですが、示談とは加害者が罪を認めて示談金を払うだけでなく、被害者も示談金以外の債権は存在しないと認め、訴えの提起などをしないという負担を負うものであり、単に権利を得る法律行為というわけにはいかないため、児童(未成年者)が一人でできるわけではなく、その親権者が法定代理人(民法第824条第1項)として、示談をすることに同意するか、親権者が代理人となって示談をする必要があります(民法第5条第1項)。この場合、親権者としては自分の子供が騙されて性加害を受けたという思いが強く、示談は容易にはできません。そこで、専門家である弁護士に依頼して、適切に示談が成立するように持っていく必要があります。

その他の犯罪の成立

18歳未満だと知ってから性交等をすれば、児童に淫行をしたとして、各都道府県の青少年健全育成条例違反となる可能性があります。

相手が16歳未満の場合は、不同意性交等罪(刑法第177条)が成立する可能性があります(なお、被害者が13歳未満の場合又は被害者が13歳以上16歳未満で行為者が被害者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者であることが条件となりますが、加害者が公務員である場合、年齢的にこの条件はまず問題とならないでしょう)。不同意性交等は5年以上の有期懲役であり、児童買春よりも重い刑罰が科されます。

懲戒処分

公務員が児童買春をすると、非違行為をしたとして、重い懲戒処分を受けることになります。

国家公務員の懲戒に関する、人事院の「懲戒処分の指針について」によると、「3 公務外非行関係」において、「(12)淫行」では、18歳未満の者に対して、金品その他財産上の利益を対償として供与し、又は供与することを約束して淫行した職員は、免職又は停職とする、と定めており、重い処分が予測されます。

人事院「懲戒処分の指針について」

https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html

こちらの記事もご覧ください。

公務員の児童に対する性犯罪-公務員から児童に対する各種性犯罪について解説

まとめ

このように、公務員が児童買春をした場合、非常に重い処分が下されることになります。

公務員の方で児童買春についてお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。

公務員の不正アクセス―公務員が不正アクセスをした場合の刑事・懲戒手続上の問題について解説

2024-03-04

公務員は戸籍など一般市民のセンシティブな情報を扱っています。こうした情報を職務とは無関係に利用すれば、不正アクセスとなる可能性があります。

ここでは、公務員の不正アクセスについて解説します。

不正アクセス禁止法

不正アクセス行為の禁止等に関する法律(不正アクセス禁止法)は、不正アクセス行為を禁止しています(同法第1条)。

この法律において「不正アクセス」とは、次のいずれかに該当する行為と定められています(同法第2条第4項)。

①アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号を入力して当該特定電子計算機を作動させ、当該アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者又は当該識別符号に係る利用権者の承諾を得てするものを除く。)

②アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能による特定利用の制限を免れることができる情報(識別符号であるものを除く。)又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者の承諾を得てするものを除く。次号において同じ。)

③電気通信回線を介して接続された他の特定電子計算機が有するアクセス制御機能によりその特定利用を制限されている特定電子計算機に電気通信回線を通じてその制限を免れることができる情報又は指令を入力して当該特定電子計算機を作動させ、その制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為

典型的なのがIDとパスワードを入力してアクセスできるところに、許可なく他人のIDとパスワードを入力してアクセスする場合です。

なお、パスワードは「識別符号」(同法第2条第2項)のうちの「当該アクセス管理者によってその内容をみだりに第三者に知らせてはならないものとされている符号」(同項第1号)に当たりますが、パスワードだけではアクセスできないので、IDが「その他の符号」として、IDとパスワードで「次のいずれかに該当する符号とその他の符号を組み合わせたもの」として「識別符号」に当たります。

何人も、不正アクセス行為をしてはなりません(不正アクセス禁止法第3条)。これに違反すれば、3年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます(同法第11条)。

