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公務が違法になったとき
公務員の公務の中には、特に警察官の活動などに見られますが、緊急性があるものもあり、また有形力を行使したり身体を拘束するなど、対象者の権利利益を強く制約するものもあります。これらの公務が場合によっては違法と評価されることがあります。このようなぎりぎりのせめぎあいの中で公務を執行せざるを得ない場合があります。一方で、このような一方的な権力関係にあるために、その権力を濫用して犯罪に至ってしまう場合もあります。ここでは、公務員の公務が犯罪になってしまう場合について解説します。
職権濫用罪
公務員がその職権を濫用して国民の権利利益を侵害した場合、公務の適正を害し、公務への信頼を損ねます。特に人の身体を拘束する権限のある公務は濫用の虞が高く、ひとたび濫用されれば害悪は甚大となります。そこで、このような職権濫用について処罰規定が設けられています。
公務員職権濫用
公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、公務員職権濫用罪が成立し、2年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法193条)。
「職権」とは公務員の一般的職務権限に属する行為を指します。「濫用」とは、この職権の行使に仮託して、実質的、具体的に違法・不当な行為をすることをいいます。
公務員職権濫用罪は2年以下の懲役に処すると定められており、3年以下の懲役に処される強要罪(刑法223条)より刑罰が軽くなっています。これは、公務の適正の確保という抽象的な利益を保護法益としており、また暴行や脅迫のような害悪の程度の強い行為を用いなくても犯罪が成立しうるためです。
公務員職権濫用罪に該当する行為でも、暴行や、生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した場合は、強要罪のみが成立するとされています。強要罪の場合は、未遂罪も処罰されます(刑法223条3項)。
特別公務員職権濫用
裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、6月以上10年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法194条)。
本罪の主体は、裁判官、検察官、検察事務官、警察官、のほか、裁判所書記官などが該当します。
これらの公務員は刑事司法に関して職務上逮捕等により人を拘束する権限を有しています。このような職権を濫用することは害悪が甚大であるため、逮捕監禁罪(刑法220条。3月以上7年以下の懲役)よりも刑罰が重くなっています。
特別公務員暴行陵虐
裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、特別公務員暴行陵虐罪が成立し、7年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法195条1項)。法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、同様に処罰されます(刑法195条2項)。
1項の罪の主体も、特別公務員職権濫用罪と同じく、裁判官、検察官、検察事務官、警察官、裁判所書記官などが該当しますが、人を逮捕監禁する権限を有しない者も対象になります。
暴行とは暴行罪などと同じく身体に対する不法な有形力の行使をいいます。
陵辱とは辱める行為や精神的に苦痛を与える行為、加虐とは苦しめる行為や身体に対する直接の有形力の行使以外の肉体的な苦痛を加える行為などをいいます。わいせつ行為など、暴行以外の方法で精神的又は肉体的に苦痛を与える行為が該当します。
2項の「法令により拘禁された者」とは、逮捕や勾留されている者など、法令上の規定に基づいて公権力により拘禁されている者をいいます。このような者を「看取又は護送する者」が本罪の主体となります。
特別公務員職権濫用等致死傷
特別公務員職権濫用罪や特別公務員暴行陵虐罪を犯し、よって人を死傷させた場合は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断されます(刑法196条)。
傷害罪は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金(刑法204条)、傷害致死罪は3年以上の有期懲役(刑法205条)に処されます。
特別公務員職権濫用罪は6月以上10年以下と、短期については傷害罪より重いため、特別行員職権濫用致傷罪の場合は6月以上15年以下の刑が科されます。
その他の致傷罪は1月以上15年以下の懲役、致死罪は3年以上20年以下の懲役となります。
違法な職務をするとどうなるか
公務員が違法な職務を行った場合、その公務員自身は懲戒を受ける可能性があります。また、上記のような犯罪が成立すれば、その刑罰を科されることになります。
一方で、公務員の職務が違法であったからといって全て無効にしてしまうと、軽微な違法であっても無効となってしまい、公務が回らなくなってしまいます。また、裁判の証拠など、公務員の公務が違法であってもその性質には影響しないものもあります。以下、公務が無効になるかどうかが争われた事案について解説します。
公訴の提起の無効
いわゆるチッソ川本事件の上告審決定(最高裁第一小法廷決定昭和55年12月17日)においては、公害の原因企業と患者側で激しい対立が続き、患者が傷害を起こしたとして起訴されましたが、被告人は企業側の起こした違法行為について起訴されていないのに自分たちだけ起訴したのは検察官の公訴権の濫用であるなどと主張しました。これについて、一審は被告人を有罪にしましたが、被告人のみが控訴した控訴審では一審判決を破棄して公訴を棄却、つまり検察官の起訴は濫用で許されないとしました。これに対し検察官が上告した上告審において、最高裁は「検察官の裁量権の逸脱が公訴の提起を無効ならしめる場合のありうることを否定することはできないが、それはたとえば公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られる」とし、本件においては検察官の公訴の提起は無効ではないとしました(なお、公害自体は患者らと会社との和解によって紛争は解決しており被害者側もなお処罰を求める意思を有しているとは思われないこと、被告人自身が公害により父親を亡くし自らも健康を損なっていることなどを考慮し、控訴審判決を破棄して有罪の一審判決を復活させなければ著しく正義に反するとまではいえないとして、検察官の上告は棄却されました。)。
公訴の提起が濫用であるとしても、それだけで犯罪となるわけではなく、公訴の提起それ自体が犯罪となるような場合でない限り、無効とはならないとされています。
証拠排除
違法な身体拘束や捜索によって得られた証拠は、その違法の程度が甚だしい場合は、証拠から排除されます。
昭和53年9月7日最高裁第一小法廷決定決定の覚せい剤取締法(当時)違反等事件において、被告人は、警察官が職務質問中に承諾を得ないまま上衣ポケット内を捜索して差し押さえた覚醒剤は違法な手続きにより収集された証拠であり証拠能力はないと主張しました。一審と控訴審では被告人の主張が認められ、証拠能力がないと判断されました。最高裁は「証拠物は押収手続が違法であつても、物それ自体の性質・形状に変異をきたすことはなく、その存在・形状等に関する価値に変りのないことなど証拠物の証拠としての性格にかんがみると、その押収手続に違法があるとして直ちにその証拠能力を否定することは、事案の真相の究明に資するゆえんではなく、相当でないというべきである。しかし、他面において、事案の真相の究明も、個人の基本的人権の保障を全うしつつ、適正な手続のもとでされなければならないものであり、ことに憲法三五条が憲法三三条の場合及び令状による場合を除き、住居の不可侵、捜索及び押収を受けることのない権利を保障し、これを受けて刑訴法が捜索及び押収等につき厳格な規定を設けていること、また、憲法三一条が法の適正な手続を保障していること等にかんがみると、証拠物の押収等の手続に、憲法三五条及びこれを受けた刑訴法二一八条一項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである。」と判示しました。最高裁は、欧州手続きが違法だからといって直ちに証拠排除するべきではないが「令状主義の精神を没却するような重大な違法」があり、「将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる」場合は、証拠能力を否定するべきとしています。この事件では、職務質問に伴う所持品検査として許容される限度をわずかに超えて行われたに過ぎないこと等から、証拠能力は肯定されました。
まとめ
以上のように、公務員の公務が違法であるからといって直ちにその公務が無効となるわけではありませんが、犯罪となったり憲法の基本的価値観を損ねる重大な違法となるような場合は、無効等になる可能性がります。
公務員とアルコール
「酒は人間関係の潤滑剤」などとも言われていますが、一方で飲酒の影響による暴行や傷害、性犯罪、飲酒運転などの問題が起こり得ます。全体の奉仕者である公務員が酒がらみのトラブルを起こせばより強い非難に値するでしょう。ここでは、公務員とアルコールに関する問題について解説します。
アルコールハラスメント(アルハラ)
飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為、人権侵害はアルコール・ハラスメント(アルハラ)と言われています。
アルハラには以下の5つがあります。
①飲酒の強要
上下関係や部署の伝統などといった形で心理的な圧力をかけ、飲まざるを得ない状況に追い込むことです。
②イッキ飲ませ
場を盛り上げるために、イッキ飲みや早飲み競争などをさせることです。
③意図的な酔いつぶし
酔いつぶすことを意図して、飲み会を行うことです。
④飲めない人への配慮を欠くこと
本人の意向や体質を無視して飲酒をすすめたり、酒類以外の飲み物を用意しなかったり、飲めないことをからかったりすることです。
⑤酔ったうえでの迷惑行為
酔って他の人に絡んだり、悪ふざけをしたり、暴言や暴力、わいせつ行為などをすることです。
迷惑行為の内容によっては、パワー・ハラスメント(パワハラ)や、セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)、暴行や傷害などの犯罪といった、他の非違行為にも該当する可能性があります。
参考
厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト
アルハラ
酒と懲戒処分
酒に絡む問題は懲戒事由にもなります。
酩酊して、公共の場所や乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をした場合、減給又は戒告の懲戒処分を受けます(「懲戒処分の指針 第2 標準例 3 公務外非行関係(11)酩酊による粗野な言動等」)。
また、飲酒運転をした場合、厳しい懲戒処分が下されます。酒酔い運転をした職員は免職又は停職となり、この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせると、必ず免職となります。酒気帯び運転をした職員は、免職、停職又は減給となり、この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせると免職又は停職、さらに事故後の措置を怠る等の措置義務違反をしたのであれば、必ず免職となります。飲酒運転をした職員に対し、車両若しくは酒類を提供し、若しくは飲酒をすすめたり、職員の飲酒を知りながらその職員の運転する車両に同乗した場合も、飲酒運転をした職員に対する処分料亭やその飲酒運転への関与の程度等を考慮して、処分が決められます(「懲戒処分の指針 第2 標準例 4 飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係(1)飲酒運転」)。
その他にも、パワハラなどの非違行為に該当すれば、それに従って懲戒処分が下されます。
参考
人事院 懲戒処分の指針について
酒に関する犯罪
未成年者飲酒禁止法
「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」(未成年者飲酒禁止法)では20歳未満の者の飲酒を禁止しています(同法第1条第1項)。未成年者の親権者は未成年者の飲酒を知ったときはこれを制止しなければなりません(同条第2項)。これに違反すると、科料に処されます(同法第3条第2項)。科料とは、千円以上1万円未満の金銭を払う刑罰です(刑法17条)。
飲酒運転(酒気帯び運転、酒酔い運転)
道路交通法違反
酒に酔った状態で運転をすると、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます(道路交通法第117条の2第1項第1号・第65条第1項)。
酒に酔った状態で車両等を運転した者に車両等を提供した者(道路交通法第117条の2第1項第2号・第65条第2項)や、自動車の使用者であるのにもかかわらず運転者が酒に酔った状態で自動車を運転することを命じ又は容認した者(道路交通法第117条の2第2項第1号・第75条第1項第3号)も、同様の刑に処されます。
酒に酔った状態で車両等を運転した者に対し飲酒運転をするおそれがあるのに酒類を提供した者(道路交通法第117条の2の2第1項第5号・第65条第3項)や、車両の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、その運転者に対し、その車両を運転して自分を運ぶことを要求又は依頼して、飲酒運転する車両に同乗した者(道路交通法第117条の2の2第1項第6号・第65条第4項)は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。
酒に酔った状態まではいかずとも、身体に保有するアルコールの程度が、血液1mlにつき0.3mg又は呼気1ℓにつき0.15mg(道路交通法施行令第44条の3)の状態で車両等(自転車等の軽車両は除きます)を運転した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(道路交通法第117条の2の2第1項第3号・第65条第1項)。これに当該車両等を提供した者(道路交通法第117条の2の2第1項第4号・第65条第1項)や、自動車の使用者であるにもかかわらず、酒気帯びで自動車を運転することを命じ又は容認した者(道路交通法第117条の2の2第2項第2号・第75条第1項第3号)も、同様の刑に処されます。
酒気帯び状態で車両等を運転した者に対し飲酒運転をするおそれがあるのに酒類を提供した者(道路交通法第117条の3の2第2号・第65条第3項)や、車両の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、その運転者に対し、その車両を運転して自分を運ぶことを要求又は依頼して、飲酒運転する車両に同乗した者(道路交通法第117条の3の2第3号・第65条第4項)は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます。
自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪)
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法)は、飲酒運転により死傷事故が起きた場合、危険運転致死傷としてより重い罰則を定めています。また、このような重い処罰を免れようと、飲酒運転であることを隠ぺいしようとする行為にも、「逃げ得」にならないよう重い処罰を定めています。
危険運転致傷
アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって人を負傷させた者は15年以下の懲役に処され、人を死亡させた者は1年以上の結城町刑に処されます(自動車運転処罰法第2条第1号)。
また、アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は12年以下の懲役に処され、人を死亡させた者は15年以下の懲役に処されます(自動車運転処罰法第3条第1項)。
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪
アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることなど、アルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れるような行為をしたときは、12年以下の懲役に処されます(自動車運転処罰法第4条)。
人身事故において、運転手が飲酒運転をしていて「アルコールの影響によりその走行中に正常な運転に生じるおそれがある状態」であったことや、自動車の運転に過失があったことを立証できたとしても、事故後に新たに酒を飲んだり、現場から離れたりしたため、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態に陥ったことやそのことを認識しながら運転していたことが立証できなかった場合、危険運転致死傷罪では処罰できません。この場合、過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法第5条:7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金)や救護義務違反(道路交通法第72条第1項前段。人の死傷について処罰する場合は道路交通法第117条第2項:10年以下の懲役又は100万円以下の罰金、救護義務違反だけを問う場合は道路交通法第117条の5第1項第1号:1年以下の懲役又は10万円以下の罰金)や飲酒運転(酒酔い運転は道路交通法第117条の2第1項第1号:5年以下の懲役又は100万円以下の罰金。酒気帯び運転は道路交通法第117条の2の2第1項第3号:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)で処罰することになりますが、危険運転致死傷罪と比べても刑が軽く、「逃げ得」となってしまいます。これを防ぐために、飲酒運転をしたことと運転中に過失があった上で、アルコール又は薬物の影響の有無やその程度が発覚することを免れる目的で、さらに飲酒したり、現場を離れてアルコール濃度を減少させるなどルコール又は薬物の影響の有無やその程度が発覚することを免れるような行為をした場合は、危険運転致死傷罪に並ぶ重い刑罰を科すようにしました。
まとめ