不正アクセス行為の用に供する目的で他人の識別符号を取得すること(同法第4条)や、業務その他正当な理由による場合でなく他人の識別符号をアクセス管理者や利用権者以外の者に提供すること(同法第5条)、不正アクセス行為の用に供する目的で不正取得された他人の識別符号を保管すること(同法第6条)、アクセス管理者になりすましたりアクセス管理者と誤認させて識別符号の入力を要求すること(同法第7条)も、禁止されています。これらの違反行為をすれば、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(同法第12条第1号乃至第4号)。

その他の法令違反

不正アクセスにより秘密情報を漏洩させた場合、国家公務員法、地方公務員法の違反となります(国家公務員法第109条第12号・第100条第1項、地方公務員法第60条第2号・第34条第1項。いずれも1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。さらに、特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)では特定秘密を洩らした場合、より重い刑罰を科されます(特定秘密保護法第23条第1項。10年以下の懲役、又は10年以下の懲役及び1000万円以下の罰金)。

不正アクセスに対する懲戒処分

不正アクセスは、秘密情報の漏洩や不正な利益の獲得につながり、「職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合」や「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」に当たり(国家公務員法第82条第1項第2号第3号、地方公務員法第29条第1項第2号第3号)、懲戒処分の対象となります。

懲戒処分の指針は国や地方自治体ごとに定められています。国家公務員に関する、人事院の「懲戒処分の指針について」によれば、不正アクセスそのものは「第2 標準例」には挙げられていません。

しかし、不正アクセスの結果前述のような秘密漏洩等の事態に至れば、標準例に挙げられているものが当てはまる場合があります。

例えば、「第2 標準例 1 一般服務関係」では、

○「(8)秘密漏えい ア 職務上知ることのできた秘密を故意に漏らし、公務の運営に重大な支障を生じさせた職員は、免職又は停職とする。この場合において、自己の不正な利益を図る目的で秘密を漏らした職員は、免職とする。」

○「イ 具体的に命令され、又は注意喚起された情報セキュリティ対策を怠ったことにより、職務上の秘密が漏えいし、公務の運営に重大な支障を生じさせた職員は、停職、減給又は戒告とする。」

○「(12)個人の秘密情報の目的外収集 その職権を濫用して、専らその職務の用以外の用に供する目的で個人の秘密に属する事項が記録された文書等を収集した職員は、減給又は戒告とする。」

などに該当することが考えられます。

また「2 公金官物取り扱い関係」には「(10)コンピュータの不適正使用 職場のコンピュータをその職務に関連しない不適正な目的で使用し、公務の運営に支障を生じさせた職員は、減給又は戒告とする。」と定められています。

また、これらの標準例に挙げられていないからといって、なんら処分されないというわけではありません。「第1 基本事項」には「なお、標準例に掲げられていない非違行為についても、懲戒処分の対象となり得るものであり、これらについては標準例に掲げる取扱いを参考としつつ判断する。」と定められています。

こちらの記事もご覧ください

公務員と服務規律

まとめ

以上のように、公務員が不正アクセスを行えば、刑事処分、懲戒処分とも厳しい処分が予想されます。

不正アクセスでお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

公務員の児童に対する性犯罪-公務員から児童に対する各種性犯罪について解説

2024-02-28

公務員の方が18歳未満の児童に対して性犯罪を行ってしまい、当事務所へ相談・依頼されることが少なくありません。

報道でも、18歳未満の児童に対する性犯罪で逮捕され、懲戒処分を受けたとの記事を多く見かけます。

迅速な対応が必要となりますので、ぜひ当事務所へお早めにご相談していただけたらと思います。

未成年者の同意がある性行為・わいせつ行為

18歳未満の者との性行等やわいせつ行為が禁止されており、淫行条例違反となります。

お金を渡す約束をして18歳未満の者との性交等やわいせつ行為をすることが禁止されており、児童買春となります。

そして、相手が16歳未満であれば、同意があったとしても犯罪となり、わいせつ行為があれば不同意わいせつ罪、性交等があれば不同意性交等罪となります。

なお、この罪や今後説明する罪に共通することですが、16歳未満の者が13歳以上である場合は、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が行為者である場合に限り犯罪が成立します。

未成年者の同意がない性行為・わいせつ行為・痴漢

未成年者の同意がない状況で性交等をしたら不同意性交等罪が、わいせつ行為をしたら不同意わいせつ罪が成立します。

未成年者が死亡したり怪我を負ったりしたら、不同意性交等致死傷罪や不同意わいせつ致死傷罪が成立して重罪となり、裁判員裁判対象事件となります。

同意がない状況として、刑法第176条第1項では、「次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、」と記載され、以下の各号があります。

一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。

二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。

三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。

四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。

五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。

六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。

七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。

八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をしたら不同意性交等罪、わいせつ行為をしたら不同意わいせつ罪、が成立します。

未成年者の監護者がわいせつ行為や性交等をしたら、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪が成立します。

わいせつとまではいかなくても、公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し、著しく羞恥させ、又は不安を覚えさせるような方法で、衣服等の上から、又は直接身体に触れることをしたら、迷惑防止条例違反となります。

裸や下着姿の動画や写真を撮影

同意があったとしても、正当な理由がないのに、16歳未満の者を対象として、その裸や下着姿やわいせつな行為又は性交等を撮影したら、性的姿態等撮影罪となります。

16歳以上の被害者に関しては、正当な理由がないのに、同意なくひそかに、その裸や下着姿やわいせつな行為又は性交等を撮影したら、性的姿態等撮影罪が成立します。

不同意わいせつ罪の各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影しても、同様となります。

行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為も、同様となります。

未遂行為も罰せられます。

同時に不同意わいせつ罪や監護者わいせつ罪が成立することもあります。

性的影像記録を提供した者は、性的影像記録提供等罪が成立します。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律では、児童ポルノとして、以下の写真や動画を対象としております。

一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態

二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

児童ポルノの所持・提供・製造等が犯罪として処罰されます。

16歳未満の者に対する面会要求等罪

16歳未満の者に対する面会要求等罪が新しくできました。

性犯罪を目的とした16歳未満の者への一定の接触行為の段階を犯罪行為として定め、犯罪を抑止していくためです。

わいせつの目的で、16歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をしたら犯罪となります。

一 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること。

二 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること。

三 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること。

上記の行為をし、実際に16歳未満の者と面会したら、犯罪となります。

16歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為を要求したら、犯罪となります。

一 性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。

二 前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触られる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。

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官製談合と公務員-公務員の入札談合等関与行為に対する刑罰と懲戒処分について解説

2024-02-19

カルテル・談合は事業者間でひそかに行われるだけでなく、公務員が唆したり予定価格を教えるなどして関与することもあります。本来公の入札等の公正を保持するべき公務員自らこのような談合に関与しては、入札等の公正を確保できず、行政への信頼を損ねることになります。ここでは、公務員が談合に関与した場合の刑事処分や懲戒処分について解説します。

官製談合の防止

談合を規制・処罰する法律の規定として刑法の談合罪(刑法第96条の6第2項)や独占禁止法の不当な取引制限禁止の違反(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第2条第6項・第3条・第89条第1項第1号)があります。しかし、これらは入札参加者や事業者といった事業者側の談合を規制するものです。官の側からの談合の唆しや情報提供については直接規制していませんでした。

そこで、公務員の入札への関与を規制するために、「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」(入札談合等関与行為防止法)が制定されました。この法律は、「公正取引委員会による各省各庁の長等に対する入札談合等関与行為を排除するために必要な改善措置の要求、入札談合等関与行為を行った職員に対する損害賠償の請求、当該職員に係る懲戒事由の調査、関係行政機関の連携協力等入札談合等関与行為を排除し、及び防止するための措置について定めるとともに、職員による入札等の公正を害すべき行為についての罰則を定め」ています(同法第1条)。

同法では、「職員」(同法第2条第5項。国若しくは地方公共団体の職員又は特定法人(同法第2条第2項に定められており、国や地方公共団体が持ち分の多数を有して実質支配している法人)の役員若しくは職員)が、その所属する国等が入札等により行う売買、貸借、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に談合を唆すこと、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、5年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処すると定めています(同法第8条)。