このように、飲酒に関係して重い刑罰や懲戒処分が科される可能性あります。飲酒に関しては、自らを強く戒める必要があります。
公務員と違法薬物
文部科学省や経済産業省といった日本の官僚機構の中枢において、エリート官僚が大麻や覚醒剤といった違法薬物を所持し、省内に捜索が行われたニュースは社会に衝撃を与えました。また、近年では大麻取締法違反による検挙数が増加しており、警察官や自衛官からも逮捕者が出たり懲戒処分を受ける者も出ています。
ここでは、公務員と違法薬物について解説します。
違法薬物について
近年は覚醒剤取締法違反の検挙数は減少していますが、大麻取締法違反の検挙数は増加しています。
また、危険ドラッグと呼ばれる、大麻や覚醒剤などの違法薬物の成分を変えた薬物が問題になっており、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)の指定薬物に定めることなどにより対処しています。
違法薬物関係の懲戒処分
公務員に違法薬物の所持などの非違行為があれば、懲戒処分が行われます。
国家公務員の場合、懲戒処分は任命権者が行いますが、懲戒手続は人事院が行います(国家公務員法84条1項2項)。
地方公務員の場合は、条例に定められた機関が懲戒手続を行います(地方公務員法29条4項)。
人事院の指針によれば、国家公務員が大麻や覚醒剤などの違法薬物を所持していれば、「公務外非行関係」の「(10)麻薬等の所持等」に該当し、必ず免職処分となります。
地方公務員の場合も同様に重い懲戒処分が下されます。例えば、東京都だと、麻薬又は覚醒剤等を所持又は使用した職員は、免職としています。薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)や東京都の条例の指定する薬物、いわゆる危険ドラッグを所持又は使用した場合も免職又は停職としています。
参考
人事院「懲戒処分の指針について」
東京都知事部局「懲戒処分の指針」
刑事手続との関係
懲戒処分のような行政処分も、事実に基づいて行われます。逮捕や勾留され、本人も違法薬物の所持や使用を認めている場合は、捜査中であったり起訴され判決が出る前であっても懲戒処分が下されることがありますが、公務員が違法薬物を所持・使用等したとして捜査されている間は、本人が否認していたり途中で捜査手続きに問題があることが明らかになるようなこともあるため、基本的には刑事手続の終了を待って処分が下されるでしょう。
また、大麻等ではよく見られますが、所持していたことが証拠上明らかであってもその量が微量の場合は、不起訴となることがあります。このように刑事手続上は処罰されなかった場合でも懲戒手続が進められます。
公務員の場合、起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。裁判の結果、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職となります(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。
懲戒手続自体は、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨が国家公務員法に定められています(国家公務員法第85条)。
刑事手続
薬物事件の一般的な捜査の流れとしては、職務質問からの所持品検査で違法薬物が見つかったり、採尿検査をして違法薬物の成分が検出されることが多いです。その他、違法薬物の売買や栽培の情報を捜査機関が得て内偵を進め、令状を得て捜索差押が行われ、違法薬物を発見してそのまま所持として現行犯逮捕をすることが行われます。被疑者として警察官に逮捕された場合、48時間以内に検察官に送致され、それから24時間以内に勾留請求がされます。
勾留は延長された場合最長で20日間続き、その間に検察官が起訴するかどうかを決めます。
違法薬物を所持し使用するなど複数の行為をしていたり、複数の違法薬物を所持・使用していた場合、逮捕・勾留が繰りかえされることがあります。
起訴された後は保釈が可能です。違法薬物の所持や使用の初犯であれば、基本的には保釈は認められます。もっとも、公務員など社会的地位が高い者の場合、保釈金がより高額になる可能性があります。
違法薬物に関する刑罰
大麻をみだりに所持した場合、5年以下の懲役に処されます(大麻取締法第24条の2第1項)。営利目的の場合、7年以下の懲役又はこれに加えて200万円以下の罰金が科されます(第2項)。栽培や輸入・輸出をすると、7年以下の懲役に処されます(大麻取締法第24条第1項)。営利目的の場合、10年以下の懲役又はこれに加えて300万円以下の罰金が科されます(第2項)。
薬機法の指定薬物を所持したり使用した場合は3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれらの刑が併科されます(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第84条第28号・第76条の4)。
覚醒剤を所持や使用した場合は、10年以下の懲役に処されます(覚醒剤取締法第41条の2第1項、第41条の3第1項第1号・第19条)。営利目的でこれらの行為を行った場合、1年以上の懲役が科され、又はこれに加え500万円以下の罰金が科されます(覚醒剤取締法第41条の2第2項、第41条の3第2項)。覚醒剤を輸入・輸出や製造をすると、1年以上の懲役刑に処され(覚醒剤取締法第41条第1項)、営利目的で行った場合は無期若しくは3年以上の懲役に処され、又はこれに加えて1000万円以下の罰金に処されます(覚醒剤取締法第41条第2項)。
ジアセチルモルヒネ(ヘロイン)等の麻薬についても覚醒剤と同様処罰有れます。これらの麻薬を輸入・輸出や製造をすると、1年以上の懲役刑に処され(麻薬及び向精神薬取締法第64条第1項)、営利目的で行った場合は無期若しくは3年以上の懲役に処され、又はこれに加えて1000万円以下の罰金に処されます(麻薬及び向精神薬取締法第64条第2項)。これらの麻薬をみだりに製剤や所持、使用(施用)した場合は、10年以下の懲役に処されます(麻薬及び向精神薬取締法第64条の2第1項、第64条の3第1項)。営利目的でこれらの行為を行った場合、1年以上の懲役が科され、又はこれに加え500万円以下の罰金が科されます(麻薬及び向精神薬取締法第64条の3第2項)。輸入・輸出や製造をすると、1年以上の懲役刑に処され(麻薬及び向精神薬取締法第64条第1項)、営利目的で行った場合は無期若しくは3年以上の懲役に処され、又はこれらに加えて1000万円以下の罰金に処されます(覚醒剤取締法第64条第2項)。
裁判では初犯の場合、大麻や指定薬物に関する違反の場合は6月から1年の懲役・2年から3年の執行猶予、覚醒剤やヘロイン等の麻薬に関する違反の場合は懲役1年6月程度・執行猶予3年程度となることが多いです。
また、薬物使用等の罪の一部については、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」により、刑の一部執行猶予(刑法第27条の2)の特則が定められており、前に刑の全部の執行を猶予されたことなどの条件(刑法第27条の2第1項各号)を満たしていなくても、「刑事施設における処遇に引き続き社会内において・・・規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが」再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ相当と認められるときは、刑の一部の執行を猶予することができます。具体的には、初めは刑務所で服役し、刑期の終盤に執行猶予として社会に出て、保護観察を受けながら社会復帰を目指すことになります。
まとめ
このように、公務員が違法薬物を所持したり使用したりすると、大変重い懲戒処分や刑罰を受けることになります。
公務員と交通違反
近年では地方議会の議員が無免許運転をしていたことが発覚して大きな非難を浴びるなど、公務員による交通法規の違反がしばしば問題となっています。
公務員が交通違反をした場合、その内容によっては刑事事件として捜査・裁判の対象となり、また所属する官庁から重い懲戒処分を下される可能性があります。
ここでは、公務員と交通違反について解説します。
公務員と交通法規違反
交通法規は誰もが守るべきものですが、公務員の場合、「全体の奉仕者」として法令を遵守しなければならない立場であるため、その交通法規違反はより強い非難に値するでしょう。公務員の懲戒処分の根拠となる「非違行為」の典型例としても交通法規違反があげられています。
交通違反と報道
交通事故や交通法規違反があったとしても、これが報道されるかどうかは、違反者の属性や事件の重大性などを考慮して報道機関が判断します。交通違反者が公務員だからといって、当然に報道されるわけではありません。もっとも、公務員は「全体の奉仕者」としてみられているのですから、交通違反が発覚した場合は強い非難を受けることになります。
重い懲戒処分
交通法規違反が重大な場合、免許停止などの行政処分を受けますが、公務員の場合、これとは別に所属する官庁より懲戒処分を受ける可能性があります。
公務員の交通法規違反は、人事院の定める「懲戒処分の指針」の標準例にも掲げられている、典型的な非違行為であり、懲戒処分を受ける可能性は高いといえます。特に飲酒運転(道路交通法65条1項)と交通事故後の措置義務違反(道路交通法72条1項前段)に対しては、重い処分が下されます。飲酒運転は自己のみならず一般市民の生命・身体・財産に重大な危険を招きかねない運転ですので、国民・市民の模範たるべき公務員としては強く非難される行動です。また、措置義務違反は、交通事故を起こしても救護等をせずにその場を立ち去る行為であり、全体の奉仕者たる公務員の立場に反する行為といえます。
人事院の「懲戒処分の指針」によれば、酒酔い運転はそれだけで免職又は停職という重い処分ですし、これにより人を死傷させた場合、必ず免職処分が下されます。酒気帯び運転をした職員は、免職、停職又は減給とされ、免職の可能性もあります。人を死傷させた場合は、免職又は停職とされます。事故後の救護を怠るなどの措置義務違反もした場合は、必ず免職となります。また、飲酒運転をした公務員に対し、運転した車両を提供したり、酒類を提供したり、飲酒を勧めたり、飲酒したことを知りながら同乗した公務員も、飲酒運転をした本人に対する処分や飲酒運転への関与の程度等を考慮して、懲戒処分が下されます。
飲酒運転以外の交通法規違反であっても、人身事故や著しい速度超過等の悪質な交通法規違反に対しては、懲戒処分が下されます。措置義務違反をしていた場合、さらに重い処分が下されます。
懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)
第2 標準例
4 飲酒運転・交通事故・交通法規違反関係
(1) 飲酒運転
ア 酒酔い運転をした職員は、免職又は停職とする。この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせた職員は、免職とする。
イ 酒気帯び運転をした職員は、免職、停職又は減給とする。この場合において人を死亡させ、又は人に傷害を負わせた職員は、免職又は停職(事故後の救護を怠る等の措置義務違反をした職員は、免職)とする。
ウ 飲酒運転をした職員に対し、車両若しくは酒類を提供し、若しくは飲酒をすすめた職員又は職員の飲酒を知りながら当該職員が運転する車両に同乗した職員は、飲酒運転をした職員に対する処分量定、当該飲酒運転への関与の程度等を考慮して、免職、停職、減給又は戒告とする。
(2) 飲酒運転以外での交通事故(人身事故を伴うもの)
ア 人を死亡させ、又は重篤な傷害を負わせた職員は、免職、停職又は減給とする。この場合において措置義務違反をした職員は、免職又は停職とする。
イ 人に傷害を負わせた職員は、減給又は戒告とする。この場合において措置義務違反をした職員は、停職又は減給とする。
(3) 飲酒運転以外の交通法規違反
著しい速度超過等の悪質な交通法規違反をした職員は、停職、減給又は戒告とする。この場合において物の損壊に係る交通事故を起こして措置義務違反をした職員は、停職又は減給とする。
(注) 処分を行うに際しては、過失の程度や事故後の対応等も情状として考慮の上判断するものとする。
参考
人事院 懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)
なお、本稿では議員の交通違反をあげていますが、これらの国会議員、地方議会議員には国家公務員法や地方公務員法の適用はなく、また議員は独立した存在であり、これに対する懲戒は各議会の権限ですので、一般の国家公務員や地方公務員のような懲戒処分は受けません。それぞれの議会において辞職勧告決議などにより議員自らの身を処することを求められます。議会としての処分は、公務員のような一般的な指針ではなくそれぞれの議会で判断されます。国会議員、地方議会議員とも、議員の身分は強く保障されており、除名処分といった議員の地位を剥奪するような重い処分は、他の議員の多数の同意が必要となります。国会議員の場合は出席議員の3分の2以上の多数による同意が必要になります(国会法122条4号・憲法58条2項)。地方議会議員の場合は、議会の議員の3分の2以上の者が出席し、その4分の3以上の者の同意が必要となります(地方自治法135条1項4号・3項。)。死亡事故や飲酒運転など重大な交通法規違反について刑事裁判で有罪判決が下されるような状況でない限り行われないでしょう。
刑事手続との関係
交通違反が刑事事件として捜査されている間でも、就業は可能です。事件発生後の捜査中も仕事を続けることができます。刑事事件として捜査されるような交通法規違反でも、多くの場合は、刑事事件については略式手続により罰金のみで終了することもあります。
しかしながら、公判請求された場合、公務員だと強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。
そして、裁判の結果、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。
国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国家公務員法第85条)。そのため、重大な事件では判決が出る前に懲戒手続がすすめられ、懲戒処分が下されることがあります。
議員の場合は、公職選挙法では禁錮以上の刑に処された者は選挙権・被選挙権を喪失する(公職選挙法11条1項2号)と定められており、被選挙権を失った場合職を失います(国会法109条、地方自治法127条1項)ので、議会から除名されなかったとしても禁錮以上の刑に処された場合は議員の地位を失うことになります。。
参照
国家公務員法
(刑事裁判との関係)
第八十五条 懲戒に付せらるべき事件が、刑事裁判所に係属する間においても、人事院又は人事院の承認を経て任命権者は、同一事件について、適宜に、懲戒手続を進めることができる。この法律による懲戒処分は、当該職員が、同一又は関連の事件に関し、重ねて刑事上の訴追を受けることを妨げない。
まとめ
このように、公務員が交通法規違反をすると懲戒処分を受ける可能性があります。とくに、飲酒運転や救護等の措置義務違反があったときには、職を失う可能性が高まります。
公務員と秘密保持
公務員は国や地方公共団体の国民・住民の個人情報を扱ったり、重要な政策上の情報を扱っています。こうした情報が洩れれば、国民・市民のプライバシーを害する事態になりかねません。また、入札など利害関係企業に不正に利用される虞もあります。さらには、外交や安全保障において重大な損害を加えかねない可能性があります。このような事態を防ぐため、公務員はその秘密の保持について厳格に規制されています。
ここでは、公務員の秘密保持について説明します。
公務員の守秘義務
国家公務員は、国家公務員法100条1項において、「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」と定められています。
地方公務員についても、地方公務員法で同様に定められています(地方公務員法34条1項)。
これらの規定に違反して秘密を洩らしたときは、いずれも1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます(国家公務員法109条12号、地方公務員法60条2号)。
特定秘密保護法
「特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)」では、防衛や外交など重要な事項について、「当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」を特定秘密として指定するものとしています(特定秘密保護法3条1項)。
別表には以下の事項があげられています。
別表(第三条、第五条―第九条関係)
一 防衛に関する事項
イ 自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究
ロ 防衛に関し収集した電波情報、画像情報その他の重要な情報
ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
ニ 防衛力の整備に関する見積り若しくは計画又は研究
ホ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物の種類又は数量
ヘ 防衛の用に供する通信網の構成又は通信の方法
ト 防衛の用に供する暗号
チ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの仕様、性能又は使用方法
リ 武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物又はこれらの物の研究開発段階のものの製作、検査、修理又は試験の方法
ヌ 防衛の用に供する施設の設計、性能又は内部の用途(ヘに掲げるものを除く。)
二 外交に関する事項
イ 外国の政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は内容のうち、国民の生命及び身体の保護、領域の保全その他の安全保障に関する重要なもの
ロ 安全保障のために我が国が実施する貨物の輸出若しくは輸入の禁止その他の措置又はその方針(第一号イ若しくはニ、第三号イ又は第四号イに掲げるものを除く。)
ハ 安全保障に関し収集した国民の生命及び身体の保護、領域の保全若しくは国際社会の平和と安全に関する重要な情報又は条約その他の国際約束に基づき保護することが必要な情報(第一号ロ、第三号ロ又は第四号ロに掲げるものを除く。)
ニ ハに掲げる情報の収集整理又はその能力
ホ 外務省本省と在外公館との間の通信その他の外交の用に供する暗号
三 特定有害活動の防止に関する事項