懲戒処分

懲戒処分の内容

懲戒処分については、国や各地方公共団体が懲戒処分の指針を定めています。国家公務員に関する、人事院の「懲戒処分の指針について」によれば、「第2 標準例 1 一般服務関係 (11)入札談合等に関与する行為」において「国が入札等により行う契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に談合を唆すこと、事業者その他の者に予定価格等の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行った職員は、免職又は停職とする。」と定められています。

参照

人事院「懲戒処分の指針

懲戒事由の調査

公正取引委員会は、入札談合等の事件についての調査の結果、当該入札談合等につき入札談合等関与行為があると認めるときは、各省各庁の長等に対し、当該入札談合等関与行為を排除するために必要な入札及び契約に関する事務に係る改善措置を講ずべきことを求めることができます(入札談合等関与行為防止法第3条第1項)。この求めがあったときは、各省各庁の長等は、当該入札談合等関与行為を行った職員に対して懲戒処分をすることができるか否かについて必要な調査を行わなければなりません(同法第5条第1項本文)。当該求めを受けた各省各庁の長、地方公共団体の長、行政執行法人の長又は特定地方独立行政法人の理事長が、当該職員の任命権を有しない場合(当該職員の任命権を委任した場合を含む。)は、当該職員の任命権を有する者(当該職員の任命権の委任を受けた者を含む。)である任命権者に対し、この求めがあった旨を通知し(同法第5条第1項ただし書き)、この通知を受けた任命権者は、当該入札談合等関与行為を行った職員に対して懲戒処分をすることができるか否かについて必要な調査を行わなければなりません(同法第5条第2項)。そして、各省各庁の長等又は任命権者は、この調査の結果を公表しなければなりません(同法第5条第4項)。

したがって、入札談合等関与行為をすれば、所属する組織に知られて懲戒処分になるうえ、公表されてしまいます。

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官製談合

まとめ

このように、官製談合に関与した公務員には、刑事処分、懲戒処分とも重い処分を科されます。

官製談合についてお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

公務員と不同意わいせつ罪―不同意わいせつ事件で相談・依頼される公務員の方が増えております

2024-02-13

法律改正の影響

昨年に強制わいせつ罪が不同意わいせつ罪に改正され、犯罪が成立しやすくなりました。

暴行・脅迫に限らず、被害者が同意しないと考えたり、その意思を示すのが困難な状態に乗じたと評価されれば、犯罪が成立するようになりました。

公務員という地位にあっても、軽い気持ちであったり、アルコールで酔っぱらった状態で、被害者に対してわいせつ行為をしてしまうケースが問題となってきます。

これまで以上に性犯罪に対する社会の態度が厳しいものになっているため、きちんとした対応が必要になります。

当事務所でも、不同意わいせつ事件を起こしてしまい、相談・依頼される公務員の方が増えております。

不同意わいせつ罪は罰金処分がないため、起訴されたら執行猶予でも失職することになります。

懲戒で免職・停職・減給・戒告になる可能性もあります。

不同意わいせつ罪について

刑法第176条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。

*改正刑法の施行により禁錮刑と懲役刑が一本化されるまでは、懲役刑が処されます。

一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。

二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。

三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。

四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。

五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。

六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。

七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。

八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。

3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

不同意わいせつ罪は、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、」わいせつな行為をする犯罪です。

同意していないケースとして多数記載されておりますが、明確に同意している場合を除き、同意していないと評価されることになります。

相手が同意していると思った、と反論したとしても、明確に同意しているとの状況がなければ主張は認められません。

必要な活動

実際に相手が同意していない状況でわいせつ行為をしてしまったのであれば、被害者に対して示談交渉をする必要があります。

謝罪・接触禁止・口外禁止等を取り決めしたうえで、示談金を支払うことになります。

被害者が示談に応じていただけたら、起訴前であれば不起訴になる可能性が高まります。

実際にわいせつ行為をしていなかった、明確な同意があった、ということであれば、きちんと争っていく必要があります。

警察は、密室の取調べで、被害者が被害を訴えている、証拠があるから何を言っても無駄だ、お前は全然反省していない、被害者に対して申し訳ないと思わないのか、等と言って圧力をかけてくる可能性があります。