イ 特定有害活動による被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「特定有害活動の防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
ロ 特定有害活動の防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報
ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
ニ 特定有害活動の防止の用に供する暗号
四 テロリズムの防止に関する事項
イ テロリズムによる被害の発生若しくは拡大の防止(以下この号において「テロリズムの防止」という。)のための措置又はこれに関する計画若しくは研究
ロ テロリズムの防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報
ハ ロに掲げる情報の収集整理又はその能力
ニ テロリズムの防止の用に供する暗号
特定秘密の取り扱いの業務に従事する者がその業務により知得した特定秘密を洩らしたときは、10年以下の懲役に処され、情状によりさらに1000万円以下の罰金に処されます。特定秘密の取り扱いの業務に従事しなくなった後に漏らした場合も同様です(特定秘密保護法23条1項)。
また、行政機関の長が内閣に提示したり(同法4条5項)、外国の政府や国際機関に提供したり(9条)、国会両議院や裁判所など公益上必要の認められる相手に提供したり(10条)、内閣総理大臣が特定秘密の指定及び解除並びに適正評価の実施のため特定秘密である情報を含む資料の提出を求めること(18条4項後段)により、特定秘密が第三者に提供されることがあります。これらの提供の目的である業務により当該特定秘密を知得したものがその特定秘密を洩らしたときは、5年以下の懲役に処され、又は情状によりさらに500万円以下の罰金に処されます(同法23条2項)。
これらの罪は未遂も処罰します(同法23条3項)。また、過失により漏らした場合も処罰されます(23条1項の罪については2年以下の禁錮又は50万円以下の罰金。23条2項の罪ついては1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金)。
秘密にあたるか
以上のように、公務員が職務上取り扱う秘密を洩らした場合は重い処罰が下されます。しかし、そもそもその情報が「秘密」でなければなりません。
昭和52年12月19日最高裁第二小法廷決定(徴税トラの巻事件)において、最高裁判所は「国家公務員法一〇〇条一項の文言及び趣旨を考慮すると、同条項にいう「秘密」であるためには、国家機関が単にある事項につき形式的に秘扱の指定をしただけでは足りず、右「秘密」とは、非公知の事項であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに価すると認められるものをいうと解すべき」としました。この事件では「営業庶業等所得標準率表」及び「所得業種目別効率表」を漏らしたことが問題となりましたが、「いずれも本件当時いまだ一般に了知されてはおらず、これを公表すると、青色申告を中心とする申告納税制度の健全な発展を阻害し、脱税を誘発するおそれがあるなど税務行政上弊害が生ずるので一般から秘匿されるべきものであるというのであつて、これらが同条項にいわゆる「秘密」にあたる」と判断しました。
昭和53年5月31日最高裁第一小法廷決定(外務省秘密漏洩事件)では、いわゆる沖縄返還協定に関する会談の概要が記載された電信文案を、記者が外務省の職員に提供させたことが、秘密漏洩(国家公務員法109条12号・100条1項)をそそのかした罪(同法111条)に当たるかどうかが問題となりました。この事件で、最高裁は「その内容は非公知の事実であるというのである。そして、条約や協定の締結を目的とする外交交渉の過程で行われる会談の具体的内容については、当事国が公開しないという国際的外交慣行が存在するのであり、これが漏示されると相手国ばかりでなく第三国の不信を招き、当該外交交渉のみならず、将来における外交交渉の効果的遂行が阻害される危険性があるものというべきであるから、本件第一〇三四号電信文案の内容は、実質的にも秘密として保護するに値するものと認められる。右電信文案中に含まれている原判示対米請求権問題の財源については、日米双方の交渉担当者において、円滑な交渉妥結をはかるため、それぞれの対内関係の考慮上秘匿することを必要としたもののようであるが、わが国においては早晩国会における政府の政治責任として討議批判されるべきであつたもので、政府が右のいわゆる密約によつて憲法秩序に抵触するとまでいえるような行動をしたものではないのであつて、違法秘密といわれるべきものではなく、この点も外交交渉の一部をなすものとして実質的に秘密として保護するに値するものである。したがつて右電信文案に違法秘密に属する事項が含まれていると主張する所論はその前提を欠き、右電信文案国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密にあたる」としました。
以上の判例のように、秘密保持の対象となる情報は、実質的に秘密として保護に値するものであることが必要です。
懲戒処分
秘密漏洩に対しては厳しい懲戒処分が下されます。
人事院の「懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)」によると、「1 一般服務関係 イ 情報セキュリティ対策のけ怠による秘密漏えい」については、停職・減給・戒告処分の対象となります。「ア 故意の秘密漏えい」は免職又は停職となり、特に「自己の不正な利益を図る目的」の場合は、必ず免職となります。
参照
懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)
秘密保持の例外
公務員が職務上知った情報が「秘密」に該当するとしても、これを一切口外できないとなると、不当・違法な行為が行われているにもかかわらず秘密にされてしまい、かえって国民・住民の利益を損ねてしまいかねません。
そもそも、「秘密」とは上記の「徴税トラの巻事件」や「外務省秘密漏洩事件」の判示のように実質的にもそれを秘密として保護するに値するものである必要があります。犯罪に該当したり憲法秩序を脅かすような重大な違反については、秘密情報として保護に値しないといえるでしょう。また、公務員は、職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならないと定められています(刑事訴訟法239条2項)。
したがって、公務員がその職務に関する情報を第三者に開示できる場合があります。
参照
行政機関向けQ&A(内部の職員等からの通報)
まとめ
以上のように、公務員には厳格な秘密保持の義務があり、違反すれば厳罰に処されます。
一方で、犯罪に該当するような重大な違法に関わる情報であれば、然るべき第三者に提供することが要請されます。
公務員とハラスメント
パワハラやセクハラへの対処はあらゆる組織・企業で喫緊の課題となっています。公務員は国民・市民の模範となる立場であり、ハラスメント対策は一層重要となっています。近年は自衛隊内でのセクハラなど、公務員組織内でも大きな問題となっています。ハラスメントもその内容によっては、犯罪となりえます。
ここでは、公務員とハラスメントについて説明します。
パワハラ
パワーハラスメント(パワハラ)とは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業関係が害されるものであり、①~③までの要素のすべてを満たすものをいいます。客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しません。
仕事でミスをした部下を指導する場合であっても、殊更に他の職員のいる前でさらしものにしたり、人格を否定するような罵倒をすれば、パワハラに該当する可能性があります。
パワハラに含まれる行為であっても、その態様や状況によって様々なものがあり、不適切な行為から、民事責任を負う行為、さらには刑事責任を負う行為もあります。相手に暴行したり怪我を負わせた場合、暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)に問われる可能性があります。殴るなどの有形力の行使によって怪我をさせただけでなく、強いストレスを与えて相手を精神疾患に罹患させた場合も、傷害罪になりえます。
個室に数名しかいない状況で叱責するようなものではなく、大勢の人がいる場所で侮辱したり人格を否定するような罵倒をすれば、侮辱罪(刑法231条)や名誉毀損罪(230条)が成立する可能性があります。
セクハラ
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されることをいいます。異性間に限らず同性間でもセクハラになりえます。性的な言葉を投げかけたり、執拗に食事に誘ってきたり、相手の胸や尻などセンシティブな部位に触る等の行為が該当します。
セクハラもパワハラと同様に、態様や状況によっては犯罪になり得ます。セクハラの中でも悪質なものは、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪に該当する行為でしょう。
令和5年7月13日より改正刑法が施行され、強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪(刑法176条)に、強制性交等罪は不同意性交等罪(刑法177条)に改められました。この改正により、暴行・脅迫による場合だけでなく、不同意を示せないような状況を強いられてわいせつ行為や性交等をされた被害者も保護できるようになりました。
不同意わいせつ罪、不同意性交等罪は、次に掲げる行為や事由により、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、」わいせつな行為や性交等をした場合に成立します。
①暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
②心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
③アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
④睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
⑤同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
⑦虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
セクハラの場合、特に⑧の「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。」がよく見られます。例えば、自分の要求に従わなければ昇進等で不利益が及ぶことを示唆して性交等に及ぶ場合です。その他、③の「アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること」としては、お酒を飲んで昏睡にまでは至らずとも酩酊状態で同意しない意思を表明することが困難な状況に乗じて性交等をする場合が考えられます。⑥の「予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること」としては、事前に告げていたところとは違う場所に連れていって性交する場合などが考えられます。
不同意性交等罪は5年以上の懲役、不同意わいせつ罪は6月以上10年以下の懲役に処されます。
刑事事件化した場合
公務員の場合は、刑事事件として起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。
そして、裁判の結果、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。
懲戒処分
公務員がその職務に関してハラスメントをすると、非違行為をしたとして、重い懲戒処分を受けることになります。
国家公務員の服務の基本的な事項が載せられています。「義務違反防止ハンドブック」には、懲戒処分の指針についての記載も載せられています。
この指針によると、「1 一般服務関係」において、「(14)セクシュアル・ハラスメント」の「ア 強制わいせつ、上司等の影響力利用による性的関係・わいせつな行為」は免職または停職という重い懲戒処分が定められています。また、「ウ 意に反することを認識の上でのわいせつな言辞等の性的な言動」は減給又は戒告になりますが、「イ 意に反することを認識の上でのわいせつな言辞等の性的な言動の繰り返し」は停職又は減給という比較的重い処分ですし、その中でも「執拗な繰り返しにより強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患させたもの」は免職または停職という重い懲戒処分となります。
また、「(15)パワー・ハラスメント」の「ア 著しい精神的又は身体的な苦痛を与えたもの」は停職・減給・戒告の対象となりますが、「イ 指導、注意等を受けたにもかかわらず、繰り返したもの」は戒告では済まされず、停職又は減給とより重くなります。「ウ 強度の心的ストレスの重責による精神疾患に罹患させたもの」は免職・停職・減給の対象となり、もっとも重い懲戒免職もありえます。
なお、国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国家公務員法第85条)が、起訴される前に懲戒処分を下されることもあります。
参考
人事院ハラスメント防止リーフレット
ハラスメントを起こしてしまったら
ハラスメントが発覚すれば、調査を受けることになり、内容によっては懲戒処分を受けることになります。
被害者に対しては真摯に謝罪し償いをするべきでしょう。不法行為とみなされるほどの態様であれば被害者に損害賠償請求権が発生するため、当事者同士で話し合って謝罪し弁償をして解決する示談(和解)はより重要となります。刑事事件となった場合でも、被害者と示談が成立すれば、起訴猶予となる可能性が高まります。
示談については、加害者本人が被害者と交渉しても被害者の精神的負担が大きく交渉を拒絶されることも多いため、円滑な交渉のために弁護士に依頼するのが良いでしょう。その他にも、人事院の調査や警察・検察の捜査などに適切に対応するためにも、弁護士の援助が重要になります。
まとめ
このように、公務員のハラスメントは重い懲戒処分となる可能性が高く、刑罰を科される可能性があり、適切な対応が必要となります。このような事態になったときは、なるべく早く、公務員のハラスメント事件に精通した弁護士に相談するのが良いでしょう。
公務員と性犯罪
性犯罪は被害者の性的自由や尊厳を著しく害するものとして強い非難に値します。国民の利益のために働く公務員が行った場合、より一層非難されます。しかしながら、一部の公務員についてはその権限や職務の性質上、性犯罪が行いやすくまた隠蔽されやすいところがあります。
性犯罪関係の懲戒処分
公務員がその職務に関してセクシュアル・ハラスメントをしたり、公務外で性犯罪をすると、非違行為をしたとして、重い懲戒処分を受けることになります。
国家公務員の服務の基本的な事項が載せられています。「義務違反防止ハンドブック」には、懲戒処分の指針についての記載も載せられています。
この指針によると、「1 一般服務関係」において、「(14)セクシュアル・ハラスメント」の「ア 強制わいせつ、上司等の影響力利用による性的関係・わいせつな行為」は免職または停職という重い懲戒処分が定められています。また、「ウ 意に反することを認識の上でのわいせつな言辞等の性的な言動」は減給又は戒告になりますが、「イ 意に反することを認識の上でのわいせつな言辞等の性的な言動の繰り返し」は停職又は減給という比較的重い処分ですし、その中でも「執拗な繰り返しにより強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患させたもの」は免職または停職という重い懲戒処分となります。
「3 公務外非行関係」においても、「(12)淫行」は免職または停職、「(13)痴漢行為」「(14)盗撮行為」は停職又は減給という比較的重い処分となっています。
公務員に関する性犯罪
特別行員暴行陵虐・同致死傷
公務員の中でも人の身体を拘束する権限を持つ者がその権限を利用して性暴力などを行えば、その公務の信用性を著しく害するため、このような行為を規制するため特別な規定が定められています。
特別公務員暴行陵虐
裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、特別公務員暴行陵虐罪が成立し、7年以下の懲役又は禁錮に処されます(刑法195条1項)。法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、同様に処罰されます(刑法195条2項)。
1項の罪の主体も、特別公務員職権濫用罪と同じく、裁判官、検察官、検察事務官、警察官、裁判所書記官などが該当しますが、人を逮捕監禁する権限を有しない者も対象になります。2項の「法令により拘禁された者」とは、逮捕や勾留されている者など、法令上の規定に基づいて公権力により拘禁されている者をいいます。このような者を「看取又は護送する者」が本罪の主体となります。
「暴行」とは暴行罪などと同じく身体に対する不法な有形力の行使をいいます。「陵辱」や「加虐」は他の犯罪ではあまり見かけない表現ですが、「陵辱」とは辱める行為や精神的に苦痛を与える行為、「加虐」とは苦しめる行為や身体に対する直接の有形力の行使以外の肉体的な苦痛を加える行為などをいいます。つまり、暴行以外の方法で精神的又は肉体的に苦痛を与える行為です。その典型的なものがわいせつ行為です。
特別公務員職権濫用等致死傷
特別公務員職権濫用罪や特別公務員暴行陵虐罪を犯し、よって人を死傷させた場合は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断されます(刑法196条)。
傷害罪は15年以下の懲役又は50万円以下の罰金(刑法204条)、傷害致死罪は3年以上の有期懲役(刑法205条)に処されます。
特別公務員暴行陵虐罪より傷害罪のほうが長期・短期とも重いので、致傷罪は1月以上15年以下の懲役、致死罪は3年以上20年以下の懲役となります。
不同意わいせつ・不同意性交等
令和5年7月13日より改正刑法が施行され、強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪(刑法176条)に、強制性交等罪は不同意性交等罪(刑法177条)に改められました。この改正により、暴行・脅迫による場合だけでなく、不同意を示せないような状況を強いられてわいせつ行為や性交等をされた被害者も保護できるようになりました。