プロの警察に対して素人の一般人が対抗するのは非常に難しいです。

刑事弁護に精通した弁護士を立てて毅然と対抗していく必要があります。

不同意わいせつ事件が発生したら、すぐに弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。

無料で面談を実施させていただきます。

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市役所職員の刑事事件-市職員の置引きのケースを基に、置引き事件の弁護活動について解説

2024-02-08

【事例(フィクション)】

市役所に勤務するAさんは、商業施設のトイレの個室に入った際、前にその個室を利用した人が置き忘れた財布を見つけ、それをトイレから持ち出し、中の現金を抜いて財布は捨ててしまいました。

一方財布を置き忘れた人(被害者)は、その後すぐに置き忘れに気付いてトイレに戻りましたが、既にAさんが財布を持ち去った後でした。

被害者の通報により警察が捜査をし、Aさんが犯人だと特定されました。

Aさんは逮捕はされませんでしたが、窃盗の容疑で在宅捜査中です。

Aさんに前科前歴はありません。

【被疑者の方が市役所職員の場合のリスク】

市役所職員は、地方公務員となります。

市役所職員の方が刑事事件の被疑者となった場合、刑事手続き上の逮捕・勾留や刑事罰のリスクだけでなく、地方公務員法上の懲戒処分や、失職等のリスクにもさらされることとなってしまいます。

以下、弁護活動も含め、順に説明していきます。

【事例の置引きの刑事罰】

被害者が置き忘れた物の置引きについて、その物が被害者の占有を離れていると評価される場合は占有離脱物横領罪(刑法254条)、被害者の占有の下にあると評価される場合は窃盗罪(刑法235条)が成立します。

事例では、財布を置き忘れた被害者がすぐに置き忘れに気付いてトイレに戻っており、こういう場合、財布は未だ被害者の占有の下にあると評価され窃盗罪が成立することが多いです。

窃盗罪は、「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」とされています。

被害金額等、他の事情にもよるので一概には言えませんが、Aさんのように置き忘れられた財布を窃取したという場合、前科前歴がなければ、罰金刑になることが多いです。

【弁護活動】

①示談交渉

Aさんの場合、財布を窃取したのは事実なので、示談交渉が非常に重要です。

示談交渉のやり方について、通常被疑者本人は被害者の連絡先を教えてもらえないことが多かったり、仮に直接連絡できたとしても当事者同士だともめてしまうリスクがあるので、弁護士に依頼することをおすすめします。

弁護士を通じて、被害者の方に謝罪と賠償の意向を伝え、弁護士において具体的な示談条件について交渉していくのがよいでしょう。

被害者の方に示談を受けていただければ、前科前歴のないAさんの場合、不起訴となる(前科を回避できる)可能性が高いです。

②取調べへの対応

Aさんは逮捕はされなかったとはいえ、在宅捜査という形で今後警察官、検察官の取調べを受けていくことになります。

取調べ対応は今後の刑事処分等にも影響し得るので、対応について弁護士が継続的にアドバイスをすることが大切です。

【刑事罰以外の処分等】

地方公務員の方は、起訴されると、休職をさせられることがあります(地方公務員法28条2項2号)。

そして起訴され、有罪判決で禁錮以上の刑となれば、執行猶予が付いたとしても、失職することになります(地方公務員法28条4項・16条1号)。

事例の場合、先述のとおり、有罪判決であっても罰金刑の可能性が高く、この規定による失職の可能性は低そうです。

もっとも、地方公務員の方が犯罪にあたる行為をすると、刑事罰とは別に懲戒処分を受けることにもなります。

懲戒処分は、重い順に、免職、停職、減給、戒告と種類があります。

各地方公共団体が公表している懲戒処分の指針によると、公務外非行の類型ごとに処分基準が定められており、他人の財物を窃取した職員は免職又は停職とされているものが多く見られます。

これだけ見るとAさんの場合、免職か停職になってしまいそうですが、懲戒処分の指針においては、非行の重大性や悪質性、その他様々な事情を考慮するとされており、非行の類型ごとに定められている基準より軽くなることも、逆に重くなることもあり得ます。

Aさんの場合、事情次第で免職・停職より懲戒処分が軽くなる可能性もあります。

例えば非違行為後の対応といった、弁護活動における示談交渉と絡む考慮要素もありますので、懲戒処分のリスク軽減のためにも、弁護士に相談することをおすすめします。

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公務員の懲戒処分

【おわりに】

置引き窃盗の容疑をかけられた市役所職員の方は、刑事罰、懲戒処分等のリスクにさらされますが、こういったリスクを回避・軽減するためには、弁護士による適切なアドバイスや活動が必要ですので、できるだけ早めに弁護士に相談することをおすすめします。

置引きをしてしまいお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

公務員と粗暴犯-公務員が暴行・傷害事件を起こしてしまった場合の弁護活動について解説

2024-02-05

公務員が暴行や傷害事件を起こすと、刑罰だけでなく懲戒処分の対象となります。

ここでは、公務員の暴行・傷害事件について解説します。

刑事事件

人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円に処されます(刑法第204条)。

暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処されます(刑法第208条)。

暴行は人の身体に対する有形力の行使をいいます。殴ったり蹴ったりするのが典型的な行為です。

傷害は、人の生理的機能を害することをいい、必ずしも暴行を必要としません。騒音や暴言で心身に不調をきたすことによっても傷害が成立することがあります。

暴行にとどまる場合、前科がなければ不起訴(起訴猶予)で済む可能性が高いです。

一方、傷害の場合、傷害の程度が重いと、前科がなくても起訴される可能性があります。全治2週間以上の傷害の場合、略式請求(刑事訴訟法第461条以下)ではなく公判請求される可能性もあります。

暴行・傷害いずれにおいても、起訴を避け又は罰金などの軽い処分にとどめるには、被害者と示談を成立させることが重要となります。示談において支払う示談金では、暴行・傷害行為に対する精神慰謝料や治療代のほか、傷害を負わされたため仕事できなかった間の休業損害や、後遺障害が発生したときの逸失利益などを支払うことになります。

暴行・傷害事件の懲戒処分

公務員が他人に暴行したり傷害を負わせると、非違行為をしたとして、懲戒処分を受けることになります。

国家公務員の懲戒に関する、人事院の「懲戒処分の指針について」によると、「1 一般服務関係」において、「(5)職場内秩序を乱す行為」では、「ア 他の職員に対する暴行により職場の秩序を乱した職員は、停職又は減給とする」と定めています。また、「(15)パワーハラスメント」では、「ウ パワーハラスメントを行ったことにより、相手を強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹(り)患させた職員は、免職、停職又は減給とする。」と定めています。

「3 公務外非行関係」においても、「(3)傷害」では、「人の身体を傷害した職員は、停職又は減給とする。」と定めています。「(4)暴行・けんか」では、「暴行を加え、又はけんかをした職員が人を傷害するに至らなかったときは、減給又は戒告とする。」と定めています。

人事院「懲戒処分の指針について」

https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html

公務員の身分に関する手続き

公務員の場合、起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。

国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国家公務員法第85条)。そのため、起訴されたり判決が出る前に懲戒手続がすすめられ、懲戒処分が下されることがあります。

裁判の結果、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。地方公務員の場合は、「条例に特別の定めがある場合」には失職とならないとすることができます。しかし、通勤中の交通事故や執行猶予付きの禁錮にとどまる場合にのみ失職させないことができるという場合が多いです。

特に傷害事件の場合、略式手続きで罰金刑でなければ、公判請求されて休職となり、懲役刑となって失職となる可能性が高いといえます。そのため、前述の示談を成立させることが重要となります。

こちらの記事もご覧ください。

自衛官の刑事事件-自衛官が暴行事件を起こしてしまったケースを基に弁護活動や懲戒処分について解説

まとめ

このように、暴行・傷害事件であっても、怪我の程度が重い場合は職を失う可能性があります。公務員の方で暴行・傷害事件を起こしてしまいお悩みの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所へご相談ください。

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