不同意わいせつ、不同意性交等は、次に掲げる行為や事由により、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、」わいせつな行為や性交等をした場合に成立します。
①暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
②心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
③アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
④睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
⑤同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
⑦虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
公務員に限らず職場内の人間間での事件の場合、特に⑧の「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。」がよく見られます。例えば、自分の要求に従わなければ昇進等で不利益が及ぶことを示唆して性交等に及ぶ場合です。
さらに公務員の場合、市民に法的サービスを提供したり許認可権限を持つ立場ですので、職場内だけでなく、対外的にも、⑧の事由が問題となります。許認可権限を持つ場合はもちろん、実際には根拠法令がなかったり自身に権限がないにもかかわらず、自分の言う通りにしないと不利益処分を科すと示唆して、性交等に至れば不同意性交等罪に当たるでしょう。
不同意性交等罪は5年以上の懲役、不同意わいせつ罪は6月以上10年以下の懲役となります。
公務員の性犯罪に対する手続き
上記のように、セクシュアルハラスメントや性犯罪に対しては重い懲戒処分が下されます。
公務員の場合、起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。
裁判の結果、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)が、国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国家公務員法第85条)。そのため、起訴されたり判決が出る前に懲戒手続がすすめられ、懲戒処分が下されることがあります。
性犯罪の報道・公表
近年は自衛官や警察官、国公立学校の教師などの公務員の性犯罪をニュースで目にするようになっています。特に国民・市民を守るべき立場にある公務員の性犯罪は強く非難され、報道する必要性も高くなっています。
実名、住所、所属する組織、役職など、どこまで公表するかは報道機関が判断します。性犯罪の場合、加害者に関する情報により被害者が特定される可能性があるため、都道府県市町村名や所属する組織までにとどめて実名は報道しないことが見受けられます。
性犯罪に限りませんが、懲戒処分がなされた場合、所属官庁が公表することがあります。公表の指針も示されています。
「1 公表対象
次のいずれかに該当する懲戒処分は、公表するものとする。
(1)職務遂行上の行為又はこれに関連する行為に係る懲戒処分
(2)職務に関連しない行為に係る懲戒処分のうち、免職又は停職である懲戒処分
2 公表内容
事案の概要、処分量定及び処分年月日並びに所属、役職段階等の被処分者の属性に関する情報を、個人が識別されない内容のものとすることを基本として公表するものとする。
3 公表の例外
被害者又はその関係者のプライバシー等の権利利益を侵害するおそれがある場合等1及び2によることが適当でないと認められる場合は、1及び2にかかわらず、公表内容の一部又は全部を公表しないことも差し支えないものとする。
4 公表時期
懲戒処分を行った後、速やかに公表するものとする。ただし、軽微な事案については、一定期間ごとに一括して公表することも差し支えないものとする。
5 公表方法 記者クラブ等への資料の提供その他適宜の方法によるものとする。」
まとめ
このように、公務員の性犯罪は重い処分が下されるため、注意が必要です。
公務員の懲戒処分
刑罰が定められている法令に違反すると、法令に定められた刑罰を科されます。一方で、公務員については、さらに所属官庁から懲戒処分を下される可能性があります。ここでは、公務員の懲戒処分について解説します。
懲戒処分の根拠
公務員の懲戒について、国家公務員は国家公務員法82条以下に、地方公務員は地方公務員法27条以下に定めています。
国家公務員法・地方公務員法とも、懲戒事由について定めています。
国家公務員法
第二款 懲戒
(懲戒の場合)
第八十二条 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
地方公務委員法
(懲戒)
第二十九条 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれらに基づく条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
犯罪を犯した場合は、「(国民)全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」に該当するでしょう(国家公務員法82条1項3号、地方公務員法29条1項3号)。
なお、国家公務員については、特別職国家公務員となるために退職出向し、再び国家公務員として採用された場合、退職出向前の非違行為に対し懲戒処分をすることが可能となっています(国家公務員法82条2項)。地方公務員も同様に、特別職地方公務員となるために退職出向し、再び地方公務員として採用された場合、退職出向前の非違行為に対し懲戒処分をすることが可能となっています(地方公務員法29条2項)。また、地方公務員が定年前再任用短時間勤務職員として採用された場合、退職前及び採用中の非違行為に対し懲戒処分をすることが可能になっています(地方公務員法29条3項)。
懲戒手続
国家公務員の場合、懲戒処分は任命権者が行いますが、懲戒手続は人事院が行います(国家公務員法84条1項2項)。
地方公務員の場合は、条例に定められた機関が懲戒手続を行います(地方公務員法29条4項)。
国家公務員法
(懲戒権者)
第八十四条 懲戒処分は、任命権者が、これを行う。
② 人事院は、この法律に規定された調査を経て職員を懲戒手続に付することができる。
(国家公務員倫理審査会への権限の委任)
第八十四条の二 人事院は、前条第二項の規定による権限(国家公務員倫理法又はこれに基づく命令(同法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反する行為に関して行われるものに限る。)を国家公務員倫理審査会に委任する。
懲戒手続
刑事手続との関係
公務員の場合、起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。
そして、裁判の結果、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。
国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国家公務員法第85条)。そのため、重大な事件では判決が出る前に懲戒手続がすすめられ、懲戒処分が下されることがあります。
国家公務員法
(刑事裁判との関係)
第八十五条 懲戒に付せらるべき事件が、刑事裁判所に係属する間においても、人事院又は人事院の承認を経て任命権者は、同一事件について、適宜に、懲戒手続を進めることができる。この法律による懲戒処分は、当該職員が、同一又は関連の事件に関し、重ねて刑事上の訴追を受けることを妨げない。
懲戒処分の効果
懲戒処分の種類
懲戒処分には、戒告、減給、停職、免職があります(地方公務員法第29条第1項、国家公務員法第82条第1項)。
免職
公務員の身分を失わせる処分です。
停職
国家公務員の場合、停職の期間は1年以内です(国家公務員法83条1項)。停職中は引き続き職員としての身分を有しますが、職務には従事せず、基本的に給与は受け取れません(国家公務員法83条2項)。
減給
国家公務員の場合、1年以下の期間で、俸給の月額の5分の1以下に相当する額を給与から減らします。
戒告
戒告は、その責任を確認し、将来を戒める処分です。
国家公務員法
(懲戒の効果)
第八十三条 停職の期間は、一年をこえない範囲内において、人事院規則でこれを定める。
② 停職者は、職員としての身分を保有するが、その職務に従事しない。停職者は、第九十二条の規定による場合の外、停職の期間中給与を受けることができない。
非違行為が重いほど、処分は重くなります。特に、公務中や公金・官物の取り扱いに関係する非違行為はより重い処分を下されます。例えば、国家公務員の場合、公金や官物を横領した場合は、免職とするとされています。
人事院は、「懲戒処分の指針について」にて懲戒処分の指針を公表しています。
地方公務員の懲戒の手続や効果は、条例で定めます(地方公務員法29条4項)。
地方公共団体においても、懲戒処分の指針を定めています。
参考:東京都知事部局職員の懲戒処分についての「懲戒処分の指針」
懲戒処分以外の指導
公務員が不祥事を起こしたときに、「訓告」や「厳重注意」を受けたと言われることがあります。これらは、上級監督者から部下職員に対する指導、監督上の措置として行われるもので、懲戒処分ではありません。
退職金について
犯罪を起こした公務員について懲戒処分とともに公務員に関して「依願退職」という言葉を聞くことがあります。一般企業でいうところの「自主退職」、「自己都合退職」であり、自己の意思で退職したものです。
上記のとおり、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。
また、公金官物の取り扱いに関して犯罪を行うと免職となることが多いですし、重大な犯罪を行うと免職処分を下される可能性が高いです。
禁錮以上の刑に処されるなどして失職した場合や、懲戒免職処分を受けた場合、退職手当の全部または一部が支給されないことがあります(国家公務員退職手当法12条)。在職中に起こした事件について起訴され禁錮以上の刑に処されたことが発覚等した場合、退職手当の支払いの差し止めや支給制限、さらに返納を義務付けられることがあります(国家公務員退職手当法13~15条)。
そのため、懲戒手続がなされる前に退職したとしても、在職中に起こした事件について禁錮以上の刑に処せられると、結局退職金を全額受け取れないことになります。
参考
人事院 服務・懲戒制度
国家公務員の服務の基本的な事項が載せられています。「義務違反防止ハンドブック」には、懲戒関係についての記載も載せられています。
まとめ
以上のように、公務員が犯罪を犯すと刑罰だけでなく懲戒処分を科されます。重大な違法行為をしたのであれば、自主退職しても退所金が支給されない可能性があります。
公務員の犯罪
公務員は全体の奉仕者として、公共の利益のために職務を行うものであり、高い倫理観が求められ、一般市民の模範となることを期待されています。そのため、このような公務員が犯罪をしたという疑いが生じれば、社会の期待を裏切ったものとして、世間から非常に厳しい目を向けられます。
この記事では、公務員が犯罪を起こしてしまった、あるいはその疑いをかけられた場合の流れについて解説します。
公務員が犯罪の嫌疑をかけられた場合
公務員に犯罪の嫌疑をかけられた場合、以下のような問題が考えられます。
報道される
犯罪の嫌疑をかけられ被疑者(容疑者)として捜査の対象となった場合、被疑者は実名で報道されることがあります。特に被疑者が逮捕された場合は、実名報道される可能性がさらに高まります。実際に実名報道されるかどうかは、事件の重大性や社会的な関心の程度、報道されることによる被疑者の名誉やプライバシーへの影響等を考慮して判断されます。その判断は、報道機関に情報提供をする警察や検察、警察や検察から情報の提供を受けた各報道機関それぞれが行います。
最初に述べたとおり、公務員には高い倫理観が求められ、一般市民の模範となることを期待されています。公務員が犯罪の嫌疑をかけられていることは、この期待が揺るがされているといえます。そのため、公務員の犯罪は一般市民にとって重大な関心事であり、その情報の公開には高い公益性が認められるため、一般の人々よりも実名が報道される可能性が高いといえます。
また、嫌疑をかけられている犯罪の種類や規模、内容にもよりますが、公務員による犯罪は捜査の進展が逐次報道される可能性があります
休職・失職
被疑者が公務員の場合、起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。休職中は仕事ができませんし、給与は支給されません(国家公務員法第80条第4項参照)。
そして、裁判の結果、有罪の判決を言い渡され、禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。
重い量刑
繰り返し述べていますが、公務員は全体の奉仕者として、高い倫理観が求められています。そのような公務員が犯罪を起こしたとあれば、国民の信頼を裏切るものとなります。そのため、刑事裁判においても、公務員が罪を犯したと認められた場合、その刑は重くなる傾向があります。
もっとも、公務員だからといって当然に一般人よりも刑罰が重くなるわけではありません。職権濫用罪や収賄罪等の汚職の罪は、犯罪の性質上職務の公正を害したり、公務への信用を毀損したりするものであるため、重い刑罰が定められています。これら以外の罪については、勤務外に職務とは無関係に起こした事件であれば、「公務員でありながら」「国民の信頼を裏切る」「強い非難に値する」などと指摘はされるものの、一般市民の場合と比べてそれほど量刑に違いは現れません。一方、詐欺や横領など一般市民でも行うことができる種類の犯罪であっても、職場内での地位を利用した犯罪であったり、自己の職務に関係する業務に関して行った犯罪などであれば、公務を利用した背信的なものとして強く非難され、刑も重くなります。
懲戒処分
刑事手続以外においても、犯罪を起こしたことを理由として、懲戒処分を科されることになります。懲戒処分には、戒告、減給、停職、免職があります(地方公務員法第29条第1項、国家公務員法第82条第1項)。懲戒事由としては「(国民)全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」(地方公務員法第29条第1項第3号、国家公務員法第82条第1項第3号)とされるでしょう。
なお、国家公務員法では、刑事裁判が継続中の事件であっても懲戒手続を進めることができる旨定められています(国歌公務員法第85条)。
公務員犯罪の弁護活動
公務員の弁護活動の重要性
公務員であっても他の一般市民と同じ権利を有しており、それは刑事手続であっても同様です。公務員にも黙秘権があります(憲法第38条第1項・刑事訴訟法第198条第2項)し、供述録取書の増減変更申立てもすることができます(刑事訴訟法第198条第4項)。弁護人による弁護活動も、基本的には一般市民が犯罪の嫌疑をかけられた場合と同様です。公務員にも弁護人選任権があり(憲法第37条第3項)、立会人なく弁護人と接見することができます(刑事訴訟法第39条第1項)。
一方で、公務員が犯罪の嫌疑をかけられた場合は、上記のとおり世間の厳しい目が向けられ、報道されるリスクが高まります。捜査の進展は逐次報道され、報道された供述の内容の真偽に関わらず、インターネット上で様々な憶測が広がるでしょう。被疑者・被告人に当然に認められる権利を行使しても、例えば「容疑者は取調べに対して黙秘している」など報道されることで、「反省していない」などインターネット上でネガティブな情報を拡散されるおそれも一般市民より高いでしょう。また、処分や判決によっては、失職や懲戒処分のおそれもあります。
こうしたリスクを回避するため、一層迅速適切な弁護活動を行う必要があります。
報道への対応
上記のとおり、公務員が犯罪の嫌疑をかけられると、実名で報道され、捜査の進捗状況について逐次報道される可能性が高いです。犯罪の嫌疑をかけられたとして実名をさらされ、弁解内容や黙秘の有無まで知られてしまいます。瞬く間に社会に拡散し、半永久的に残ってしまいます。結果的に不起訴となったとしても、ネガティブな情報が世の中に広がってしまい、結局現在の仕事を辞めざるを得ない事態になりかねません。
弁護人は、警察や検察に対し、報道機関に対し、被疑者の実名等個人を特定できる情報や黙秘の有無や供述内容等を発信しないよう申し入れをします。また、報道機関に対しても、こうした情報を報道しないよう申し入れをします。そのうえで、過度にプライバシーを侵害する情報であったり、実際に供述したものとは異なる内容を供述したとして報道された場合、その是正を求めていきます。
不起訴を目指す
「休職・失職」で述べたとおり、被疑者が公務員の場合、起訴されると、強制的に休職させられることがあります(地方公務員法第28条第2項第2号、国家公務員法第79条第2号)。そのまま禁錮以上の刑に処されると、失職してしまいます(地方公務員法第28条第4項・第16条第1号、国家公務員法第条第76条・第38条第1号)。
したがって、公務員の場合は、起訴されないことが何よりも重要となります。犯罪を起こしたのではないときは、不起訴(嫌疑不十分・嫌疑なし)を目指していくことになります。犯罪を起こしたことを認めている場合、被害者がいる事件では被害者と示談をする等して、不起訴(起訴猶予)を目指していくことになります。もっとも、庁舎の備品を損壊する器物損壊事件など、国や地方公共団体が被害者の場合は、示談をすることは拒否され、損害の賠償に留まることも多いです。また、収賄事件など、具体的な被害者がいない事件では、示談をすることはできません。
不起訴とはいかなくても、罰金刑のある犯罪では、罰金刑を目指すことで失職を回避することを目指します。また、100万円以下の罰金又は科料であれば、略式手続(刑事訴訟法第461条以下)により、公判前に、書面で裁判を終了することができます。この場合、休職せずに済むでしょう。
懲戒処分を避けるために
懲戒手続は刑事手続とは別のものです。そのため、刑事手続で処分されなかったり軽微な刑罰であっても、懲戒手続にて重い処分を下される可能性があります。弁護士から、担当部署に、刑事手続の結果の報告だけでなく、非行の内容が重大ではないこと、真摯に反省していること、などを訴えて懲戒処分が過度に重くならないようにしていきます。
おわりに
以上のように、公務員が犯罪の嫌疑をかけられた場合、一般の市民よりも重大なリスクにさらされる可能性が高いです。そのため、早期に弁護士に相談して対応を決めるべきです。
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